53.リヴァイアサン襲来
香織は、声の出所を確認するために空へと駆け上がっていった。そして、アイテムボックスから一本の筒を取り出した。それは、香織が作った単眼鏡だ。その単眼鏡は、倍率を最大で百倍まで微調整することが出来る。
「確か、あっちの方向だよね」
香織は単眼鏡を覗いて、声のした方向を見た。そこは、香織達が万里や恵里と一緒に行った『狂骨の砦』があった鎌倉付近のはずだった。
「う……そ……」
香織が絞り出せたのは、それだけだった。
「香織?」
香織の様子がおかしいことに気が付いたのか、咲が香織のいる場所まで空を駆けてきていた。
「これ見て」
香織は咲に単眼鏡を手渡す。咲はただならぬ雰囲気を感じ取り、香織が見ていた方を単眼鏡で覗く。
「何これ……」
香織と咲が見た光景……それは、海に沈みゆく街並みだった。そして、それをやっている張本人の姿も……
「リヴァイアサンが街を攻撃している?」
「ううん、あれは多分だけど、移動しているだけだよ」
「……移動のために街を水没させているっていうの?」
「そもそも水が無いと移動が出来ないんだよ。でも、何のために陸地に……?」
リヴァイアサンは真っ直ぐ香織達の住んでいる街に向かっている。
「……人のいる方に向かっている? でも、いきなり何で?」
「私と咲が、権利を取ったから?」
「でも、それって関係あるのかしら?」
「でも、それくらいしか考えられなく無い? 私が統治権を手に入れた瞬間に、あんな行動を起こしてるじゃん。いや、そんな事より、早く向かわないと!」
香織達は、玲二達が待機している場所まで降りてきた。
「リヴァイアサンが街に向かって進行してる!」
「何!? それは本当なのか!?」
玲二は顔を強張らせながら確認を取る。
「うん! 私達が住んでいる方に向かって進んでるの!」
「ちっ! お前ら! 一仕事終えたばかりだが、もう一仕事だ! 行くぞ!」
『『おお!』』
玲二の指示に何の異論も出さずに、冒険者達は返事を出す。そして、全員が疲れているにも関わらず走って街の方に向かった。
「リヴァイアサンは、どのくらいのスピードで移動しているんだ?」
「自転車並みかな。私達が移動する頃には、街に入っていると思う」
「どう足掻いても、街への被害は避けられねいか……」
「だから、なるべく早く行こう」
香織達は街まで急いで戻る。
────────────────────────
香織達が黒龍を倒した直後──
万里と恵里は自分達の家で、天からのアナウンスを聞いていた。
「えっちゃん! 今の聞いた!?」
「うん! 香織さん達、とうとうやったんだね!」
万里と恵里は、互いに手を繋いでジャンプをしながら喜んだ。香織達の名前が出てきたということは、三人は生きている事が確定したのだ。香織達が出発してから二人は気が気でなかった。
「じゃあ、今日中に皆が帰ってくるかもしれないね」
「どうにかしてお出迎え出来ないかな!」
「そうだね。一時間位してから見に行こうか」
二人が笑い合いながらそう話していると……
ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
大きな咆哮が街の中に響き渡った。
「今の……何?」
「分からないよ。取りあえず、外に出てみよう。えっちゃん、準備をして」
「うん」
嫌な予感がしたため、万里と恵里は戦闘の準備をしてから家の外に出た。
「家の周りは何の変化もないね」
「声が聞こえたのは向こうの方だよね」
「うん。向こうの高台から見えるかもしれない。行こう、えっちゃん」
二人は近くにある高台に向かう。そこからなら、少し遠くまで見えると判断したからだ。
「何か、細長いのが見えない?」
「もしかして、あれ……」
「「リヴァイアサン!?」」
まだ朧気な影しか見えないが、万里と恵里は巨大で細長い生物をリヴァイアサンしか知らない。突然別のモンスターが出現したよりも、リヴァイアサンが進行してきたという方が納得がいくということもある。
「お母さん達に知らせないと!」
「街の人の避難だね!」
生産ギルドで働いていた万里達の両親は、現在ギルド本部で働いている。そこには綾子もいるはずなので、リヴァイアサンについて話して皆の避難について判断を仰ぎに行くのだった。
ギルドの中は、人数のわりにものすごい熱気に包まれていた。黒龍討伐が成功した事によるものだろう。
「あら、万里さん、恵里さん、どうされましたか?」
万里や恵里は、普段ギルドには行かないので、突然現れた二人に綾子は首を傾げる。
「リヴァイアサンがこっちに来てるの!」
「早く避難した方がいいと思います!」
二人は過程をすっ飛ばしてド直球に本題を話す。綾子は怪訝そうな顔をしてから、二人の真剣な顔から、嘘ではない判断した。
「それはどこで見ましたか?」
「えっと、あっち!」
「南です!」
リヴァイアサンがいた方向を指さす万里に対して、恵里は、正確な方角を口にした。
「屋上から南を確認してください」
「了解!」
綾子は近くにいた職員に指示をして万里達の証言の確認をする。
「確認が取れ次第、避難指示を開始します。お二人にも手伝って頂きたいのですが……」
「うん!」
「手伝います!」
「ありがとうございます」
五分もしないうちに確認に行っていた職員が泡を食って降りてきた。
「な、中根さん! 本当にリヴァイアサンがっ!」
「距離は!?」
「約十キロ程だと思われます! あと一時間もしない内に、ここに到達してしまう可能性が高いです!」
「住人の皆さんの避難誘導をします。目的地は北にある東京監視塔です。冒険者の皆さんに依頼を」
「分かりました!!」
職員が走って冒険者達の元に行き、現状を説明する。
「万里さんと恵里さんには、この地区の避難誘導を手伝って貰います」
「一番危険なところだね」
「はい。お願い出来ますか?」
「うん!」
綾子が地図の中の一画を指さして指示をする。
「万里! 恵里!」
そこに二人の母親が駆けつけてきた。
「大丈夫!? 怪我は!?」
「大丈夫だよ。見つけただけで、戦ってはいないから」
「そう。なら、早く逃げなさい。ここも危険になるんだから」
「ううん。私達も避難誘導を手伝う」
恵里がそう言うと、二人の母親は顔を強張らせる。内心では、二人には早く逃げて欲しいと思っているのだろう。だが、次の瞬間には少しだけ顔をほころばせた。
「そうね。頑張ってね。無茶したらダメだよ」
「うん!」
「任せて!」
二人は、母親にそう返事をして、自分達に任せられた地点に向かった。
「よろしかったのですか?」
綾子は、二人を見送った母親にそう言った。
「ええ、二人とも自分の役目を果たすために動いているんです。それを止めるような真似は出来ません。それよりも、私も私の役目を果たさないと」
万里と恵里の母親はそう言って、綾子に一礼してからギルドの奥に向かっていった。
「私も避難誘導に行かないと」
綾子も万里達同様に住人の避難誘導をするために走り出した。
────────────────────────
「すぐにリヴァイアサンが来ます! このまま北に移動して下さい!」
「避難所は東京監視塔だよ!」
万里と恵里のかけ声で、家の中にいた人達が一斉に避難していく。
「後は向こうの方だけだよ、まーちゃん」
「うん! 急ごう!」
万里と恵里が避難指示をしてから約三十分近く経っていた。万里達の街に少しずつ水が入り込んできている。
世界が変わったことで、周りの地形が少し変わっているが、土地と土地の距離はほとんど変わっていない。ギルド職員の目測では約一時間で街に到達するという話だった。なら、今は、この街付近に近づいて来ているはずだった。
「早く避難しないと」
「うん、すぐに来ちゃうもんね」
万里と恵里は、最後の地区に向かい、住人を避難させていく。
「これで最後だね」
「後は、もう一度見回ってから、私達も避難しよ」
万里達は自分達が避難させて来た家を一軒一軒軽く見回って行く。仮に避難に遅れている人がいると困るからだ。そんな二人にリヴァイアサンの声が届いてくる。
ガアアアアアアアアアアアア!!
「さっきよりも声が大きいね」
「それだけ近づいているって事だよ。水かさも少しずつだけど、上がってきているし」
家を全部確認し終えた万里と恵里は、すぐに北に向かって走り出した。
「なるべく高いところを通って行こう」
「水に脚を取られないようにだね」
水が増える勢いは徐々に増している。リヴァイアサンが近づいている証拠だ。
「早く避難……していいのかな?」
二人で一緒に走っていると、万里が脚を止めてそう言った。
「何してるの!? 早く避難しないと、リヴァイアサンがすぐそこまで来てるんだよ!」
「でも、私達が避難していたら、リヴァイアサンは避難所まで来ちゃうでしょ? なら、少しでも足止めしないと!」
そう言うと、万里は目的地とは反対方向に走り出す。
「まーちゃん!」
万里を放っておく事は出来ないので、恵里も後を追う。
「えっちゃんは先に逃げて!」
「出来るわけないでしょ!」
二人は言い争いながら、走っているとすぐにリヴァイアサンの姿が見え始める。
「でかい……」
「ほら! 早く逃げよ!」
まだ近くに来ていないはずなのに、二人はリヴァイアサンの大きさに圧倒されていた。しかし、逃げ腰の恵里に対して、万里は覚悟決めた顔をしていた。
「えっちゃんは早く逃げて! おーい! こっちだよ!」
「まーちゃん!?」
万里はリヴァイアサンに向かって大声を上げると、避難所になっている東京監視塔とは別の方向に走り出した。取り残された恵里は、すぐに万里の後に続いて行く。
ガアアアアアアアア!!!!
リヴァイアサンは万里に狙いを定めて後を追っていく。
「おい! リヴァイアサンが進路を外れるぞ!」
「どういうことだ!?」
「あそこを見ろ!」
「まさか、双子か!?」
「あいつら、無茶しやがる!」
「おい! このままじゃ、あいつらがやられるぞ!」
「俺達も後を追うぞ! リヴァイアサンの気を引くんだ!」
『『おう!!』』
万里の考えを察した冒険者達が、後を追っていく。
リヴァイアサンは、東京監視塔への道のりから外れていく。住人が全滅するという事にはならずに済みそうだ。
読んで頂きありがとうございます
面白い
続きが気になる
と感じましたら、評価や感想をお願いします
評価や感想を頂けると励みになりますので何卒よろしくお願いします




