59.いざ京都へ
京都に行くまでの二週間の間に香織と咲は、家の庭で万里と恵里を徹底的に鍛えた。香織の回復薬があるので、多少の怪我はすぐに癒やせる。万里と恵里は、何度も怪我を負いながら、香織達の修行に耐えた。
「よし! これで終わり! じゃあ、明日は朝にギルドに集合ね」
「わ、分かりました……」
「…………」
立ったまま腕を組んだ香織が、地面に伏せている万里と恵里にそう言った。恵里は何とか返事をしたが、万里の方は返事をする気力も残っていなかった。咲の指導が厳しかったからだろう。
「結構強くなっているはずだけど、まだまだ赤龍と同じくらいというところね」
「それって、かなり強いんじゃ……」
咲の言葉に、万里は、少しだけ元気を取り戻し、身体を起こした。
「進化の権利を使ったのなら、ここまでは容易く辿り着けるわ。ここからは、今までと同じで努力しないと強くなれないわよ」
「うぅ……」
元気を取り戻したはずの万里は、一転再び地面に伏せってしまう。
「まぁ、多分私達が中心に戦うと思うから、二人は、直接戦う事はないかもしれないけどね」
「そうかもしれませんけど、やっぱり、香織さん達に任せきりにするのは……」
「うん。いつもそうだもん」
万里と恵里は、今までの戦いの全てが、ほとんど香織と咲に任せきりになってしまっていることに少し罪悪感を抱いていた。
「まぁ、この前の天の声で私達が特別強いことが分かったし、あまり気にしなくて良いと思うけど」
「そうね。同じくらいのレベルなのに、強さに差がつきすぎていて、疑問に思ったこともあったわね」
香織と咲は、自分達が何故強くなったのか。はっきりとした答えを今まで持っていなかった。しかし、この前の天の声によって、自分達が開けた宝箱が要因である事が確定したのだ。
「それでも、二人におんぶに抱っこになるのは違うと思う」
「うん。私達も頑張って強くならないと」
万里と恵里は、互いの顔を見て頷く。和やかな空気が流れてきたとき、
「マスター、ご飯が出来ましたよ」
家のリビングに繋がる戸から焔と星空が顔を出す。
「分かった。二人は? 食べて帰る?」
「ううん。お母さんがご飯作ってるから、もう帰る」
「今日もありがとうございました」
「二人とも帰り道に気を付けて」
万里と恵里は、修行を終えて自分達の家に帰っていった。
「じゃあ、私達もご飯にしよう」
「そうね。その前に、手洗いを忘れないようにね」
香織達も夕食を食べる。そして、次の日、香織、咲、焔、星空は、冒険者ギルド本部の前にいた。
「意外とでかい」
「星空は初めて見るんだっけ? これが、冒険者ギルドの本部だよ」
「確か、香織が再建したのよね?」
「うん。赤龍に破壊されたからね。これが、ないと周辺の住人が困るから」
ギルド本部を香織が造ったと聞いて、焔と星空が驚く。
「マスターが造ったのですね。初めて聞きました」
「すごい」
焔と星空のキラキラした目が香織に注がれる。
「私は錬金術師だからね!」
焔達の羨望の眼差しに香織は胸を張って威張る。咲は温かい目で三人を見守っていた。
「香織さ~ん! 咲さ~ん!」
「焔ちゃ~ん! 星空ちゃ~ん!」
向こうの方から、万里と恵里が走ってきた。その後ろからは、二人の両親がついてきていた。
「万里ちゃん、恵里ちゃん、おはよう」
「おはよう!」
「おはようございます!」
二人は香織と咲に朝の挨拶をすると、すぐに焔と星空の方に向かった。そして、四人で仲良くお喋りを始める。
その間に、二人の両親が香織達の元に来る。
「香織さん、咲さん。娘をお願いします」
両親は、そう言うと香織達に頭を下げた。
「出来る限りの事はします」
「はい。お願いします」
香織と咲は両親と握手をして別れる。両親はギルドの中に入っていった。
「無責任ね」
「そうだよね。でも、必ず守りますなんて言えないしさ」
「それもそうね。私達も自分のことで精一杯になるかもしれないし」
「そう考えたら、任せてくださいなんていえないよね」
「良くも悪くも正直者ってことね」
香織と咲が話していると、ギルド内から続々と人が出てき始めた。
「おっ! 香織! 咲!」
その中から玲二が顔を出した。
「坂本さん、もう行くの?」
「ああ、先発隊は既に向かっている。俺達は、皆が行った後に最後の班として行く。それまでの道のりで出現するモンスターは、先発隊が間引いているから特に気にしなくても良いだろう」
「それは、私達の体力とかを極力残しておこうって事?」
「ああ、向こうでも、一日休みは取るつもりだが、疲れが翌日に繰り越すのを確実に防ぎたいんだ」
玲二は、今回も香織達がボスを倒す事になると思っているので、全力で戦えるようにしておこうと思っているのだ。
「へぇ~、別にそこまで気にしなくても、消費した体力を戻す薬とか作れるよ?」
「それって、ドーピングみたいなやつだろ? 俺達の生産職組も作れるから知ってるぞ」
「香織のは、副作用なしなんです」
「えっ!? そんな事出来るのか!?」
これにはさすがに玲二もびっくりだ。香織達が言っている薬は、体力回復薬のことだ。傷を治すものと違って、消費した体力を回復させるだけの薬だ。一般的な体力回復薬は服用の一時間後に、猛烈に身体がだるくなるのだ。それが大体、一時間ぐらい続く。
しかし、香織の作る体力回復薬は、その副作用がない。つまり、単純に体力が回復するだけなのだ。
「スキルが進化したからね。効力がおかしいくらい跳ね上がったり、副作用がなくなったり、便利だけど店頭に並べられないんだよね」
「贅沢な悩みだな」
玲二の後ろから里中が現れる。
「里中さん」
「その効力なら大金をはたいても買う奴はいるだろう。あまり言いふらすなよ?」
「分かってます。でも、二人ならそういうこともないでしょう?」
玲二と里中は、目を丸くした。
「まぁ、そうだな」
「ああ」
「さて、大体が出発し終えたな。俺達も行くぞ」
「分かった。焔達! 行くよ!」
香織達も京都へと出発する。その道のりは東海道に沿ったものだ。移動の予定時間は、途中の野営も含めて大体一週間強だ。
「こんな世界になってから、西日本に行くのは初めてだけど、歩いて行くのってだるいね」
「車や電車がないんだから仕方ないでしょ? 鉄道自体は確保出来たって話も聞いたことあるけど、線路が破壊されていてまともに走れないらしいわよ」
「ああ、そういえば、一年くらい前に壊れていない電車を見つけたって報告があったな」
「確か、うちの元整備士が確認して走れる事が判明したんだったな」
香織達大人組(約一名見た目が高校生だが)は、話ながら歩いていた。山道の急斜面を。
「何で……、香織さん達は……、あんなに元気に歩けるの……?」
「まぁ、マスター達だからかな?」
「うん。それに、あっちは大人、こっちは子供。鍛え方も違う」
「焔ちゃんと……星空ちゃんも……元気だけど……ね」
万里と恵里は、急斜面を必死の思いで歩いていた。焔と星空は、その二人を支えるために歩調を合わせている。
「大体、線路が繋がっていても、電車は動かせないだろうな」
「どういうことですか?」
里中の言葉に香織が首を傾げる。
「電気がない」
「ああ……」
電気に関しては、盲点になっていた香織は遠い目をして唸った。
「仮に蒸気機関車でも、燃料の問題があるわ」
「う~ん、移動速度を早く出来れば、人の動きも活発になるんだけどなぁ」
「考えられる一番の手段は……自転車だな」
「そうしたら、平坦な道が必要になりそうだね」
「そういや、香織から頼まれたやつの調査結果が一部だけ出たぞ」
香織と咲の目が玲二に向く。
「油田についてだが、静岡に一応あるにはあるらしいんだが、実際に使い物になるかどうかは分からないらしい。取れる量が少ないようでな」
「取れるには取れるんでしょ?」
「ああ、採掘すれば取れるらしい」
「う~ん、燃料については何かから精製するのがいいかもしれないね」
「燃料の精製か……俺達も何か出来ないか考えておこう」
香織達が話ながら歩いていると、最初の野営地である箱根まで辿り着いた。香織達大人組と焔、星空は、大して疲れていなかったが、万里と恵里はかなり疲れていた。
「大分、体力がついたと思ってたんだけどなぁ……」
「すごく疲れちゃった……」
「慣れない道だったからね。坂道でダッシュとかやっておけば良かったかな?」
「私もそう思ったわ」
疲れ果てている二人に香織と咲が申し訳ないという風にそう言った。
「せっかく箱根に来たから、温泉にでも入るか?」
「「温泉!?」」
何気なく言った玲二の言葉に、万里と恵里の目がギラッと輝く。
「あ、ああ、一応先に行ってた奴らが、温泉を囲いで囲っているはずだから、入れるようになってるはずだぞ。予定では、あっちだ」
「「行ってくる!」」
一気に元気になった万里と恵里は、玲二が指さした方にすっ飛んでいった。
「……心配いらなかったみたいだね」
「……そうね」
香織達の京都への行程は、まだまだ序盤だ。
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