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47.決戦に備えて

 香織と咲は、玲二達を見送った後、家の中に戻った。


「どうされました?」


 カウンターにいたままだった焔は、今の状況を知らない。


「まだ確定じゃないけど、黒龍が動き出した可能性があるんだ」

「黒龍ですか……」

「うん。だから、しばらく、対黒龍戦のアイテムや武器を作らなきゃ。取り急ぎ、咲の刀からかな」


 香織はそう言って、自分の工房に向かった。


「忙しくなりそうね」

「黒龍は、どのくらい強いのですか?」


 焔は生まれてから一度も黒龍を見た事が無い。赤龍の力を扱えても、赤龍の記憶を覗けるわけではないので、黒龍の強さを知らないのだ。


「そうね。焔の元になった赤龍よりも遙かに強いわ。間近で見た時は、本当に怖かったわね。リヴァイアサンと同じくらい怖いわ」

「リヴァイアサンというと、海に現れるあの怪物ですね。ここからでも軽く姿が見える」

「そうね。黒龍と並ぶくらい強いリヴァイアサン。どちらも倒さないといけない相手とはいえ、今の私達には荷が重いのよね」


 香織と咲のステータスでも、勝てるかどうか分からない相手。それは、他の人では、ほぼ確実に太刀打ち出来ないという事を表している。


「それでも、今、倒さないといけないんですよね」

「ええ、このままだと、富士山の噴火だけでなく、日本そのものが滅ぼされかねないから」


 そう、今まで暴れてこなかったから安心出来るなんて保証はどこにもない。富士山を刺激し、そのまま日本中を飛び回り破壊の限りを尽くす可能性だってあるのだ。


「私達は時間の許す限り、強くならないといけないのよ」


 咲の言葉は、強い決意が表れていた。


 ────────────────────────


 工房に来た香織は、アイテムボックスの中を確認していた。


「必要なのは、魔鉱石、鉄、炭……さっきの蟹も使えるかな……いや、赤龍の爪を使うのもありかも……そのために、水耐草の抽出液を濃縮して……後、エキドナの骨も使えるかも」


 香織は、思考を声に出しながら、色々と考えていた。


「今回は、刀を打つんじゃなくて、全部、錬金釜で作ろう」


 香織は、錬成炭を使った火で、錬金釜を炙っていく。


「火力が少し足りないかな? じゃあ、ここに油を追加しよう」


 錬成炭の火力でも足りないと判断した香織は、可燃性の高い油を錬成炭に投げつける。そうする事で一気に火力が増していく。


「ここに魔鉱石、鉄、炭を入れる」


 魔鉱石、鉄、炭は、釜に入れた途端、液状に溶ける。


「ここに魔力水を入れる」


 魔力を含んだ水である魔力水を入れると、釜の中で勢いよく沸騰していく。


「固まらない……よし! 成功!」


 ここで冷えて固まってしまうと、錬成は失敗してしまう。だが、火の勢いを高めたおかげで、冷え切る事なく溶けた状態を保っている。


「どういう原理なんだか……本当、錬金術って不思議だね」


 香織は、そんな事を言いながら、蟹の甲羅と赤龍の爪、エキドナの骨を細かく砕いていた。砕いたものは、一つにまとめておく。


「そろそろ蒸発しきったかな」


 香織が釜の中を覗き込むと、中の魔力水が完全に蒸発しきっていた。


「うん、魔力水の魔力が完全に移ってるね」


 鑑定眼で確認してから、砕いておいたものを振りかける。


「これをよく混ぜる!」


 香織は掻き混ぜ棒を使って、釜の中身を混ぜていく。


「棒に耐熱処理をしておいて良かった~」


 釜の中の色が赤から、段々黒に変化していった。


「これ、大丈夫? 冷えてはないけど、すごい黒くなってる」


 香織は、少し心配しながらも、アイテムボックスから水耐草の濃縮液を取り出した。そして、それを釜の中に投入していく。


「大体二本くらいかな。これも進化のおかげかな? なんとなく、どのくらい入れれば良いのかが分かる」


 これまでの香織は、レシピ本を見て、どのくらい入れれば成功するのかを確認しながらやっていた。そこから、配分を変えてどのように変化するかを記録して、錬成の幅を広げたのだ。


 今やっている咲の刀の錬成は、全くレシピを見ずにやっている。それでも、どうしたら成功する失敗するというのがなんとなく分かる。これが、スキルの進化の影響だろう。


「うわっ! 光り始めた!」


 濃縮液を入れて掻き混ぜていると、釜の中が光り始めた。そのタイミングで掻き混ぜるのをやめる。


「…………いつまで光るの?」


 釜の中が光り始めてから五分程経っていた。


「おっ! 収まった!」


 光が収まると、釜の中には、漆黒の刀身をした刀があった。


「すごい……刀身に光が反射しない……」


 刀身は全ての光を呑み込むがごとく一切反射しない。


「重っ! よいっしょっと……」


 香織は、釜の中から刀を取りだして手に持つ。


「よし! これで、後は刻印と付与を行おう。刻印は、いつもどおり、『洗浄』と『鋭利化』……他には何にしようかな……細かく刻印すれば、多く刻印出来るし、咲が戦いやすくなるような刻印が良いよね……」


 香織は、約三十分以上悩んで、咲の刀の刻印を決めた。『洗浄』『鋭利化』『魔力浸透』『不壊』の四つになった。最後の『不壊』のおかげで、ほとんどのリソースを持っていかれてしまい、本来七つほど刻めるところを四つになってしまった。


「よし! これで壊れる事はない! めっちゃ魔力を持っていかれたけど、刻めて良かった!!」


 香織は、身体を伸ばしながらやり遂げた事による達成感を得ていた。


「『不壊』のせいで、付与魔法を掛ける余裕もなくなったけど。さて、他に必要なのは、薬と……『超重力爆弾』も作らないと、それに、『束縛の鎖』を強化して……私の道具も強化しないと……」


 香織が色々と考えていると、工房のドアが開いた。


「香織、この前の報酬が届いたわよ。また、玄関に宝箱でね」

「ああ、東京攻略のやつ?」

「そうよ」


 香織、咲、焔の東京攻略による報酬がやって来た。いつも通りの玄関に宝箱という形で。


 香織は作業を中断して、玄関の方に向かう。宝箱の前には、すでに焔がいた。


「開けようか」


 香織は、宝箱の蓋を開ける。そして、しばし固まる。


「これって……」


 中に入っているのは、三枚の紙だった。


「また、進化の権利!?」


 前に紙が入っていたときには、進化の権利だった。香織は、また進化の権利が渡されたと思い、少し落胆する。


「香織、少し違うみたいよ」


 咲は紙を手に取ってそう言った。


「ふぇ?」


 香織も紙を手に取ってみる。


「本当だ。スキルの書? でも、何の? 私の鑑定眼でも分からない」


 紙の正体は、スキルの書だった。そして、その内容は、香織の鑑定眼でも知る事が出来なかった。


「使ってみようかな」


 香織は、スキルの書に手を置いて、魔力を流す。すると、書の中身が頭の中に入ってきた。


「『空間魔法』? 転移とかが出来るのかな?」


 香織が得たのは、空間を操る魔法だった。


「うげっ! 『アイテムボックス』が消えてる! 何で!?」

「香織、落ち着いて。その『空間魔法』に統合されたんじゃない?」

「あっ、そうみたい。アイテムボックスの中身きちんと見れたよ」


 いきなり、アイテムボックスが消えた事で、慌てた香織だったが、咲のおかげで冷静になれた。


「えっと、『教本生成』」


 香織は、『空間魔法』の教本を生み出す。


「咲と焔も使ってみたら?」


 香織言われて、咲達もスキルの書を使用する。


「私は、『アイテムボックス』を貰ったわ。人によって違うのね」

「私は、『龍化』? というものを得られました。マスターに、核を封印して頂いたため、今は使用出来なさそうですが」


 咲と焔には、それぞれ別のスキルを得たようだった。ちなみに、焔のスキルとステータスは以下の通りだ。


 ────────────────────────

 人造人間・焔 Lv29

 HP:108000/108000 MP:100000/100000


 STR:89000 DEF:60000 SPD:74000 DEX:51000 INT:86000 MND:59000 LCK:100


 スキル:『剣術Lv10』『火魔法Lv10』『ステータス強化Lv10』『身体能力強化Lv10』『五感強化Lv10』『赤龍Lv10』『龍化Lv1』『環境適応』『不老不死』『再生』

 ────────────────────────


 スキル自体は香織や咲達と違って少ないが、ステータス自体は、結構高い。


「私達に合ったものを得られるスキルの書って事なのかな?」

「確かに、そうかもしれないわね。報酬と言うからには、かなり特殊なものが来るだろうと思っていたけど、ここまで特殊なものだとはね」

「使いこなせるようにならないとですね。私は店番に戻ります」


 焔は、そのままカウンターに戻っていった。


「そうだ。咲の刀が完成したよ。前と同じように、ちょっと血を貰ってもいい?」

「分かったわ。どんな刀か楽しみね」


 香織と咲は揃って工房に向かった。


「はい。これ針ね」

「え、ええ」


 針を渡された咲は、少し不安げになっていた。


「まだ、怖いの?」

「うるさいわね! 慣れるものじゃないのよ!」


 からかおうとする香織を怖い目で睨む咲。香織は、すぐに引き下がった。

 そして、針を自分の指に刺した咲は、香織の作った刀に血を撫で付ける。すると、刀身が光り始めた。


「……こんな風になったかしら?」

「……ならないね。どうなってるんだろう? 刀身も一切反射しないくらいの漆黒だったのが、滑らかな黒曜石みたいな感じになってるし」


 刀の光は段々収まり始めた。


「えっ……!?」

「どうしたの、香織? 私の鑑定じゃよく分からないのよ」


 香織は、すぐに返事をする事が出来なかった。それくらいの衝撃を受けたのだ。


「神刀……だって」

「……香織、そんなすごいものを作ったの?」

「作ってないよ! 神刀なんて作れるわけないでしょ!?」


 香織の作った刀は、咲の血を得て神刀へと進化した。


 ────────────────────────

 ユニークウェポン:神刀しんとう 黒百合くろゆり

 高山咲専用武器。桜野香織によって作られた素体に、高山咲の血を吸わせた事により、進化した。

 ────────────────────────


「黒百合だって、しかも、咲のユニークウェポンになってるよ」

「これも、香織のスキルが進化したおかげかしら?」

「あっ! それか!」


 香織達は、この結果が香織のスキルが進化した事が原因になっていると考えている。


「焔のも作れるかも! もう一本作ってみよ」


 香織は、もう一本、咲に作った刀と同じものを用意した。


「焔! ちょっと来て!」


 香織が呼びかけると、すぐに焔が工房までやって来た。


「どう致しましたか?」

「ちょっと、これに血を塗ってくれる?」


 香織は、焔に針を渡しながらそう言った。焔は、頷いて同意し、針で指を刺し、香織の作った刀身に血を塗る。しかし、咲の時の様な変化は、全く起きない。


「あれ?」

「変わらないわね」


 香織達の予想は当たってはいるが、少し足りない部分があった。


「何かしら、私と焔の違い……」

「何だろう? 血縁関係はないし……恋人とか?」


 香織と咲は、顔を見合わせる。そのまま、少し時間が経った。


「まぁ、それは置いておこう。焔、その刀の色変えてあげるね」

「はい。お願いします」

「もう遅いし、店じまいにしておこうか」

「わかりました」


 焔は、店を閉めるために店舗部に向かう。香織は、焔用の刀の染色を始める。


「私は、少し刀を振らせて貰うわね」

「うん。何かあったら教えてね」


 咲は香織が作ってくれた刀で素振りをしに、庭の方に向かった。


「私は、色々作業を進めておこ」


 香織は、数種類の薬と爆弾を作り始める。黒龍との決戦に備えて……


 ────────────────────────

 久しぶりの香織の成果

 神刀の素体を生み出す事が出来た。

 なお、神刀にするには何らかの条件が必要。

 その他、黒龍戦のための道具を複数製造。

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