100.解放軍支部
香織達が、少し長めの階段を上っていくと、外へのハッチが見えた。ライアンが、ハッチを開いて外に出ていく。香織達も後に続いて行った。ハッチを抜けた先は、また通路だった。
「ここがアジト?」
「ここから、もう少し歩けば着く」
どうやら、まだ道の途中だったみたいだ。香織達は、そこから十分程歩いた。すると、正面に扉が現れた。
「ここからがアジトだ。俺と一緒にいれば、他の面々に見られても、問題ない。だから、離れずに付いてきてくれ」
「分かった」
ライアンの後に、玲二が続き、香織、咲、重吉、他二名と続いて行った。アジトの中には、多くの人がたむろしていた。香織達とすれ違う度に、じろっと見てきている。知らない人が来ているので、仕方ないだろう。
「ここだ」
ライアンは、一枚の扉の前で止まった。
「中に、この支部の代表がいる」
「ん? 組織の代表じゃないのか?」
ここが組織の支部だという話は、玲二も聞いていない。
「ああ、代表は、ニューヨークにいる」
「じゃあ、本格的な同盟は、そっちに行かないといけないのか?」
「恐らく、それはないと思うが、まぁ、話し合ってみてくれ」
ライアンは、そう言って扉を開く。そして、香織達を中に促した。
部屋の中には、向かい合わせになったソファとその間にテーブルがあった。奥のソファには、金髪碧眼の女性が座ってる。その顔の左側。目の上から頬に掛けて、大きな傷跡が付いていた。そして、その眼孔は凄まじく鋭い。その姿を見た、護衛の二人は、少し見られただけで萎縮していた。
香織と咲はといえば……
(すごいスタイル……私も成長しないかな……?)
(絶対にスタイルについて考えているわね。何か失礼な事を言わないと良いけど)
全く萎縮せず、そんな事を考えていた。玲二や重吉も同じく萎縮などしていない。
「座りな」
女性は、たばこに火を点けながら、そう言った。
「たばこ?」
「嫌いかい?」
思わず呟いてしまった香織に、女性がそう訊いた。
「ううん。たばこがあることに驚いただけ」
「そう。嫌だったら、言ってね。君達がいる間は、吸わないようにするから」
そう言う女性に、誰も嫌だとは言わなかった。
「さて、そっちの代表は誰?」
「俺だ」
ソファに座りながら玲二がそう言った。
「飛行機で、ここまで来たって事は、領空権持ちと交流があるって事だね?」
「ああ」
玲二は、その所有者が、この場にいるということを喋らなかった。無闇矢鱈に、権利について話すのは、危険だからだ。
「そう。なら、次に来る時は、その権利持ちを連れてきて欲しい。こっちも、空を移動したいから」
「保証は出来ない」
「そう。まぁ、仕方ないね。それじゃあ、本題に入ろう」
女性の目付きが、少し鋭くなる。
「私の名前は、エマ・トールソン。解放軍ロサンゼルス支部の支部長だ」
「俺は、日本の冒険者ギルド代表の坂本玲二だ」
「アメリカと同盟を組みたいんだってね。でも、残念なことに、アメリカはバラバラになっている。同盟を組んだとしても、アメリカの一部とって事になるよ」
「構わない。そちらが、アメリカの実権を握ることが出来れば、アメリカとの同盟になるはずだ。俺としては、志を同じくするそちらと同盟を組みたいのでね」
解放軍は、冒険者ギルドと同じく、アメリカを解放して元の状態に近づける事を目的としている。だからこそ、玲二は、解放軍と接触する事を決めたのだ。
「なるほど。なら、ニューヨークに向かうと良い。そこに解放軍の本部長がいるから。書状を用意しておいたから、これも持ってね」
エマは、そう言って、一通の封筒を渡した。
「一応、私達、ロサンゼルス支部は、同盟を受け入れるから、何かあれば言って欲しい。その代わり、私達の頼みも聞いてもらいたい」
「ああ、俺達の出来る事なら手伝うが、何かあったのか?」
「ええ、フィールドダンジョンの攻略を手伝って欲しいの」
アメリカでもフィールドダンジョンが発生しているみたいだ。
「フィールドダンジョンか……どこにあるんだ?」
「すぐ近く、ハリウッドだよ」
「そんなに難易度が高いのか?」
「雑魚敵の強さは、それほどでもないんだけど、ボスが異常な強さで、敵わないの」
「そういうことか。分かった。協力しよう。とは言っても、戦力になれるかどうか分からないけどな」
玲二達は、ある程度の人数がいるとはいえ、フィールドダンジョンのボスと渡り合えるだけの強さがあるかどうかは、別問題だ。
「それは、そこの二人のお嬢さん達も手伝ってくれるということ?」
エマは、香織と咲を見てそう言った。
「どういう意味だ?」
玲二は、少し警戒しながら訊く。香織と咲は、厳密には冒険者じゃない。そのため、手伝ってくれるかどうかは、二人次第ということになる。玲二は、そのことを、エマやライアンに話してはいない。
「そのままの意味だよ。そこの二人だけ強さが桁違いだ。恐らくだけど、権利を持っている子達でしょ? こう見えて、人を見る眼だけはあるの」
エマは、にこりと笑いながらそう言った。玲二は、正直に話すべきかどうか迷った。しかし、そんな迷いも意味がなかった。香織達が、口を開いたからだ。
「うん、そうだよ。よく分かったね」
香織は、正直にそう答えた。
「じゃあ、あなた達のどちらかが、本部長の娘さんだね?」
「「えっ!?」」
香織と咲に衝撃が走る。
「待って。本部長の名前は?」
「マヤ・サクラノ」
「あっ、お母さんだ」
桜野真夜。香織の母であり、アメリカ解放軍の本部長を務めているらしい。
「何で、お母さんが本部長なんてやってるの?」
香織は、混乱しながらもエマに問いかけた。
「変異した後、真っ先に皆をまとめたのが、本部長なんだよ。おかげで、崩壊しかけた秩序も一時的に保つことが出来たんだ」
「お母さん、何やってるの……?」
「おばさんらしいといえば、おばさんらしいわね」
香織達は、頭を抱えながらも、真夜らしい行動だと納得した。
「じゃあ、お母さんは、ニューヨークから移動していないんだね?」
「多分ね。本部長は、行動派だから、運営を副本部長に任せて、色々な場所を回っている事もあるんだ」
「副本部長って、お父さんだよね?」
香織がそう訊くと、エマは頷いて答えた。これで、香織の両親は、二人とも生き残っている事が判明した。今のところはだが……
「結局、目的地は、ニューヨークかぁ。時間は掛かるけど、会えそうだね」
「いや、次の目的地が、ニューヨークだぞ」
「へ?」
当初の方針では、ニューヨークに行く前に、途中途中寄り道をする手はずだったが、いつの間にか変わってるみたいだ。
「どうして?」
「目的は、アメリカとの同盟だからな。解放軍との同盟を早く締結させるために、ニューヨークに直接飛ぶ事に決めた」
「まぁ、そうだよね。じゃあ、さっさと、フィールドダンジョンを攻略しないとだね」
「じゃあ、フィールドダンジョン・ハリウッドについて説明するよ」
香織達は、ハリウッド攻略のための会議を始めた。
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