第32話 大食い選手権と和食
翌日。一人で寝たからか、あまりよく眠れなかった。夜中に起きて部屋を出ると、そこにはメウスが足を引きずりながら歩く姿。
少しだけ話すとどうやら口が寂しくなったようで。そういえばメウスはお粥と梅干しか食べてないから、その分お腹が空いたのかもしれない。
一階のリビングに行くと、そこにはアイナが晩酌をしているところ。彼女は普通にお酒を飲んでいて、とても優雅な空間を醸し出していた。
そこで、私は水を一杯。メウスはアイナからお酒を少し分けて貰っていた。見た目からして十代なのに、一気飲みしているのが不思議に見える。
なのに酔った様子を見せない彼は、そのまま普通の足取りで部屋に戻っていった。そうして起きたら日差しがカンカン照りで……。
「暑い……」
外が夏なのではと思うくらいの気温で、スッキリ起きられなかった。部屋を出ると、メウスとエレンがお話中。
「メウス。龍神の滝行くとしたら、体力持ちそうですか?」
「わからないかも……。でも、行く方法は全くない訳じゃないから……」
「なら大丈夫……ですよね……」
メウスは龍神の滝に行くか悩んでいるらしい。私は二人と合流して、リビングに向かった。今日の朝ごはんは焼き魚と味噌汁だった。
異世界で日本食というのが異色すぎて、ここがどこなのかわからなくなる。少し待っていると、セリンやシリルが降りてきた。
「おはようございます。皆さん」
「シリルさんおはようございます。セリンさんは……寝癖……」
「あ? 別にいいだろこれくらい。元から天パっていうか……」
セリンは恥ずかしそうに髪を梳かす。その表情がとても愛おしく見えてしまう。
「アイナさん。ここは、普段から日本食なんですか?」
爆弾発言であることを知っておきながら、料理を運ぶアイナに問いかける。すると、彼女は頭にはてなを浮かべるような顔をした。
「日本食ってなんでしょう?」
「え?」
「ここは、元々このような食生活をする領地ですから。そこまで考えてなく……」
「だ、大丈夫です……。すみません」
私は目の前に置かれた味噌汁を手に取る。赤い色味が付いていて、赤味噌の味噌汁ということがわかる。
一口啜ると、ほんのり甘みのある味噌汁だった。異世界に転生して初めて飲む味噌汁は、とても懐かしく温かみのある味。
ベルンライト領では、食事に使う道具も違った。シャーロット領ではナイフやフォーク。スプーンが基本だが、今目の前には箸がある。
箸を見た事がないらしい、シリルやセリンはどう食べようか頭を抱えている様子。そこをアイナが優しく指導していた。
そして、意外にも……。
「ミカエラ。箸の持ち方間違ってる!」
「メウス!?」
「ここをこうしてこうだよ!」
メウスが魔法で無理やり私の右手を操作し、正しい持ち方に変えさせられた。メウスが箸の持ち方わかるなんて、予想外だった。
「お母さん。梅干し忘れてる」
「あらまあ。ほんとね。ちょっと待って、持ってくるから」
「うん!」
エレンが梅干しをリクエストする。公爵家で洋風な内装なのにも関わらず、和食を食べる。これが、なんとなく楽しい。
アイナが梅干しを持ってくると、エレンは二個持っていった。私も一つもらい、ご飯と交互に食べる。
「ミカエラさん。この梅干しは柔らかいから、小さく切って焼き魚と一緒に食べてみて」
「ありがとう。エレン」
「どういたしま――」
「エレンが梅干し二個食べるなら、ぼくはもっと食べるぞー! うー酸っぱい……!」
相変わらずメウスはエレンと張り合うらしい。ある程度疲れが取れたみたいだ。
だけど、魔法で私の手を動かしたから、触れる状態ではないみたい。もしくは、触るのが怖いのか。
「メウス。あまり多く梅干し食べると逆効果ですよ」
「エレンに言われたくないやい!」
「そのセリフ。二回目ですけど……」
「数えないで!」
梅干しの影響か。メウスはどんどんお米を口に入れていく。結果、彼は食べ過ぎでぶっ倒れていた。
「ほら、言った通り……」
「うぅ……」
だけど、しっかり腹八分目にできてるようで、体調不良までは行かなかった。とりあえず一安心。
すると、玄関の開く音がした。そこから入ってきたのはアダムで、どうやら話があるらしい。
「メウスは……」
「あそこでぶっ倒れてます」
「なにぃ!?」
アダムはメウスを真っ先に探しているようで、見つけるや否や『毒が盛られたのか』と連呼していた。
「アダムさん。メウスは食べ過ぎで倒れているだけです。僕もまさかあそこまで食べるとは思いませんでしたけど」
「どれくらい食べたのだ?」
「ご飯茶碗大盛り五杯ですね」
「なんと!?」
エレンはアダムに下手に動かさないよう注意した。すると、諦めたのかアダムは立ち上がる。
「ところで、アダムさん。龍神の滝って知ってます?」
空気を読んで、エレンがアダムに質問する。
「龍神の滝とは?」
「はい、メウスの部屋に絵が飾ってあって……。彼がそこなら回復できるかもしれないと……」
アダムは首を捻って考え込む。私は食べるのに夢中で会話の中へ入ることすら出来ない。だけど、こういうのはエレンが適任と見た。
「龍神の滝って、ベルンライト領の観光地ですよね。ボク昔行きました。ボクのお父さんがお母さんにプロポーズした場所ですね」
箸の使い方に慣れてきたらしいシリルが割り込む。プロポーズスポットとして有名な観光地というのは初耳だった。
アダムは『なぜそこを選ぶ』とエレンに向けて問いかける。するとエレンは『メウスが復活できるかもしれない』と答えた。
「そうか……。ならば我が偵察に行くとしよう。何も情報なく行動すれば、問題が起こりかねない。有力なものがわかり次第共有する」
「ありがとうございます」
アダムは玄関から出ていき姿を消した。私たちは、その後も様々な会話をする。そこでも、エレンはものすごく大食いで……。
「お母さん! 次!」
「これでは米がいくらあっても足りないねぇ。エレンの食欲には困りものだよ」
「『あはは!』」
食卓はものすごく明るくて、穏やかな朝になった。
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次回。メウスが再びダウンしたところで、ミカエラは情報収集へ!




