第35話 龍神の滝
龍神の滝前で私たちはアダムを待った。数分後、彼は戻ってくる。地上に降りると、彼は、申し訳なさそうな顔をしていた。
「今回の件……我は参戦しかねる……」
「それはどうして……」
私は聞いた。アダムはさらに続ける。
「占拠している者が、神殺しの魔具を持っていた。我もメウスと同じ神。神殺しの剣に触れれば、どうなるかもわからん……」
「そうですか……」
「しかし、たしかにここは迷路だ。滝の周辺までは我が案内するとしよう。敵地に入ったら即座に退避する。いいな?」
「ありがとうございます」
アダムは低空飛行を始めた。私たちは梅林の奥の奥へと移動する。梅の花がちょうど咲いていた。
シリルによれば、一年のほとんどを薄紅色の花で満たされているらしい。ゆっくり慎重に入っていく。
「ミカエラさんは、梅の花は?」
「前に見たことあります。この世界の梅ではないですけど」
「そうなんですね……」
エレンにどう説明すればいいかわからなかったけど、前世でも梅林には来ていた。だけど、ここの花は形状が少し違う。
きっと、この世界の固有種なのだろう。桜よりも多めの切り込みがあり、一輪一輪が大きい。品種を知りたくなってしまう。
「ミカエラさん。もし……」
「何?」
「もし、メウスがミカエラさんを選んだとしたら、どう思いますか?」
「え?」
私はエレンの質問の意味が理解出来なかった。メウスが私を選ぶとは、どういうことなのだろうか。
「えっと、さっきのは忘れてください。僕もミカエラさんのことが好きですし。メウスも同様だし。いつも、取り合いにはなるけど」
「う、うん……。きっと、彼も早く三人で寝たいんだと思う。私と……エレンを入れて。だけど、それをまたするには、私にかかった魔族の魔力を全て消さないといけない」
「そうですね……。まずは、原因となっているものを解消する。ですよね」
「だね、エレン」
初めて会った時よりも、エレンが強くなった気がする。自分に自信がなくて、弱気だった彼。だけど、今は私を心配してくれる。
「アダムさん。龍神の滝まではあとどれくらいでしょうか?」
後ろを歩くシリルが、アダムに問いかける。アダムは高度を上げて、全体確認をしたのち。
「まだまだ先だ。ここは木々が深い。我でも迷子になりそうだ……」
「あ、あはは……。メウスい――」
「ん? ミカエラなにか言いかけてたな?」
「い、いえ、なんでもないです。アダムさん……」
だんだんピリピリした空気になってきた。今までの妄想と空想をかき消そうと、私は頭を強く振る。
アダムとメウスを比べてはいけない。わかっているけど、比較する人物を間違えている。
メウスは私たちの世界を全部知っている。対して、アダムは正反対。こちらの世界にものすごく疎いとのこと。
「もうすぐ着く。この道を真っ直ぐ進めば、龍神の滝だ」
「ありがとうございます。では、ここでアダムさんとは」
私たちはアダムと別れて、残りの一本道を歩く。だんだん滝の音が大きくなってきた。そして、魔力が非常に濃く感じる。
「ッ!?」
途端。私の視界がホワイトアウトした。目の前に広がる滝周辺の観覧エリア。そこに、角を生やした人が数百人以上いる風景。
これは、私の魔眼が見せてくれたものなのだろうか。情報量の多さに、混乱してしまうくらい頭が痛くなる。
「ミカエラさん!」
エレンの声が私を引き戻す。見える世界が元に戻り仲間の顔がはっきりした。
「大丈夫」
私は一言そう言って、状況を説明。先にシリルが様子を見に行くと言ったので、休憩を兼ねて近くの梅の木の下に座った。
「ミカエラさん。何があったんですか?」
「さっき、沢山の角を持つ人が見えて……。エレンわかる?」
「そうですね……。角があるのは、ユニコーン系の亜人種とかですけど。その角はどういう形でしたか?」
「こ、こう……湾曲してて……」
「湾曲!?」
エレンの身体が震え出す。少しして戻ってきたシリルも、妙な汗をかいていた。
「シリルさん。どうでしたか?」
私は質問を投げる。
「そうですね……。あそこを占拠しているのは、魔族です。それも、全魔族の総まとめ役。大魔王リザークの手下かと」
「リザーク?」
「はい……。彼はボクのお母さんとは犬猿の仲。お母さんは交渉でかつ人間を支援しますが、リザークは力で支配する絶対的王者です。つまり、占拠している魔族は一定以上の実力者だと考えられます」
シリルの目を見る。瞳孔の揺れはない。嘘ではない。彼の分析結果からしてこちらの勝ち目がないのは明らかだった。
「ここは、ボクが先導します。というより……。本気で戦った方がいいですかね?」
「なんでシリルさんが私たちに?」
「それは……。少々言い難いのですが……」
シリルが少し顔を赤くした。
「ボク……。カッとなると人が変わるって言われるんです……。自覚はないんですけどね……。エレンは知ってると思いますが、ミカエラさんに驚かれてはいけませんから。念の為許可を……」
「は、はぁ……」
「シリル先生は、怒ると非常に怖いですからね。沸点が低いというか……。スイッチが入ると、急に色々変わって……」
エレンが情報を付け足した。シリルが本気を出さないと難しいレベルなら、抑え込む必要はないと思う。
私は『問題ないです』と答えた。シリルは先に敵地に突っ込み、全員の注目を集めると作戦を伝えてくれる。
「では、行ってきます。合図として号令花火を出しますので、その時に出てきてください」
「わかりました」
シリルが走って敵地に入っていく。途中、暴風を起こすハイネストを発動した気配がした。
エレンが『あれは号令ではないです』と補足してくれる。『じゃあ何なの?』と聞くと……。
「あれは、シリル先生が本気を出した合図です。あの魔法で人間の姿から魔族の姿に変わるんですよ」
「そうなんだ……」
私はシリルが魔族になったところを想像してみた。エメラルドグリーンの髪に角。顔立ちのいい彼が、そんな姿をするはずがない。
そんな時大きな花火が打ち上がった。エレンが『行きましょう』と言う。私たちは走って敵地へと向かった。
そこには、二本の角を生やしたシリルの姿。チラリと見える目つきは穏やかとは程遠い、怒りのつり目になっていた。
「自然には絶対触れさせるものか!」
誰の言葉かわからない。だけど、エレンはシリルの癖と説明する。私は、シリルの様子を見守った。
「ハイネストリア! リムス! アクト!」
シリルが魔法を唱える。どれも私が知らない魔法だった。直後、巨大な風が巻き上がり、勢いが拡大していく。
だけど、木々には影響がなく。どういう訳か、敵の魔族だけがダメージを受けたようで……。
「オレが愛する自然には、絶対手を出すな!」
「シリル先生! かっこいいです!」
シリルの懸念。それは、大幅の人格改変だった。
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次回、久しぶりに主人公の姉登場!?




