83.対氷雪龍
香織と咲は氷雪龍ニィクス・グラキエースと戦っていた。香織は、火属性の魔法を使い、周りの雪を溶かすと、すぐに海蛇で支配下におき、氷雪龍に向かって放った。
氷雪龍は、ブレスを吐き、香織の操る水を凍らせる。その真上から、咲が氷雪龍の首を叩き斬ろうと、黒百合を振う。氷雪龍は、身体をくねらせ、尻尾で咲を払う。攻撃から防御にシフトした咲によって、その攻撃は防がれた。
「もう! せっかく海蛇を使ってるのに、凍らせられたら意味ないじゃん!!」
「氷雪龍って名前なんだから、そのくらい予想出来るでしょ?」
「むぅ! 作戦変更!」
香織は、海蛇を腰に括り付け、アイテムボックスから火臨を取り出す。
「氷には、火!」
「慣れてないんだから、無茶しないようにしなさいよ?」
「大丈夫だよ。棒だったら、結構慣れてるから」
「まぁ、私もフォローするから、頑張るわよ」
咲も香織に習い、炎月を取り出して、黒百合との二刀流になる。そんな中、氷雪龍は、香織達を警戒して唸っていた。
グルルル……
最初に動いたのは、氷雪龍だった。口を開き、最初に放った雪のブレスを放ってくる。それに対して、香織は、火臨を回転させる事で防ぐ。火臨に触れたブレスは、瞬く間に水へと変化する。そして、腰に括り付けた海蛇の能力だけを意識して発動することで、その水を操る。
「くらえ!!」
香織は、溶かした水を一気に温度を上げることで水蒸気へと変える。即席で作った水蒸気の煙幕だ。その中を咲が走り、一気に氷雪龍に接近する。水蒸気の中から現れた咲は、赤黒いオーラを纏い額から角を生やしていていた。
「ふっ!」
咲の二刀による二撃は、氷雪龍に大きな傷を与える。
ギィアアアアアアアアアアアアア!!!!
氷雪龍の叫び声が響き渡る。その傷目掛けて、香織の火臨による一撃が打ち込まれる。斬撃系の攻撃ではないので、傷を深くするようなことは出来なかったが、痛みに敏感になっている箇所への追撃なので、更なる痛みを与えることが出来た。
氷雪龍は、痛みに悶えながらも傷口にブレスを吐くことで、無理矢理止血を施した。
「大きな傷は与えられてるけど、氷雪龍自体が大きくて、致命傷になってないよね?」
「それに、すぐに止血されるから、失血死も見込めないわね」
「あまり、山を弄らない方が良いよね?」
「そうね。下手したら、山自体が崩れ落ちる可能性もあるから、京都の時の様な事はしない方が良いわね」
香織が出来るようになった土地の支配。それをここで行うと、山そのものが崩れ落ちる可能性が発生する。それは、今、この山を登ろうとしている焔達や玲二達を巻き込んでしまう可能性がある事を指している。
「じゃあ、久しぶりだけど、接近戦で戦い続けないといけないみたいだね」
「私は、いつものことだけどね」
水蒸気による煙幕がなくなり、氷雪龍の怒りの形相が現れる。
ガアアアアアアアアアアアアア!!!!
氷雪龍は、口を大きく開けて、香織達を噛み砕こうとしてくる。それを下から襲い掛かってきた鎖に阻まれた。大きく開いていた口は、香織の束縛の鎖が雁字搦めにして塞ぐ。
「追加だよ!」
香織は、氷雪龍の上に移動して、束縛の鎖を何本も落とし、身体に巻き付かせる。その形状は、氷雪龍の口を塞いでいるものと違い、鎖素子の一つ一つが大きくなっている。
「『爆破』!!」
香織がそう叫ぶと、身体に巻き付いていた束縛の鎖の鎖素子一つ一つが、連鎖的に爆発していく。香織の新作『束縛の鎖・爆』だ。
ギィアアアアアアアアアアアアア!!!!
香織は、地面に落ちた氷雪龍に新たな鎖を落としていく。その先端は、鋭く尖っており、返しも付いている。氷雪龍に絡みつくと、先端が地面に突き刺さる。氷雪龍が藻掻くが、中々抜け出せない。相手を地面に縫い付ける『束縛の鎖・縫』だ。
「咲!」
香織が上を向いて呼び掛ける。香織よりも頭上から咲が降ってきている。紫色のオーラを纏いながら。咲は、空中を蹴って加速していく。
「はあああああああああああああああ!!!!」
咲は、氷雪龍の首目掛けて落下し、鞘に仕舞っていた黒百合を抜刀した。空から落ちてくエネルギーが加算された咲の一撃は、氷雪龍の首を深々と抉った。氷雪龍の首は、皮一枚で繋がっている状態だ。
氷雪龍は、ビクビクと震えて絶命した。
「いえ~い!」
氷雪龍の傍に着地した咲に香織が両手を挙げて近寄った。咲も同じように手を挙げて、ハイタッチをする。
「ところで、この吹雪って止まるのかしら?」
「さぁ?」
香織達の周りは、二人も気付かぬ内に、吹雪が猛烈に吹いている。
「……頂上に向かう?」
「そうね。空から行けば楽だと思うわ」
香織と咲がそう言ったと同時に、吹雪が更に酷くなった。それは、二人が地面に踏ん張らないといけないくらいに。
「素材を回収して、野営するわよ」
「そうだね」
進むのは無理と判断した二人は、氷雪龍を回収すると、香織が錬成した即席のかまくらの中に避難した。二人には、環境適応のスキルがあるので、凍死することはないので、特に焚き火を熾すということもしていない。
「皆、大丈夫かな?」
「的確な判断を出来る人が多いもの、大丈夫よ。問題があるとしたら、こんなに簡単に雪風を防げるものを作れる人が少ないことかしら」
「そうだよね」
そう言いながら、香織は咲に近づいていく。
「どうしたの?」
「ん? 久しぶりの二人きりだなぁって」
「テントの中じゃ、いつも二人きりでしょ?」
「周りに誰もいないのは久しぶりじゃん!」
香織は咲に抱きつく。
「そんな呑気な事いってる場合?」
「でも、現状どうしようもないでしょ?」
「吹雪を止ませる道具とか作れないの?」
「…………」
咲が香織に訊くと、香織は笑顔から一転、真剣な顔になった。
「吹雪を止めるか……天候に干渉するということだよね。いつも雷を振らせるために雲を集めてるけど、それとは逆、雲を散らす感じで良いのかな……でも、どうすれば良いんだろう? 雲って水蒸気の塊みたいなものなのかな……?」
香織は、ブツブツと呟き始めた。考えをまとめようとしてるだけなので、全くの無意識である。
「そもそも、雷の時を考えれば良いのか。あれは、終わった後、逆の工程を踏むことで雲を散らしてる。なら、その工程だけを抽出して、道具に刻印するのが良いかも。晴天に出来るかは分からないけど、今よりマシには出来るかも。でも、自分で使う方が、効果が高いかな……?」
香織は、完全に自分の世界に入ってしまった。そんな香織を咲は優しい目で見る。香織のこういうところも好きなので、大して気にならないのだ。
「よし! ともかくやってみよう!」
香織はそう言うと勢いよく立ち上がり、雪の中に頭を突っ込んだ。
「むぐっ……!」
「全く……何をしてるの……」
これには、さすがに咲も呆れ顔だった。
「かまくらにいたの忘れてた。それはともかく、吹雪を止めてくるね」
香織は、外に出て空に手を掲げる。やることは、雷を振らせるときと逆の工程。雲を発生させ集めるのではなく、散らしていき消す。上手くいくかは、まだ分からないが、試してみるには良い機会だった。
香織の天候操作によって、段々と晴れ間が見え始める。そして、空にある雲が消えていった。しかし、吹雪は、勢いが弱くなったものの吹いている。
「あれ? 空は晴れてるんだけどな?」
「前に本で読んだ事があるわ。空からの降雪じゃなくて、地面に降り積もったものが強風で巻き上げられる事で、視界が奪われるらしいわよ。地吹雪って言ったからしら」
「あまり意味なかったかな?」
「猛吹雪は収まったから、多少の意味はあると思うわよ。このくらいだったら、進めるわね。頂上を目指して上がっていきましょう」
「うん!」
氷雪龍を倒し終わり、吹雪の勢いも弱めたところで、香織達も頂上を目指して空を駆け出した。
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