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54.リヴァイアサンとの戦い

 万里と恵里は、リヴァイアサンに背を向けて走っていた。


「えっちゃん! もっと速く!」

「わ、分かってるよ!」


 リヴァイアサンの速度と、万里と恵里の走る速度は大体同じくらいだった。追いつかれるということはないが、それでもかなりの威圧感がある。


「!! えっちゃん!」

「『水よ 壁となりて 我らを守れ』!!」


 リヴァイアサンの攻撃に気が付いた万里が、恵里に呼び掛け、それに応じた恵里が地面を流れる水を利用して壁を作り出す。

 リヴァイアサンの攻撃も同じ水弾なので、一方的に打ち消されるということもない。だが、その衝撃だけは、万里と恵里にも押し掛かってくる。


「こっち!」

「きゃっ!」


 何度かその衝撃を受けているので、万里の対応も慣れたものだった。すぐに、交差点を左折して身を低くする。その際、恵里が遅れていたので、腕を引っ張る。衝撃が、万里と恵里の上から襲ってくる。


「うぐっ!」

「うぅっ!」


 衝撃が収まると、二人は再び走り出す。これを何度も繰り返すことになる。二人に明確な目的地はない。一体何度繰り返すことになるのか。二人には見当も付かない。しかし、そこまで深く考える必要はなかった。


「撃てぇ!!」


 野太い声と共に、魔法と矢が次々にリヴァイアサンに飛んでいった。


「双子の嬢ちゃん達! 今の内に来い!」


 万里と恵里は、言われたとおり、冒険者達の元に向かった。


「どうしてここに?」


 万里は皆が避難し終わったと思っていたので、冒険者の皆が、ここにいることに少し驚く。


「おいおい、舐めちゃいけねぇぜ」

「リヴァイアサンが進路を変更した時点で何かあったのは察しているんだ」

「そして、その近くに双子の嬢ちゃん達がいれば、自ずと答えは出るってもんだぜ」

「リヴァイアサンを引き留めようとしてるんだろ?」

「なら、俺達大人も手伝わなくちゃな!」


 冒険者達は、そう言ってサムズアップする。


「あ、ありがとう」


 万里は、頭を下げて礼を言う。


「良いって事よ。どっちかっていうと、俺達が礼を言う方だしな」

「お前達がいなかったら、リヴァイアサンがこのまま避難所まで行く事なんて考えられなかったかもしれないからな」

「こんな世界になって知能まで低下しちまったみたいだぜ!」

「そりゃあ、お前だけだろ」

「んだとぉ!」

「皆落ち着いて! リヴァイアサンがこっちに来てるから!」


 言い争いを始めそうになった冒険者達を恵里が窘める。


「取りあえず、そっちは海の方向だ。敵のホームで戦闘する必要はないだろう。向こうに誘導するぞ!」

「分かった!」


 万里と恵里に十五人の冒険者を加えた集団でリヴァイアサンを誘導していく。魔法と弓によるチクチクとした攻撃はリヴァイアサンのしゃくに障ったらしく、リヴァイアサンの攻撃も激しくなってくる。


「魔法を使える奴は、防御に集中! 接近戦しか出来ない人は、周辺にいるモンスターを討伐だ! このまま、誘導し続けるぞ!」


 攻撃の苛烈さに魔法を使える者達は、揃って防御系の魔法に切り替えていく。そして、近接攻撃しか出来ない冒険者達は、近くにいるモンスターを倒していく。リヴァイアサンが陸に上がってきたことでモンスター達も動揺しているのか、いつもよりも倒しやすくなっていた。


「何あれ!?」


 モンスターを倒してリヴァイアサンの方を向くと、リヴァイアサンが空を仰いでいた。その姿から、何かを溜めているようにも見える。


「強力な攻撃か!? 防御を固めろ!!」


 魔法を使える恵里と冒険者達が防御を集中させる。それと同時に、リヴァイアサンの口から超高圧力で水が放出された。冒険者達が張った防御は、全て破壊される。


「避けろおおおおおおおおおお!!!!」


 攻撃が着弾する前に、冒険者の一人が叫んだ。全員がその場から飛び退くと同時に、凄まじい衝撃が広がる。


「ぐぅぅ……!」

「うぅぅ……!」


 万里と恵里も地面を転がっていく。クラクラとする頭の中、万里と恵里が立ち上がる。他の冒険者も同様にふらつきながら立ち上がる。


「お、おい! 嘘だろ!?」


 冒険者が上を見上げながらそう言った。万里と恵里も釣られるように上を見ると、リヴァイアサンが再び天を仰いでいる。つまり……


「もう一発来るぞ!!」


 冒険者達は急いでその場から離れる。万里と恵里もその場を離れようとするが、リヴァイアサンへの恐怖でうまく動くことが出来なかった。そして、冒険者達が自分達を置いて逃げていく光景が、昔ダンジョンであった光景と重ねてしまう。


「待って……」

「置いていかないで……」


 二人は恐怖とトラウマのせいで、涙が零れ出てしまう。終いには顔を俯かせてしまった。


 その間にもリヴァイアサンの溜めが終わりそうになっていた。もう無理だと二人が諦めかけていたとき……


「何してるんだ!?」

「動けなくなっちまったのか!?」

「お前達で担げ! 俺達が盾になるぞ!」

「俺達の肉体を舐めるなよ!!」


 二人の冒険者が万里と恵里を担ぎ上げ、十三人の冒険者がその後ろに集まり駆け出す。これで何があっても、万里と恵里を少しは守ることが出来るだろう。


「急げ! 急げ!」

「全力で走れ!」


 冒険者達は形振り構わずに走り続ける。だが、十分な距離に逃げ出す前にリヴァイアサンの溜めが終わった。


「来るぞ!!」

「防御! 防御だ!」


 魔法を使える冒険者がさっきよりも厳重に防御を施していく。しかし、それでもリヴァイアサンの攻撃に耐える防御にする事は出来なかった。


「やべぇ!」


 冒険者達がその場から飛び退く寸前。


「はああああああああああああ!!」

「やああああああああああああ!!」


 焔と咲によって、リヴァイアサンの口が強制的に閉じさせられる。口の中で高圧力の水が暴れ回ったリヴァイアサンは苦しみ悶える。


「大丈夫!?」


 万里と恵里、冒険者達の元には香織が降りてきた。


「これ回復薬。皆飲んで」


 冒険者達は香織に渡された回復薬を服用する。


「香織さん、どうして?」

「いや、リヴァイアサンが街に向かってるのを見つけて、坂本さん達と走ってきてたんだけど、いきなり進路を変えたと思ったら、こっちに向かってくるし。何かしら起こってるって分かったから、坂本さん達を置いて私達が先行してきたんだ」


 香織達は走って向かっている最中も、リヴァイアサンの動向を見ていた。すると、リヴァイアサンがいきなり変な行動を取り始めたので、比較的速く移動出来る香織、咲、焔が先行してきたのだ。リヴァイアサンとの戦いに備えて、魔力回復などを目的に走っていたが、形振り構っていられないので、空を駆けてきて、現在に至る。


「住人の避難は終わってる?」

「はい」

「そう、ありがとう、二人とも。良くやってくれたわ」


 香織はお世辞抜きで二人を褒める。事前に頼んでいたことを完璧にやってのけたのだから当然といえば当然だ。


「私達が前で戦う。だから、皆は援護に徹して。二人もお願いね」


 香織は万里と恵里、冒険者達にそう言うと、咲と焔の元に向かった。


「えっちゃん!」

「うん!」


 万里と恵里は、すぐに自分の脚で立つ。


「さっきはごめんなさい!」

「助けて頂きありがとうございました!」


 そして、冒険者達に頭を下げた。冒険者達は、それぞれ顔を見合わせて、大笑いする。


「はっははははは! 何言ってやがる!」

「怖くて動けなくなってもおかしくないだろ!」

「助けるのは当たり前の事だぜ!」

「それよりも、まだ戦いは終わってないんだ。俺達もやってやろうぜ!」


 冒険者達は万里と恵里の頭を乱暴に撫でて、リヴァイアサンと向き合う。


「行くぞ!!」


 冒険者達が奮い立つ。


「何か盛り上がってるわね」

「そんなこと言ってる場合!?」


 リヴァイアサンと向き合いながら、攻撃を防ぎ続けている咲と香織がそんなやり取りをしていた。


「攻撃手段に乏しいですね」


 先程から、リヴァイアサンの攻撃は何発もの水弾と口による噛み付きしかしてこなかった。


「海じゃないからかな?」

「なら、決着を付けるなら今の内ね」


 咲は鬼神化を発動する。


「あいつの意識は私と咲に集中するはず。焔はその隙を突いて攻撃して」

「分かりました」

「よし! リヴァイアサンを討伐しよう!」


 香織達とリヴァイアサンの戦いが本番を迎える。


 ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!


 リヴァイアサンは、大きな咆哮をする。


「威嚇?」

「どうかしらね」


 リヴァイアサンの眼は予想通り、香織と咲を追っている。余所見をしたリヴァイアサンに、死角から焔が斬りつける。黒龍と違い、リヴァイアサンの鱗は柔らかいようで、すんなりと傷を付ける事が出来た。


「陸地にいる分ステータスも落ちているようだね」


 香織が見たステータス的には、黒龍と遜色なはずだが、リヴァイアサンの動きは明らかに悪い。


「なら、最近定番の『束縛の鎖・改』!」


 一体何個用意しているのだろうか。香織は、アイテムボックスから何十本もの鎖を取り出した。


「そりゃあ!!」


 香織はその片端を持って、リヴァイアサンに巻き付ける。


「よいしょおおおおおおお!!!!」


 香織は自分の持てる力一杯鎖を引っ張る。そして、遠心力を使ってリヴァイアサンをぐるぐると振り回した。


 地上で見上げていた冒険者達は眼を剥く。万里と恵里も唖然としてしまっている。


「マスター、すごい……」

「香織……その後どうするの……?」


 焔は感嘆し、咲は呆れていた。


「どっこいしょおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 香織はそのままの勢いで、リヴァイアサンを地面に叩きつけた。水が一切ない地面に。


 ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!


 強烈な衝撃にリヴァイアサンが悲鳴を上げる。香織はすぐに鎖を手放す。手放した鎖は自動的にリヴァイアサンに絡みついた。


「皆! 今の内!」


 香織の短い言葉で、冒険者達はほとんどを理解した。


「行けえええええええええええ!!」


 冒険者達はそれぞれの得物を持ってリヴァイアサンに群がった。その中には万里と恵里もいる。


 リヴァイアサンは身体をうねらせて抵抗するが、身体のあちらこちらを縛られているのでうまく動けなかった。そこに、万里の剣が、恵里の魔法が、冒険者の剣、斧、弓、槍、様々な武器、魔法が襲い掛かる。さらには、咲と焔の刀も加わる。


 リヴァイアサンの身体に無数の傷が刻まれていく。このままいけば、簡単に討伐出来ると冒険者達は思っていた。


「皆! 一旦離れて!」


 リヴァイアサンの動きに注視していた香織が、地上で戦う皆に警告する。リヴァイアサンに攻撃していた全員が、一斉にその場から離れる。それと同時に、リヴァイアサンが拘束から抜け出した。リヴァイアサンの全身の動きに、束縛の鎖が耐えられなかったのだ。


「黒龍は羽だったから、長く止められたのかな?」


 香織はそう言いつつ、上空から用意しておいた無数の魔法を解き放っていく。


 ギャアアアアアアアアアアアア!!


 その場から移動しようとしていたリヴァイアサンが再び釘付けになる。


「魔力自体はまだ保つけど。黒龍並みの耐久力だね」


 多種多様の魔法をリヴァイアサンに集中させて当てたにも関わらず、リヴァイアサンはまだ動くことが出来た。


「香織!」


 次は何を使うかと考えていた香織に咲が声を上げる。香織は、咲を見てから、咲の見ている方向を見た。


「嘘……それはないでしょ!?」


 香織達の視界に写ったもの。それは、急に高くなった水平線だった。


「津波が来る!」

「まずいわね。あの勢いと量だと、ここまで来る可能性があるわよ」

「その前にけりを付けなくちゃ!! 咲、焔、時間を稼いで!」

「分かったわ」

「分かりました」


 香織はアイテムボックスから色々と探し出す。その間、咲と焔がリヴァイアサンを相手取る。


「焔! 無理はダメよ!」

「分かりました!」


 咲は鬼神化をしたまま、焔は身体に火の粉を纏わせて、リヴァイアサンに突っ込んでいく。リヴァイアサンは、今まで使っていた水弾と噛付きに加えて、尻尾による薙ぎ払いや突きを加えてきた。


 咲と焔は、その攻撃を避け、受け流し、カウンターでダメージを負わせていく。


「一つ一つ対処すれば、どうにか出来るわね」

「地上にいるせいか、動きの一つ一つが遅いですからね」


 咲と焔は、そのまま攻撃と防御を続けていく。


「咲! 焔! 少しどいて!!」


 香織の声に応じて、咲と焔がリヴァイアサンから離れる。そして、二人が香織の方を見ると、香織の真上に異常にでかい剣のような物があった。


「何それ……!?」


 さすがの咲も目を丸くする。


「今、錬成したんだよ! 釜も鍛冶台も使わないから結構粗悪だけどね!」


 香織はその異常にでかい剣を魔法で浮かせていた。そして、そのままリヴァイアサンに向けて落とす。自重による加速と香織の魔法による加速で異常なまでの勢いで落ちていく。リヴァイアサンは、地上にいるせいで素早く動くことが出来ない。その結果、完全に避けきることが出来ずに、尻尾の先端から身体の三分の一が切断された。


 ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!


 リヴァイアサンの叫びが辺りに木霊する。


「香織! 咲! 焔! 大丈夫か!」


 地上から大声がした。そこには、玲二達黒龍討伐隊の皆の姿があった。ようやく、ここまで来ることが出来たらしい。


「急いで倒さないと! 津波が来て、リヴァイアサンが強くなっちゃう!」


 香織は簡単に今の状況を伝える。


「魔法部隊は魔法による援護を! 近接部隊は隙を突いて攻撃を加えろ!」


 玲二はすぐに冒険者達に指示を出す。そこから魔法による連続攻撃が加えられる。津波が来るまで、大体十分というところだ。それまでに決着を付けるために、香織、咲、焔、万里、恵里、玲二、里中、冒険者達が怒濤の攻撃を加える。


 ありとあらゆる魔法や武器よる攻撃は、リヴァイアサンの体力を根刮ぎ削っていった。


「これでトドメだ!!」


 香織は、地面に突き立っていた巨大な剣を魔法で引き抜き、そのままリヴァイアサンの首目掛けて薙ぎ払う。リヴァイアサンは為す術もなく、首を切断された。


 結局、本来の実力を出す前にリヴァイアサンは息途絶えた。


 ある意味呆気ない幕切れに、冒険者達は勝利を実感するまでに時間を要した。


「よっっっっっっっっしゃあああああああああああ!!!!」

「やってやったぜ!!!」

「これで日本が解放された!!!」


 冒険者達は思い思いの言葉を叫んでいる。その最中、空から声が聞こえ始めた。


『リヴァイアサンを倒したことで領海権が委譲します。日本の領海権がリヴァイアサンから桜野香織に委譲。リヴァイアサン討伐の功労者である、桜野香織に報酬として進化の権利と武具を授与します。

 支配者の討伐を確認しましたので、一部の情報を解禁します。権利が委譲してもモンスターの出現は止まりません。また、ダンジョンの生成も止まりません。これからも魔力が溜まる場所などに生成されます。これらを無くすには、世界を元に戻す必要があります。現在開示できる情報は以上となります』


 今回の内容は一部重要な部分があった。


「世界を戻す事が出来る……?」

「でも。どうやって?」

「そりゃあ、何かを倒さないといけないんじゃないのか?」

「何かってなんだ?」

「さぁ?」


 冒険者達も勝利の余韻に浸ることも出来ずに、そのことについて話し合う。


「香織はどう思う?」


 空で声を聞いていた香織と咲も例外ではない。


「う~ん、世界を元に戻したとしてだけど。それはこの状態のまま元に戻すのかな?」

「街の状態の事ね?」

「うん」


 香織が言いたいことは簡単なことだ。今の街は、色々な場所が壊れて、復旧にも時間が掛かる。それに、一番の問題は、東京になるだろう。日本で一番の人口を誇った東京は今見るも無惨な姿に変わっている。


「世界を元に戻すにしても、街を復旧してからじゃないと」

「人が住めるようになるまで、時間が掛かるものね。それに、私達の能力が失われると仮定すると、今よりも時間が掛かるはずよね」

「うん。ガソリンもないし、重機の使用が制限されるからね。私達の手だけじゃ、家を造るのも厳しいだろうし」

「つまり、私達は、世界を元に戻すか、このままの状態を維持しておくか、選択する必要があるのね」


 世界を戻すか、このままの状態を維持するか。人類は大きな選択をすることになる。だが、それはまだ先の話だ。

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