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変わってしまった現代で錬金術師になった  作者: 月輪林檎
第一章 変化と解放

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52.絶望からの希望

 香織が生み出した水の槍が、黒龍の身体に命中する。しかし、大したダメージを与えられない。黒い炎の勢いを少し減衰させたくらいだ。元々魔法が効きづらいということもあるだろう。


「あの黒い炎が、黒龍の力を上げているのなら、あれを消すことが出来れば、勝てる可能性は上がるはず!」

「だが! 香織の魔法でようやくという感じだぞ! どのくらいの水量がいるんだ!?」

「わかんないよ! 取りあえず、出せる最大級の水を生み出してみる!」

「時間を稼ぐ! 行くぞ!」

『おう!』


 香織の付与を得た冒険者達が黒龍に向かっていく。


『うおおおおおおおお!!』


 玲二達が、黒龍の身体を斬りつけていく。


「香織の付与のおかげで、攻撃が通りやすくなっているな。この調子でいくぞ!!」

『おう!!』


 玲二達の攻撃は今までで一番の傷を負わせる事に成功した。


 ガアアアアアアアアア!!!


 黒龍はデタラメに前脚を振い続ける。


「退避!!」


 その攻撃に当たるわけにはいかないので、玲二達はその場から離れていった。


「我武者羅に攻撃されれば、近づくことは出来ないな。出来れば、攻撃方法を減らしたいところだが……」

「皆! 離れて!!」


 香織の声に反応して、冒険者達が黒龍から距離を取っていく。


「そりゃあ!!」


 香織は天に向けていた手を下に振り下ろす。黒龍の頭上から大きな水の塊が落ちてきた。その大きさは、黒龍とほぼ同じ大きさだ。黒龍が頭上に気が付いたときにはもう遅い。大量の水が、黒龍に襲い掛かる。


 これが通常時の黒龍相手なら、膨大な質量の水で押し潰されるだけであったはずだ。しかし、今の黒龍は膨大な熱量を持っている。そこに水を大量の水を落としたら、どうなるだろうか……


「げっ! やばっ!」


 香織は、冒険者達の前に石の壁を立てていく。本来ならば、何重にも張って、より安全性を確保したいところだったが、予期していないことだったので、その時間が無かった。


 近づけば燃やされてしまう程の熱量、そこに大量の水が掛けられ、一気に気化。その結果、大きな水蒸気爆発となって香織達を襲った。


「うおっ!!」

「うわああああああ!!」


 衝撃波のほとんどは石の壁によって防ぐ事が出来たが、石の壁の耐久度はそこまで高くない。すぐに崩壊して、冒険者達にも襲ってくる。冒険者達は、耐えきることが出来ずに飛ばされていく。香織も地面に伏せって、必死で衝撃に耐える。


「何が起きたんだ!?」


 香織の傍まで飛ばされてきた玲二が、爆発が起きた場所を見ながら叫ぶ。


「水蒸気爆発って奴だよ。ほら、火の付いた油に水を掛けたら余計に火災が広がるっていうでしょ? あれも水蒸気爆発が起こっているせい」

「つまり、香織の出した水を気化させる程の熱量が黒龍にあったということだな?」

「うん。まぁ、近づいただけで発火するくらいの熱量だもんね。予測しておくべきだったよ」


 香織達は油断せずに立ち上がり、今だ煙が発生している場所を見る。


「あの爆発で死んだ可能性はあると思うか?」

「いや、ないと思う。そんな簡単に倒せるなら、私の『超重力爆弾』でも倒せるはずだよ。でも、ダメージは絶対に与えていると思う。瀕死とまではいかなくてもね」


 香織がそう言ったと同時に、黒龍の咆哮が響き渡ってくる。


 ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!


 黒龍が羽を羽ばたかせて煙を吹き飛ばしていく。


「やばいっ! 今の爆発で『束縛の鎖』が外れちゃった!」

「おい、てことは、あいつ、飛び上がるんじゃないのか!?」


 玲二の言葉通り、黒龍はそのまま上空に飛び上がっていく。


「状態は元に戻ってる。今なら近づいても平気なはず!」


 先程の爆発で束縛の鎖は外れたが、黒龍の強化状態も解除された。この状態ならば、水や氷以外の魔法も当たるはずだ。香織はそう考え、空を駆けていく。


「魔法部隊! 黒龍に全力攻撃!」


 香織が空を行くのと同時に、玲二が魔法部隊に指示を飛ばす。


「俺達に出来る事は……」


 玲二は、黒龍がいなくなった地上を見回す。


「あれは……」


 玲二は地面に落ちているものを見て駆け寄っていった。


 ────────────────────────


 空に飛んだ黒龍は、ある程度の位置で滞空して追い掛けてくる香織を撃退するために身構える。


「多分、火臨だとダメージは与えられないよね。自分であれだけの炎を纏うんだもん。なら、これかな」


 香織は、空を掛けていきながら、アイテムボックスから鞭を取り出す。


「これも、神器に出来れば良かったんだけどね」


 香織は、咲の刀の新調に合わせて、自分の鞭なども新調していた。普段から使っている一本鞭をより強靱にして、丈夫なものにしている。


 香織は、鞭の他に三本の試験管を取り出した。蓋の閉まったそれらを黒龍に向かって投げる。


「えいっ!」


 香織は、投げた試験管を自分の鞭で破壊する。中の液体が零れ混ざり合い、先程とは違う燃焼を伴った爆発が起こった。いきなり目の前で起こった爆発を、黒龍はまともに受けてしまう。そこに、地上から放たれてくる魔法が殺到する。爆弾と魔法の連続攻撃によって、少しずつダメージが蓄積している。


 ガアアアアアアア!!


「さすがに、試験管を警戒はしないよね!!」


 香織は、三本一組にした試験管を次々に取り出して黒龍に投げ、鞭で破壊していく。あらゆる場所で起こる爆発を、黒龍は次々に避けていくが、時折、避けきれずに、巻き込まれる事があった。


『液体型爆弾』。香織が作った新作の爆弾で、まず、一見無害そうな二つの液体を混ぜることによって、爆弾に変じさせる。その後、もう一つの発火性の高い液体で発火させ、爆発を起こすというものだ。


 黒龍にとっては小さすぎるものであり、すべてが無色透明なため、黒龍からは見えにくい。だからこそ、警戒をすり抜ける事が出来た。香織は、試験管だから警戒していないと思っているが……


 ガアアアアアア!!


 黒龍が口を大きく開ける。そして、口の中が赤熱していった。さらに、赤熱を超えて、白く輝き出す。


「ブレス!? えっと、こういうときのための……」


 黒龍がブレスを放つのと、香織がアイテムを取り出すのは同時だった。今までと違う白く眩い光線が香織を襲った。


「嘘だろ……」

「香織ちゃんが……」

「黒龍のやろう、あんな攻撃を残していたなんて……」


 地上から見ていた玲二達冒険者は、光に香織が消えていくのを呆然と見ていた。しかし、黒龍のブレスが途切れていくと、その目に驚愕が浮かび上がってくる。


「ふぅ、危ない、危ない」


 光が途切れた場所には、片手を前に伸ばした香織が無傷で立っていた。


「あんな威力があるなんて聞いてないよ。せっかくの結界が一瞬でパアじゃん!」


 香織が使ったのは『簡易結界・絶縁』だった。結晶を付けた紐を円状にして使うもので、円の内側に、絶縁結界を張るのだ。結界に触れればそこで攻撃が阻まれるのでその後ろにいる香織は、ダメージを受けないということだ。しかし、黒龍の攻撃が思いのほか威力があり、たった一回の攻撃で完全に消耗されて、壊れてしまった。


「それじゃあ、また墜落して貰うよ!」


 香織は『束縛の鎖・改』を取り出し、黒龍に投げようとする。しかし、黒龍も馬鹿ではない。何度も痛い目に遭っている束縛の鎖を見た瞬間、高速で移動し始めた。


「速っ! どうしよう……これじゃあ、鎖で縛ることも出来ない」


 一応、黒龍の動きは見えているのだが、束縛の鎖で縛るにはもう少し遅くないと、そもそも鎖が追いつけない。黒龍は、香織を自分の天敵に匹敵する存在として認め、殺す気で掛かってきた。


 高速で移動しながらも、すれ違いざまに香織に攻撃している。動きは見ることが出来るので、その攻撃を避けることは出来ているのだが、鞭を振って攻撃をする事は出来なかった。


「そっちがそう来るなら!」


 香織は手を空に向けて掲げる。黒龍は先程と同じ水の塊かと思い、空を見上げた。それは、結果的に香織の攻撃を知る事になった。それまで、日が差していた空が急に陰りだしたのである。それだけでない。周りの雲よりもどんよりとした黒い雲が発生してくる。


「おりゃあ!!」


 分厚い黒い雲から大量の雷が降ってきた。それだけでなく、大雨が発生し、暴風が吹き荒れる。簡単に言えば、大嵐が発生したのだ。地上にいる玲二達は、自分達が飛ばされないように、近くにある木にしがみついている。


 大量に降り注ぐ雷は、次々に黒龍に命中していく。そして、吹き荒れる暴風により、まともに空を飛んでいることを出来ない。


「ダメ押しだよ!」


 黒龍の真上に陣取った香織は、何十何百もの魔法を展開していく。


「一斉射撃!!」


 黒龍の上から雷と共に大量の魔法が飛んでいく。その全部が弱い魔法だったのだが、塵も積もればなんとやら。威力が小さくても数が大きければそれだけダメージを与えられる。それだけではなく、軽いノックバックが連続して起こる。


 吹き荒れる暴風によってまともに飛ぶことも叶わず、その上、頭上から降り注ぐ大量の魔法によって、段々と高度を下げさせられている。そして、地上に近づいて来た黒龍に、地上から何かが飛んできた。


 ガアッ!?


 黒龍の前脚と後ろ脚に、鎖が巻き付いていた。そして、それらの先端は地面に向かっている。


「お前達! 絶対に離すなよ!」


 鎖を握っているのは玲二達冒険者だった。玲二は、黒龍が飛び立った後に、地面に束縛の鎖が落ちているのを見つけた。その中で、まだ使えるものを探し出し、集めていたのだ。そして、それを今、黒龍を縛り付けるために使っている。


 黒龍は、このまま地面に落ちれば、先程と同じように冒険者達に滅多打ちされると判断し、飛びにくい状況にも関わらず、空に逃げようとする。


「ここが正念場だ! 奴を地面に落とせ!」


 玲二達は必死の思いで鎖を掴み、地面に引っ張っている。鎖を握る手からは、血が滴り落ちていた。魔法部隊からも大量の魔法が飛んでいった。今までの戦闘でかなり消耗している黒龍は、鎖を解く程の力を出せずにいた。正確に言えば、鎖の先にいる玲二達を振りほどく力だが。


 現状は、互いに膠着状態にあった。互いの力が拮抗した状態。それは、ちょっとしたことで状況が覆ることを表していた。黒龍からしてみれば、この状態のままでも、まだまだ耐えることが出来る。しかし、玲二達の力はもう少しで尽きてしまう事は確実だ。


 こんな状況の中でも香織や冒険者達に、焦りは全く無かった。その理由は明白だった。自分達の仲間はまだいるのだから……


「はああああああああ!!」

「やああああああああ!!」


 二筋の軌跡が黒龍の羽を斬り落とした。


 ガァッ!?


 羽ばたく翼を失った黒龍はそのまま吸い込まれる様に地面に落ちていく。黒龍の羽を斬り落としたのは、気絶から眼を覚ました咲と焔だった。その姿はいつもと全く違う。

 咲は鬼神化の時とは違う角を側頭部から生やし、眼は黄色く輝いている。そして、身体全体から、紫色に近いオーラを放っていた。赤龍を討伐した後、炎月を手に入れたときに会得した『竜人化』だ。

 焔の方は、身体の一部に炎を纏った状態。香織の封印を一時的に解除して、赤龍の力を解放していたのだった。すぐに、元に戻ったので、悪魔と戦ったときのような状態にはならなかった。


「咲! 焔!」

「香織! トドメ!」


 二人が眼を覚ましたことに喜んだ香織に、咲がそう叫んだ。咲のその声を聞いた香織は、魔法の連打を止めて、地上に落ちてくる。これは、比喩でも何でも無い。空を駆けるのを止めて自由落下しているのだ。香織が制御を止めたことで、魔法の連打と嵐が止まる。


 黒龍は、地面に墜落したまま、地面に横たわっていた。玲二達が鎖を地面に繋げているからだった。そこに真上から香織が降ってくる。その手には、黒く丸い塊が握られていた。


「えいっ!」


 それを黒龍に向かって投げつける。そして、そのまま落ちてくるはずだった香織を途中で咲が抱き止め、黒龍から離れる。玲二達もすぐに黒龍から離れた。


 香織が投げた黒い塊は、黒龍にぶつかると起爆、全てを吸い込む超重力が発生した。今回の戦闘で黒龍の脚に使った『超重力爆弾』と同じものだが、威力が桁違いだ。爆発範囲は、今までの倍。黒龍の身体の半分を完全に呑み込んだ。


 ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!


 黒龍は、超重力から逃れようと藻掻くが、身体の半分を呑み込まれた状態ではそれも叶わない。爆発が収縮し、黒龍の身体の半分が消え去った。


「咲! 私を降ろして! まだ、終わってないかもしれない!」

「ええ、分かってるわ」


 黒龍から離れた所にいた咲は、香織を地面に降ろす。そして、玲二達を目配せして、黒龍を囲ったまま近づいていく。赤龍は、身体の一部を失っても尚、動き続けた。黒龍がこれで倒せたという確証は全く無い。


「大丈夫かな?」

「今のところピクリとも動かないわね。赤龍が生きてたのは、あの再生能力が関係していたのかもしれないわよ」

「それだといいんだけど……」


 香織達が近づいて来ても、黒龍は動き出しはしない。咲が、剣の切っ先でつんと触ってみても、動き出さない。


「死んでいるわね」

「じゃあ……私達の勝ちだ!!」


 香織の勝利宣言に冒険者達は少し遅れて反応する。


「よっしゃあ!!」

「やってやったぜ!」

「俺達生き残ったぞ!!」


 冒険者は、互いに拳をぶつけ合い、肩を叩き合っていた。


「やったよ! 咲!」

「そうね」


 香織も隣にいた咲に飛びつく。咲は、香織を受け止めて抱きしめる。少しの間互いに抱きしめると、どちらからともなく周りを見回す。そして、近くに控えていた焔を見つけ、二人同時に手招きする。


「焔、おいで」


 焔がゆっくり二人に近づいていくと、すぐに二人に抱きしめられた。焔は、二人に甘えるように寄りかかる。


 黒龍討伐に参加した冒険者達が喜び合っていると、赤龍や東京、青龍の時と同じように、空から声が聞こえ始める。


『黒龍を倒したことで統治権が委譲します。日本の統治権がネロ・ベルニアから桜野香織に委譲。黒龍討伐の功労者である、桜野香織、高山咲、人造人間・焔、坂本玲二、里中重吉……………………………………に報酬として進化の権利と武具を授与します。

 支配者の討伐を確認しましたので、一部の情報を解禁します。世界の変異に合わせて、無作為に選出された人に、桁違いの力を授与しました。それは、世界に対応して貰うと同時に、変化を早めるために行ったものです。この力をどのように使うかは、所有者の自由となります。現在開示できる情報は以上となります』


 今回は、功労者の欄が長かった。ここに参加した冒険者全員の名前が呼ばれたので、当然といえば当然だろう。赤龍の時と違い、冒険者達も黒龍に積極的に攻撃していたためだろう。


「めぼしい情報ではなかったね」

「そうね。私達が予測していた事の一つだものね」

「開示される情報はどのように決まってるのでしょうか?」


 香織と咲が落胆していると、焔が首を傾げてそう言った。


「う~ん。どうなんだろう? モンスター毎に決まっているのか。ただの順番か。あるいは、誰かが適当に決めているのかかな?」

「そうね。私も香織の案の中のどれかだと思うわ。それよりも、香織の手に入れた統治権。日本だけのものだったわね」

「あっ! 確かに!」


 今回手に入った統治権は日本だけのものだった。これによって、香織達の考えの一つが裏付けされた。このことから言えるのは……


「リヴァイアサンは、多分日本の領海権だけだろうね」

「そうね」


 香織達がリヴァイアサンの話題を出したからだろうか。遠くの方から大きな咆哮が響き渡った。香織達は、すぐにそちらを向くが、そこには何もいない。どこを見回しても、モンスターの影すら見えなかった。


「この方向って、まさか……」


 香織達の戦いは、まだ終わっていなかった……

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