81.大雪山国立公園
野営をした翌日、香織達は大雪山国立公園の入口と思われる場所に辿りついた。
「ここが大雪山国立公園?」
「何というか、壮大ね……」
香織達の目の前には、大きな山が聳え立っていた。その向こうにも、それ以上の山が見える。
「元々山が連なっていたんだが、二年前の変異の際に、山が巨大化して、ダンジョン化した今、さらに巨大化、複雑化している」
山を見上げる香織達に、大紀がそう説明した。
「中に入った事がある人はいるんですか?」
「いるにはいるが、全員戻ってきていない」
「じゃあ、中がどうなっているかは未知数って事ですね」
質問をした香織は、地図とコンパスを取り出す。
「さてと、核の位置はっと……」
コンパスは、一方向を向くだけだった。
「今回は、核そのものが置いてあるみたい。えっと……この方向で、ありそうな場所に心当たりはありますか?」
「え……お、おう。えっと……」
大紀は、香織に地図を見せられて心当たりを訊かれると、少しどもりながらも考え込む。香織は、少し様子のおかしい事に気が付く。しかし、何も言わず、そのままにしておいた。知り合って間もない自分が指摘するようなことでもないと思ったためだった。
「確か、旭岳と黒岳が、この方向にあったはずだ」
「高い山ですか?」
「旭岳が一番高かった記憶がある」
「う~ん、頂上にあれば、分かりやすいんだけど。登るのが面倒くさいなぁ」
世界が変異する前であれば、登山道やロープウェイなどがあったはずだが、世界の変異とダンジョン化によって、滅茶苦茶になっていると思われるので、自力で登るしかない。
「ここから狙い撃ち出来ないのか?」
大紀が香織にそう尋ねた。
「無理ですね。そもそも核の正確な位置が分かってるわけではありませんし、デタラメに魔法を撃つと、取り返しのつかないことを引き起こすことになるかもしれませんから」
「そう……なのか……」
大紀は、少し意外な顔をしつつ、納得した。
「香織、大体の方向は分かったか?」
冒険者達の編成を整えていた玲二が、香織の方に来る。それと同時に、大紀が気まずそうな顔になっていった。
「向こうの方、このままだと山を登るか、迂回するかになるかな」
「登山の方は、厳しいだろうな。迂回ルートで行こう。先頭は任せても大丈夫か?」
「うん。大丈夫。なるべく平坦に近い場所を歩いていくよ」
「頼む。移動するぞ!」
『『おう!!』』
玲二の号令に冒険者達が応える。
山々を迂回するような形で香織達は、脚を進めていく。
「川越さんと何かあった?」
「どうしてだ?」
先頭を歩いていた香織は、後ろにいる玲二に声を掛ける。
「川越さんの様子が、昨日までと少し違うから」
「そういうことか。昨日の夜に少し揉めてな。正直、こっちも大人げないと思う」
「はぁ……仲直りしておきなよ? これから、何度も顔を合わせるかもしれないんだし」
「まぁ……そうだな」
香織は、それだけ言うと、前にいる咲の腕に飛びつく。いきなり飛びついたため、驚いた咲は、香織に注意する。笑顔で「ごめんごめん」と言う香織に、咲は仕方がない子だという風に、優しげな眼差しになる。
(香織の言うとおりだな。これからの事を考えれば、和解は必須。後で、しっかり謝っておくか)
香織達の後を追いながら、そう考えていた。
しばらく歩いていると、不意に香織が脚を止めた。
「どうしたの?」
隣を歩いていた咲が、香織に訊く。
「コンパスの針が後ろ側に向いた。通り過ぎたって事だよ。ここからは、登るしかない」
「そうか。ここからは、山登りだ! 体調の変化などに気を配れ! そして、ダンジョン内への侵入にもなる! 警戒は密にしておけ!」
『『おう!』』
香織達は、大雪山国立公園に脚を踏み入れる。その瞬間、香織と咲の背筋に寒気が走っていった。
「咲、今の感じた?」
「ええ、この感覚……本気の酒呑童子と戦った時に似ている気がするわ」
「ここもやばいモンスターがいる可能性があるね。焔、星空の傍にいて、離れないように。星空も焔の近くにいるようにね」
「分かりました」
「分かった」
香織は、ダンジョンに入った瞬間に感じた感覚から、焔と星空を常にツーマンセルにする。二人の連携なら、茨木童子レベルのモンスターが現れても対応出来るからだ。
「ここからは、絶対に前の人についてきて。はぐれたら、助けることが出来るか分からない。いや、むしろ、ダンジョン側が積極的にはぐれさせて各個撃破してくる可能性もある。注意して」
香織は、自分が感じたことなどから考えられる最悪の事態を説明し、全員に、はぐれないようにと注意を飛ばした。
「香織の指示は聞いたな!? 周囲警戒しつつ、前の人間について行け。絶対に離れるなよ!」
玲二が、冒険者達に二重で指示を飛ばすことで強調する。香織が指示することはほとんどないので、玲二としても軽視することは出来ないのだった。
「じゃあ、進んで行くよ」
香織達は、旭岳へと脚を踏み入れた。
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旭岳の登頂は、意外と順調だった。ステータスの恩恵によって、強化された体力、筋力、持久力は、登山でも有効だったのだ。途中、熊や鳥のモンスターが襲い掛かってきたが、冒険者達でも問題なく対処出来るレベルだった。
「これで、帰ってこない人達が出てくるなんて、何かモンスターじゃない要素があるのかしらね」
「ダンジョン効果?」
「そうね。迷いの森みたいな効果があれば、一生出てこられないなんて事もあり得るけど、そんな感じもしないわね」
「入る場所によって色々と変わるのかもね」
「なるほど、東京と同じパターンということね」
香織が想定したのは、東京のように様々なエリアに分かれているということだ。この公園自体が、かなり大きいものというのは、大紀から聞いている。そのため、様々な区分に分けられている可能性は意外と高いのだ。
「そうなると、私達がいるこの場所が、どんな効果があるのかってことになるわね」
「毒もないし、迷う事もない。魔法禁止エリアでもない。後は……なんだろう?」
「強制転移はどうでしょう?」
話を聞いていた焔が、そう言った。
「あれは、ボスを倒した時に発動するものだから、可能性はあるね」
「ということは、ボスモンスターに注意しないといけないわね」
話ながら、香織は背後を振り返った。全員がついてきているかの確認だ。
「全員ついてきているね?」
「ああ、大丈夫だ。今のところはぐれた奴がいる報告はない」
「後は……ボスが異常に強いとかかな?」
「案外、それが一番辛いかもしれないわね。酒呑童子クラスだったら、死闘になる可能性があるわ」
「気を引き締めないとね」
香織達は、周りの警戒を密にしつつも、核に近づいていった。そして、六時間程掛けて、中腹まで登ることが出来た。
「大分登ってきたわね。核の場所の予測は付きそう?」
「う~ん、針がぶれてないから、まだ真っ直ぐで良いはずだよ。高低差が分からないから、頂上にあるとは限らないんだけどね」
「でも、ここ周辺にある事は、ほぼ間違いないわよね。さっき、位置を確認した場所がここで、今がここだから、直線で結ぶと、この場所で交わり合うわ」
咲が、地図を広げてそう言う。
「だとしたら、やっぱり頂上の可能性は高いね」
「つまり……そろそろボスが現れてもおかしくないということね」
咲がそう言うと同時に、頂上の方から何かが咆哮している声が聞こえた。
ガアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
冒険者達が一斉に身構える。香織達も声の聞こえた頂上の方向を見る。そこには、白い鱗を纏った龍がいた。今までの龍と違い、東洋の身体が長い龍だ。
名前を、氷雪龍ニィクス・グラキエース
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