26.絶望が解き放たれる(1)
改稿しました(2021年8月12日)
香織と咲は、エキドナとの戦闘を終えて、万里と恵里の元に向かった。
「香織さん! 咲さん! すごい!」
「あんな化け物を倒してしまうなんて、本当にすごいです!」
万里と恵里は、大興奮だった。
「落ち着いて二人とも。それより、私達の戦いをちゃんと見てた?」
「万里と恵里とは違う形だけど、あれも剣士と魔法使いの戦い方よ。剣士がトドメを刺すパターンね」
「魔法使いは、剣士のサポートをするの。今の私と咲の戦い方だと、私が、スケルトンの気を引きながら、咲に有利な戦場の形成。それが完了したのを確認した咲が、スケルトンを攻撃。その間は、咲に攻撃が向かないように撹乱って感じかな。
通常の戦闘だと、魔法使いがトドメを刺すんだけど、あのスケルトンは魔法耐性が高かったから、余計に咲のような剣士が、トドメを刺さないといけないんだ」
前に起こったスタンピードでも、モンスターの殲滅には魔法を使っていた。耐性の無いモンスターに対してはこれが一番の方法だ。
しかし、魔法耐性のあるモンスターがいれば、この方法は使う事が出来ない。剣士と魔法使いは、持ちつ持たれつの関係性なのだ。
香織達は、万里と恵里に、この時の戦い方を見せておきたかったので、今回のスケルトン・エキドナは、ちょうどいい相手だった。
「でも、私には、香織さんみたいな魔法の使い方は出来ないですよ」
香織は、膨大な魔力によって数百数千の魔法を同時に放っている。恵里の魔力量では、香織と同じ事はできない。
「じゃあ、工夫しないとね。魔法は、皆が使っているような単調なものばかりじゃ、使っているとは言えないよ。魔法はそんなに不便なものじゃ無い。もっと柔軟な考えを持たなきゃね」
「柔軟な?」
「ひとまず、教えられるのはここまで、ここから先はまず、恵里ちゃんが考える事だよ」
「え!?」
「きちんと自分で考えられるようにならないと、私がいないといけなかったら、意味が無いでしょ?」
これから先も、ずっと香織が一緒にいるわけじゃない。香織がいなくてもあらゆる状況に対応出来るようになってもらわないといけない。
そうなるには、きちんと考える力を養うことが必要だ。
「分かりました。頑張ります!」
恵里はやる気十分だった。
(恵里ちゃん張り切ってるけど、今日は、もう戦闘はほぼ無いんだよね)
香織は表情に出さずに、心の中で苦笑いだった。
「万里は、トドメをさせるような一撃が必要ね」
「咲さんみたいな鬼神化ってこと?」
「鬼神化は、無理ね。どうやって手に入れたのか、私にも分からないから」
「じゃあ、どうすれば良いの?」
「まずは、レベル上げね。それと同時に技術も上げなきゃね。あとは、スキルレベルも」
「結局、地道に強くなるしか無いってことだね!」
万里も万里でやる気に満ちていた。
「やる気があるのは良いけど、今は先に進みましょうか」
「「はい!」」
「じゃあ、行こう! その前に、あのスケルトンを回収してくるね」
香織は、スケルトン・エキドナの骨を回収に向かう。十メートル以上もあるエキドナを回収するのは、少し大変な作業だったので、時間が掛かってしまった。
「ごめん、意外に時間が掛かっちゃった」
「大丈夫よ。こっちも休んでおきたかったから」
鬼神化のコントロールが利くようになったとはいえ、代償無しとはいかなかった。体力を大分削られてしまい、動くのが億劫になっていたのだった。
「じゃあ、核がある場所まで行こうか。ダンジョンを破壊しなくてもいいけど、どんな状態かは見ておかないといけないからね」
香織達は、ボス部屋の奥の通路から、核のある部屋に向かう。通路は、意外と短く、すぐに核のある場所まで来られた。
「これが、核?」
「今まで見た事のあるものと全然違います」
万里と恵里は、顔を強張らせる。
そこにあった核は、どす黒い色に濁っていた。通常のダンジョンの核は、綺麗な結晶で、透き通るような空色をしているものがほとんどだ。
「進化しているのかと思っていたけど、どうやら違うみたいだね」
「これは進化と言うより変質ね」
「壊すつもりは無かったけど、壊した方が良さそうだね。何が起こるか分からないし」
「ええ、そうね」
香織達は、ダンジョン『狂骨の砦』を壊すことを決意する。ただの進化であれば、核の変化は無い。少なくとも、香織達が、今までに攻略したダンジョンの中で、進化で核が濁ったものは存在しない。
香織は、水魔法で作った水の刃を飛ばし、核を壊す。壊れた核は、忘れずに回収する。
「さぁ、速く中央に行って」
万里と恵里を部屋の中央に促す。万里と恵里は、言われるがまま中央に向かった。香織、咲、万里、恵里が中央に揃うのと同時に、足下に魔法陣が現れる。
「へ? 何これ!?」
「わ、わわわわ」
万里と恵里が突如出現した魔法陣に慌て出す。
「大丈夫だよ」
「ただの転移だから落ち着いて」
香織と咲が、二人を落ち着かせる。これは、核を壊したときにだけ出てくる魔法陣だ。ダンジョンの外に転移させてくれる。
(ただ、なんでダンジョンに、そんな機能があるかは分かっていないんだよね……)
香織と咲も、何故ダンジョンに、こんな機能があるかは分かっていない。
一瞬の浮遊感と共に目の前の景色が変わる。今、目の前に見えるのは、ボロボロの櫓が崩れ落ちていく様子だった。
「これでダンジョンが無くなったの?」
「ええ、もう櫓の下には、下り階段もないわ。この下を掘削しても、ダンジョンの跡すら見付からない」
「ダンジョンがあったはずの空間は、元々の土の状態に戻るんだ。この事もダンジョンの不思議だね」
ダンジョンには、まだ分かっていないことが数多くある。香織達も色々探ってはいるが、何のヒントも得られなかった。
「こういったことも、支配者を討伐したら分かるのかしら?」
「私もそう思う。あの時情報の解禁って言ってたし」
「でも、支配者って、あのリヴァイアサンとかのことなんですよね?」
恵里が顔を青くさせながら訊く。何度かその姿を見ているので、リヴァイアサンと戦うのを想像してしまったのだろう。
「私達の予想ではね。後は……」
香織の言葉の途中で、大きな轟音が響き渡った。それは、大気を揺るがす程の轟音だった。香織達は、思わず身構えてしまう。
「何!? 何なの!?」
万里が音のした方を見て、そう叫ぶ。
「万里、落ち着いて。恵里もよ」
咲がそう言って二人を落ち着けさせる。それと同時に、音のした方から砂煙が立ち上った。
砂煙が立ち上った場所は、香織達のいる鎌倉からは遠いところだった。
咲は、領空権の効果なのか、空に何かがいることが分かった。
ギャァァァァァァァァオォォォォォォォォォ!!!
香織達の元まで響き渡ってくる咆哮。
香織達は咆哮の元を見る。万里と恵里だけで無く、香織と咲も固まってしまった。
その姿は、厳つい顔と皮膜の張った羽があり、赤龍を彷彿とさせる。しかし、赤龍と違う部分がある。それは、その身体の色。その色は……漆黒。
香織と咲も見た事のある、その怪物の名は……。
「黒龍……ネロ・ベルニア……」
香織と咲も恐怖した怪物が世に解き放たれた。
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