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変わってしまった現代で錬金術師になった  作者: 月輪林檎
第一章 変化と解放

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55.襲撃による被害

 黒龍とリヴァイアサンを討伐した香織達は、一部の冒険者に避難所への報告を任せて、街を見下ろせる高台にいた。


「リヴァイアサンを倒したのは良いけど、この水害はどうするの?」

「確実に浸水しているわよね」

「水が退くのを待っていれば、木材が腐りそうですね」


 香織、咲、焔は、リヴァイアサンが起こした津波によって冠水してしまった街を見ながら、どうすれば良いかを考えていた。


「取りあえず、地道に水を流していこうと思ってはいるんだが、香織に良い案はないのか?」


 香織達の隣に来た玲二がやって来てそう言う。


「う~ん、どうだろう? レシピには乾燥を早めるようなものがあったけど、食器とか薬草とかの話だったし。街全体となると、記憶にはないかな」

「そうか。何か作れるものはないか?」

「ええっと、そうだね。街ごと燃える可能性があっても良いなら、今思いついたけど」

「やめてくれ」


 香織の物騒な提案に玲二は苦笑いするしかなかった。


「後は……部屋単位での乾燥も出来るかも?」

「本当か?」

「うん。乾燥機の効果を外側に変更して、範囲を広げれば、もしかしたらだけど」

「そうか。頼んでも良いか?」

「じゃあ、レシピ書いて渡すよ。さすがに一個じゃ、街全体の家を乾燥させるのに時間が掛かるでしょ?」

「すまん」


 玲二は申し訳なさそうに頭を下げる。香織は、ギルドに利用されることにあまりいい顔をしない。今、玲二は完全に香織を利用している立場にいると考えている。なので、香織が断る可能性を考えていたのだが、快く引き受けてくれた。恐らく、友人としての付き合いがあるからだろう。


「じゃあ、作って来ちゃうから、私達はここで失礼するね。万里ちゃん、恵里ちゃん、またね」

「お疲れ様。今日は休んでおくといいわ」

「失礼します」


 香織達は、万里達に声を掛けてから、自分達の家に帰っていった。いつもの通り、空を走ってだが……


「まーちゃん、お母さん達のところに行く?」

「そうだね。無事かどうか知りたいし」


 万里と恵里は、両親が避難しているはずの東京監視塔に向かった。


 ────────────────────────


 家に戻った香織は、早速工房に入っていった。


「さてと、乾燥機を改造……いや、最初から作った方が良いかな」


 香織は、材料置き場から鉄鉱石を取り出して、釜の中に投げ入れる。


「釜で全部作れるようになったのはありがたいなぁ」


 香織のスキルが進化したおかげで、鍛冶用の炉を使わなくても鉄の加工などが容易に出来るようになった。


「刻印をして組み立てないと……」


 香織は板状に加工した鉄に刻印を施してから、再び釜の中に放り込む。そこに魔力水を入れていく。


「乾燥範囲は、中心から大体十平方メートル。予想していた以上に範囲が広く出来たかな。乾燥の効力が結構高いけど、このくらいなら妥協範囲内だね」


 香織は釜の中から三十立方センチの立方体を取りだした。


「名付けて『お部屋まるごと乾燥機』!」

「…………」


 ちょうど工房の入り口まで来ていた咲はなんともいえない顔をしていた。


「あっ、咲。どうしたの?」

「家中を確認して回ってきたのよ。あの水は、リヴァイアサンの攻撃判定になっていたのね。私達の家には、浸水していなかったわ。家の中にはね」

「?」


 咲の含みのある言い方に香織は首を捻る。咲は無言で手招きをする。香織は咲に付いていった。その先には、香織が薬草や野菜などを育てている庭があった。その一部、香織の家から離れた場所に植えていたものがダメになっていた。


「いやあああああああああああああああああ!!!!」


 香織は今までに出したことがない悲鳴をだした。


「私のトマトと薬草達があああああああああああああ!!!!」


 野菜は、基本的に自分の家の近くに植えていたので、被害に遭ったのはトマトの一部と薬草の一部に留まったのだが、香織のショックはかなり大きかった。


「また植え直すしかないわね」

「あの水って海水だよね?」

「そうね。海から来たのだから海水じゃないかしら」

「除塩からやらないとだよ……」


 香織は、膝から崩れ落ちる。夜ご飯を作っていた焔が心配そうに台所から覗く。咲は手振りで大丈夫だということを伝えておいた。焔は心配そうなのは変わらないが、咲がいれば大丈夫だと判断し、台所に戻っていく。


「よし! 除塩剤を作り出そう!」

「はいはい。もう夜ご飯が出来るから後でね」


 すぐに工房に戻ろうとする香織の首根っこを掴みリビングのテーブルに着かせる。それと同じタイミングで、焔がご飯を並べていく。


「じゃあ、いただきます」

「「いただきます」」


 咲が食事前の挨拶をし、香織達が復唱する。香織達は、いつもと変わらずに談笑しながら食事を進めていった。


 そして、ご飯を食べ終わるや否や、香織は工房に向かっていった。


「マスターは忙しいですね」

「そうね。代表的な娯楽が出来なくなった今、庭いじりと錬金術だけが楽しみだったからね」

「……マスターや咲様は、元の世界に戻って欲しいですか?」


 焔は真剣な顔で咲を見ている。


「どうかしらね。正直、自分でも分からないわ。どうしてそんな事を?」


 咲が聞き返すと、焔は少し寂しそうな顔をした。


「私は元の世界には存在しないですから……」

「……!!」


 咲が息を呑んだ。咲自身考えていなかったのだ。世界が戻ろうと戻るまいと、自分達はずっと一緒にいれると考えていたのだ。


「私はどちらでも構いません。私の事を忘れないでいてくれるのなら」

「分かったわ。約束する。もし、世界が元に戻り、焔がいなくなったとしても、私は焔の事を忘れることは無いわ。絶対にね」

「はい。ありがとうございます」


 焔は満面の笑みでそう言った。その笑顔につられて、咲の顔も綻んだ。


 ────────────────────────


 咲達が話している間に、香織は工房で材料入れとアイテムボックスを見ていた。


「さて! 除塩剤を作って、強力な栄養剤を作ろう! マンドラゴラと薬草、水、動物の肝を使ったけど、どうやって強化しようかな……」


 香織は二年前に作った時のものをずっと作り続けていたのだが、今回の件を踏まえてより強力なものを作り、庭の再建を早めようと考えたのだ。


「いっそ、龍の肝でも使う? いや、もったいな過ぎる。う~ん、栄養価が高いものが良いのかな? そもそもマンドラゴラから見直した方が良いのかな? 水は魔力水で決まりだよね」


 香織はうんうん唸りながら、レシピを考え直していた。それから三十分間唸り続けて、ようやく決まった。


「よし!!」


 香織は、まず小鍋に動物の肝をいれて乾燥させ、さらに心臓も乾燥させた。


「同じ内蔵系なら大丈夫だよね!」


 香織は謎の自信に満ちていた。


「次は、すり鉢に入れて、ペースト状にしよう」


 香織は、乾燥させた肝と心臓、薬草、魔力草を入れてすり潰していく。


「…………何かキモい色になった。モザイク案件だよ」


 すり潰してペースト状になったものは、名状しがたい色になっていた。香織は、そこに魔力水を入れてペーストになったものを溶かしていく。


「……溶けてもこの色なんだ」


 香織は何とも言えない顔になっていた。


「いや、反応させれば変わるはず!」


 すり鉢の中身を小鍋の錬金釜に移して、熱していく。最初は黒い煙などが出ていたのだが、少しすると煙自体が出なくなった。


「焦ったぁ……失敗したかと思ったよ……」


 香織は安堵と同時に噴き出てきた汗を拭う。小鍋の中には、紫色の液体が出来ていた。


「いや、成功なのかな? 透明じゃなくなってるけど……」


 香織は出来た液体を濾過して、瓶に移していく。


「鑑定したけど、大丈夫そう」


 香織はちゃんと出来ているのか心配になったため、鑑定をしてみる、


 ────────────────────────

 高性能成長促進薬:作物をより早く成長させる薬。基本的には、希釈して使う。

 ────────────────────────


「次は、除塩剤か……レシピにも載ってないから、一から考えないといけないんだよね。こればかりは、ひらめきがないと作れないんだよね」


 香織は、栄養剤よりも長く思考し続ける。


「塩害……海水……塩……塩化ナトリウム……イオン結合……いや、これは関係ないか。それなら、いっそのこと成分を抜き取るものを作る? 特定の成分を選択して吸い取る? それなら、他のものにも利用出来るかも。よし!」


 香織は、工房から出て行って、リビングに置いてある小型のラジオを取る。


「香織? ラジオなんてどうすの? 今は使えないでしょ?」

「ふふふ、分解して、利用するの!」

「そう」


 咲は慣れたように香織を見送った。


「何をお作りになるのでしょう?」

「多分、とんでもないものよ。あの顔をしている香織は、いつも予想だにしないものを作り出すもの」

「そうなんですね。少し楽しみです」

「そうね」


 焔の顔がわくわくに満ちていた。咲は微笑ましそうに見守る。


 工房に戻ってきた香織は、ラジオを分解することなく錬金釜に入れて火に掛ける。


「分解じゃあああああ!!」


 香織の持つ錬金釜の機能の一つに分解がある。これは、二年前までは使う事が出来なかった機能だ。

 錬金釜の中にはパーツ単位で分解されたラジオがあった。


「この基板と鉄鉱石、後は色々吸い込んで溜め込むダークマターを入れてっと」


 ダークマターは、香織の錬金術で出来た()()()だ。見た目は、黒い真珠のような感じだ。本来出来るはずのないものなので、出来上がったときには香織もかなり焦った。しかし、その特性を知ると、出来上がる度に捨てることなく取っておくことにしたのだった。

 ダークマターの特性とは、その中に様々なものを取り込むという特性だ。基本的に魔力を流さないと発動しないので、普通に置いておいても安心である。


「後は、魔力水を入れて、かき混ぜる!」


 香織は釜の中身をかき混ぜ続ける。一時間以上……


「これいつまで混ぜれば良いんだろう……」


 さすがの香織も少し疲れてきていた。その時、釜の中身が光に包まれる。


「出来た!!」


 釜の中には一つの機械が出来ていた。その形は一見銃のように見える。


「『分解吸収銃』だ!」


 香織は早速、庭に出て効果を確かめに行く。それに咲と焔も同行する。


「えっと、ここからが塩害になってる畑だね」


 香織は鑑定を行い、被害にあった畑とあってない畑の境界線を見つける。


「行くよ!」


 香織は合図と共に、分解吸収銃の引き金を引く。黒い光が地面に投射される。


「戻った!」

「そうなの? 見た目には分からないわね」

「はい。見た感じは変化が分かりません」


 咲と焔の言うとおり、見た目には何も変化しなかった。しかし、鑑定結果からは、塩害の文字は消え去っていた。


「どんなもんよ!」

「すごいわね」

「画期的だと思います」


 手放しに褒められるので、香織の顔がにやける。そんな中、咲がある事を思い出した。


「あっ! そういえば、黒龍の素材を回収するのを忘れていたわね……。リヴァイアサンは、香織が回収してたけど」

「へ? さりげなく回収しておいたよ?」


 黒龍の遺体がそのままだと思っていた咲は、眼を丸くして香織を見る。


「それって、坂本さん達に報告した?」

「ううん」


 咲は片手で顔を覆ってため息をついた。


「明日朝一で報告に行きましょう。今回は私達だけ討伐したわけじゃないんだから、素材の山分けをしなくちゃでしょ?」

「確かに。乾燥機の設計図も渡したいから丁度いいね」

「じゃあ、今日は早めに寝ておきましょうか」

「うん!」


 香織達は家の中に戻っていく。そして、全員で一緒にお風呂に入ってから、ベッドに入り眠りについた。


 ────────────────────────

 香織の成果

 元々あるレシピを改良し、お部屋まるごと乾燥機、高性能成長促進薬を作った

 塩害問題を解消するため分解吸収銃を作った

 以上

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― 新着の感想 ―
[一言] 咲、結構、薄情だな。焔が可哀相。
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