第2話 シャーロット公爵家
どうやら、私はシャーロットナンチャラってところに生まれるみたい。
だけど、長いトンネルを進むに連れて、記憶が浄化されていくのはなんで?
「フランよく頑張った。可愛い女の子だ。レイラも来い! ものすごく可愛いぞー。ほれ」
白と黒のまばら髪をした男性がそんなことを言う。これが私の新しいお父さん? もしかして、シャーロット家の人かな?
「おとうさま。この子が本当にわたしの妹なのですの? 髪の色が全く違うじゃない」
ちょっと、嫌味言わないでよ。つまり、私って、もう既にいる姉に似ていないってことだよね。
髪色が違うだけで言われるのは正直に言って嫌。そこは喜ぶところなのに、まあ、私も状況を理解しきれてないのだけど。
「エルヴィン。説明してあげなさい。この子は私の血を強く引いてるって」
「それはそうだな。この子は顔や髪もフランに似ている。きっと逞しい子に育つだろうな」
白黒髪の男性の名前はエルヴィン。名前の音的にも横文字だし、ことのつまりは、エルヴィン・シャーロットってことね。
「おとうさまったら、妹のことばかり! わたしだって、いつかはおかあさまみたいに強くなるんだから!」
レイラがヤキモチ妬いてる。それもそっか。生まれたての子供を見たのは初めてみたいだし。
とりあえず、声を出してみる。
「あう! あう!」
うん。赤子だから発音できる音少ないね。少しずつ覚え直していくことにした。
「フラン。レイラ。赤子が喋ったぞ! そろそろ名前を決めないとだな。良い案はないか?」
「そうね……。レイラに名付けて貰いましょ」
「わ、わたし? こんな見た目違いの子につける名前はないわ」
ついにお姉ちゃん、ヤキモチ限界突破。加えて、また嫌味言われた。正直泣きそう。泣かないけどね。さらに嫌な予感しかしない。
「まあ。レイラ。この子はお前の妹なんだぞ?」
お父さんがお姉ちゃんを引き留めようとしてくれたみたいだけど……。時、既に遅し。
お父さんとお母さんは、私の顔を見て困り顔。そんなにじっと見つめられると、照れるんですけど……。
赤子の感情は最小限だけど表現力は最強です。よって、最悪状況確定ってことで、無言貫きます!
「仕方ない。私が付けよう」
「エルヴィン貴方が?」
「ああそうだ。レイラという名前はフランが付けただろう。今回は私の番だ」
「わかったわ。どんな名前でも受け入れましょう」
「ありがとうフラン」
天井を見つめるしかできない私。なんか面白くない。目をキョロキョロさせても、両親の顔しか見えないから、これも面白くない。
「では、ミカエラというのはどうだ?」
「ミカエラ……。良い名前かもしれないわ。この子の名前はミカエラ。ミカエラ・シャーロットね」
「ミカエラ。ようこそ我が家へ。今日から君は、シャーロット家の次女だ。元気に大きく育っておくれ」
こうして、私の新しい名前がミカエラに決まった。それからはというものの、人生のやり直しレベルでめんどくさいことになった。
まずは歩き方。ここは公爵家ということもあり、礼儀作法には非常に厳しい。前の世界の楽さが嘘のように思えてくる。
挨拶の仕方。口調に態度。それは全部決められていて、いちいち嫌気がさしてくる。こういう生活になるなら、先に教えてよ……。
「ミカエラ。これはなんて読むかな?」
礼儀作法の次にめんどくさいのは、異世界語の勉強。耳で聞こえるものは日本語なのに、紙に書いた文字はまるで読めない。
英語によく似た文字なんだけど……。どこか歪で模様にも見えなくは無い。それが全部で150音あるって、この世界正気なの?
「ミカエラ。無理しなくてもいいんだぞ?」
「わ、わかっ……りました……」
この家庭では、親に対しての敬語が徹底されていた。これは、どこの公爵家でも同じらしい。
少し前までは年相応にしようと『パパ』という言葉を使っていた。しかし、その度に指摘され直されてきた。
ここでは、父をお父様。母をお母様と呼ばないといけない。唯一許容してくれたのは姉のレイラを呼ぶ時くらいだ。
私は彼女をお姉ちゃんと呼んでいる。本人からは「お姉様と呼んで」と言われているけど、お父様が間に挟まってくれた。
「お、ミカエラ。レイラが帰ってきたみたいだぞ? 休憩がてらに遊んでこい」
「ありがとうございます。お父様」
私は走って玄関に向かった。大きい家の中を走るのは楽しい。こじんまりとした一軒家ではなく、それなりの豪邸なだけで……。
外は畑だらけ。これが公爵家だとは思わなかったんだよね……。もっと薔薇園とかあるんだと思ってたけど、そこは悲しい……。
「お姉ちゃん!」
「はぁ……。なによ」
「一緒に遊んでもいいですか?」
「は? 狩りは遊びじゃないわよ……。それに、まだ二歳のミカエラには無理」
お姉ちゃんは遊びが狩りだけと考えているらしい。他にも遊びがあると思うのに……。お姉ちゃんの視野はピンポイントすぎる。
そんな彼女の腰には、革のケースに入った小刀。どこからか、血なまぐさい臭いがしてくる。
お姉ちゃんが後ろを向いて外に出ていく時、背中の中心から真下にかけて、血の飛沫跡がついていた。
お姉ちゃんは私よりも四つ上。六歳だ。それで血を被っている。それも普通に全く気にしていないように。
「お姉ちゃん。また……」
「連鎖維持のためよ。増えすぎた生き物を殺すのは、使命の一つよ。覚えておきなさい。それに、わたしはあと二年すれば天職につく。お母様の天職と同じになるのを希望しているわね」
これがこの世界の六歳が言う言葉か。私だったら、どう反応するだろうか。お姉ちゃんがどうして、生き物を殺すのか……。
「とりあえず、わたしは解体作業があるから。失礼するわ」
「お姉ちゃん!」
「なによ……」
本当は見たくない。動物を解体するところを見たくない。だけど、これが近く役に立つと、頭のどこかで言っていた。気がする……。
私はお姉ちゃんの後ろを歩き、捕らえてきた動物の山を見つめる。今日の大物は大きな熊だった。これをこれから解体するらしい。
「危ないからどいてなさい」
「はい。お姉ちゃん」
熊を山から引き摺りおろす。そして、毛皮を剥ぎ始めるお姉ちゃん。彼女の身体がどんどん赤黒くなっていく。
地面にも血溜まりが出来上がってきていた。毛皮を剥ぎ終わらせると、それを一人で引っ張って、少し離れた場所に移動。
二歳の私にできることなんて、何も無いんだけど……。それでも、お姉ちゃんは『訓練だと思って手伝いなさい』と言う。
テクテク歩いて毛皮を握ると力いっぱい引き摺っていく。約一メートル進んだところで、手を離した。
「ミカエラ。この熊どう解体するかわかるわよね?」
「う、ううん……。わかんない……」
「使えないわね……」
お姉ちゃんは、首のところに刃を入れ腕を突っ込んだ。噴出する血。六歳にしては容赦なく力も強い。
作業はあっという間に終わった。熊の肉塊は全部で三十部位から四十部位になっていて、これを二人で家の中に運ぶ。
お姉ちゃんの大手柄のおかげで、今日の夕食は熊肉になった。前の世界では熊肉なんて食べたことがない。
薄切りにしたからか、肉はパサパサしていた。
「そういえば、ミカエラは熊肉初めてだったよね?」
お母様がそう言う。私は小さく頷いた。聞けば、最近熊被害が多発しているそうだ。そこで、お父様がレイラお姉ちゃんに依頼したらしい。
「レイラ。熊を狩ってどう思った?」
「そうね……。図体が大きいのにしては、動きがワンパターンで貪食だったわ。ただ、近接戦闘向きのわたしには不利ね……」
「そうか。では、次は隠密行動のコツを覚えるといい」
「承知しました。お父様」
お姉ちゃんの意志には、強いものがあった。だけど、私には到底動物殺しなんてできない。動物も生きている。その命を頂くことだけは……。怖い。怖くて――。
この日の夜は眠れなかった。夢でお姉ちゃんが多くの命を奪う姿を見たから。それが、非常に怖い。
怖いのに。心から怖いって叫びたいのに、目を逸らすことができなかった。
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次回、英才教育!




