第36話 シリルの過去と暗殺者※イラストあり
後書きにイラストあり
◇◇◇シリル目線◇◇◇
「ここから今すぐ撤退しろ!」
怒り任せに言い放たれたボクの言葉。いや違う、溺れたオレの言葉。通常大人しくしているオレは、今この戦場で敵の魔族に突っ込んでいた。
オレの母親は魔族、敵と同じでもこちらは人間を愛する側の部類。穏やかなボクは黙ってろと、自然を傷つけないように剣を振るう。
生まれは人間が住む場所の外側、国と国の境にある魔界エリア出身。オレの母親は一人の人間に堕とされたという。
小さい時からオレの意識はいた。いや、これが普段の姿かもしれない。
「シリルは将来何になりたい?」
お母さんがそう言うと毎回オレはこう答えていた。
「お母さんみたいな魔王になりたい!」
だけど、人間との間に生まれたオレには、天職というものが与えられた。それは、勇者というもの。
オレ自身、勇者には興味が無かった。むしろ、魔王として勇者の邪魔がしたかった。幼少期からお母さんっ子だったのも影響しているかもしれない。
「シリル。勇者養成学校入学おめでとう」
これはお母さんが最後に放った言葉。それ以来オレは、お母さんに会っていない。勇者養成学校に入ってからは、異種族として非難された。
沸点の低いオレはお父さんの家で生活する日々。そういうお父さんは王都で騎士団長をしていた。だけど、ありのままのオレを受け入れてくれなかった。
「勇者になるなら、『オレ』とか言わない方がいいぞ!」
「どうして?」
「それは反感を思われるからだ。平常心を保たないと、相手に喧嘩を申し出ることになる。シリルは、誰彼構わず攻撃したいかい?」
「う、それは……」
お父さんの言葉の意味は、大人になってから理解した。同時に言われたのは、オレの髪はお母さん譲りで、お母さんが何よりも自然を大事にしていたこと。
それからオレは、普段使いとして『ボク』という言葉を意識するようになった。変わったのは、周りが頼りにしてくること。
だけど、どうしても自然や仲間が危機に陥った時に本来の口調に変わってしまう。抑え込むことができなくなる。
「あら、ここにも魔族がいたのね。新入りかしら?」
黒髪長髪の女性がオレに話しかけてくる。容姿には既視感があり、髪色以外の全てがミカエラ嬢と酷似していた。
「残念ながら、オレはそっちの味方になるつもりはない」
「頑固ね……」
女性は下がるどころか、刃渡り数十センチの短刀を取り出した。こちらは、ミカエラ嬢を龍神の滝壺まで導かないといけないのに。
「どうせ、ミカエラたちも来ているのでしょう? 隠れきれてないじゃない。アンタの後ろからはみ出てるわ」
「なんでミカエラ嬢のことを……!」
「なんでですって? 本当はもう気付いているんじゃないかしら? わたしは、ミカエラの姉。レイラ・シャーロットよ」
レイラ。シャーロット公爵家長女で、プロ並みの実力を持つ暗殺者。その能力は、本家ブライアントとも肩を並べるほどと言われている掃除役。
「なんで、ミカエラ嬢の姉がいるんだよ! さては……」
「ええそうよ。今回は大魔王リザークからの依頼でね。さっき来た神族は狙えないから、シリル騎士団長。ここでお釈迦になって貰うわ」
その時。彼女の姿が消えた。オレは意識を集中させどこに移動したかを目視で探す。なのに見つからない。
「遅い!」
レイラの声が耳元で聞こえた。オレの首元に刃が押し当てられた感覚。魔族の血を引いてるため、皮膚の硬さには自信はある。
だけど、スルリと違和感のある水滴が流れた。レイラが離れたところで手を滑らせると、赤い血がこびりつく。
「思ったよりも弱いのね。アンタ。混血ね」
「何故それを!」
「だって、純血だったらこれくらいの力でへこたれないもの。戦闘経験少ないんじゃなくて?」
魔族の血が武器にもなる。レイラは刃についたオレの血を振り払うように、衝撃波を発射させた。
ここで食い止めなければ木に傷跡がつく。剣でガードしたがその力は強大で、反射して自然に血痕がつく。
怒りが込み上げる。その感覚。ここで暴走すれば、オレ自身が自然を破壊する。それだけは嫌。絶対に嫌だ。
「……くッ!?」
背中を強く打ったのに気づいた時には、再びレイラに後ろを陣取られる。オレにとって背後は一番苦手なポイントだ。
「シリルさん!」
「シリル先生!」
後方でミカエラ嬢とエレンの声が聞こえた。透き通った声。聖女の囁き。ここでくたばれば、二人の命が危ない。
「お母さん……」
親の力を借りようと、オレは唱えた。オレは滝壺側に背を向け、背後を取られないようにバックする。
詰め寄るレイラ。あくまでも彼女は人間だ。
「ん〜美味し……」
「ッ!?」
滝壺から声。振り返るとそこには自宅待機中だったメウスの姿。どのようにして彼はここに……。
「あ! シリルさんお疲れ様!」
「今はそうしてる場合じゃないんだよ!」
「うー怖い怖い。あ、ちょっと待ってねー」
メウスが姿を消す。しばらくして戻ってくると、彼の手には一振の長剣が握られていた。
「そろそろエレンも実戦時期でしょ。シリルさん。これエレンに!」
「だから、悠長に……」
「じゃあぼくから渡してくるよ!」
相変わらず自由人なメウス。しかし、家にいた彼とはちょっと違う。正面に向き直ると、エレンが先程の長剣を握っていた。
「加勢します!」
「ちょっ!」
エレンを戦場に出す訳には……。怒りは消えて、『心配』の二文字が浮かぶ。エレンは勢いよく地面を蹴ると、敵を引き付け切り裂いた。
自分の教え子が戦う姿に、ボクは応援したくなる。冷静に戦えばいいんだ。背後を取られないようにするのではなく。逆手に考えて。
エレンの行動にボクは師として熱くなる。そこを剣の冷たさが安心感を与えてくれる。ボクが誘導する。それでいいんだ。
「エレン。ボクが合わせます!」
「ありがとうございます! お願いします!」
ボクは――オレは戦場を駆け抜ける。自然への安寧を。仲間の安全を望みながら……。




