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 とある家庭教師の視点その2


 一コマ一時間~二時間切りの良い感じに教えるのが、スタンダードだと家庭教師経験のある姉の友人に聞きました。この終わりの見えない授業(なんでしょうか?)から延長戦もあり得ます。私としては午前の一コマ出来なかったので丁度いい――とも言い切れない。

 私、歌ってしかない。


「ノージ・ファラメア・エンザクトこれがスパークの詠唱になる。じゃあ、ケミ。これを古代語に変換して」


 ここで古代語? 確かロジー・プラメ・エレザンクトリアでした。彼は知らないでしょうけど、私古代語自信あります。こういうのこそ当てて欲しいです。……あれ? カペラさんのお兄さんが指揮してるので、すっかり立場を忘れてましたが、私先生で合ってますよね? 私要ります感がパナい。


「『大気の精霊』がロジーで、『集結』がプラメ、『力を我に示ーせ』だから何々リア。でしたっけ?」


「ロジー・プラメ・エレザンクトリアな。エレザンクトが雷属性の古神名だ。雷属性に友達居ないのかよ」


 無知怖っ! ケミー様のご親族に雷使いの新祖と呼ばれるお方がいるのに。この前期待の新星達による食事の会合に出席していたじゃないですか。卒業生による有志会報で読みましたよ? 貴方の隣に並んで座ってたじゃないですか。ケミー様も面目ないじゃないよ。聞かれていたらどう繕うつもりなんですか。

 居ないですよね? 隠れて居ないですよね? 居てもおかしくはないのがヤバいです。


「ノージ・ファラメア・エンザクトで発動して、ロジー・プラメ・エレザンクトリアで発動しない理由を考えたことは?」


 それは近代化に伴う効率で……


「無いのかよ。時間がもったいないから答え言うぞ。魔法言語でもう一つは書記言語だからだ」


 は? 魔法言語って、そんな文献ありませんでしたよ!? そもそも魔法言語、しょき? 言語なんて言葉が聞いたことがないですよ!? そのトンでも説はどっから湧いて出た!?


「魔法言語は文字で書き残すのは当時の技術で不可能だった」


「確かに、魔法文字で書き残せば、対応する属性者が触るだけで発動しますが、複数人で管理すれば……レイペーパーとインキか!」


「え? 筆記具無かったの?」


 私も品名だと思っていたとは言い出す空気ではないので黙っていました。親戚のお兄ちゃんに「セイちゃんも大人なんだからこういった一流の物を使わないとね」と私の卒業祝いに頂いた高級レイペン。大事に使っていたこのレイペンと今後どんな気持ちで向き合えばいいんでしょうか?


「いや、そうか。今や品名みたいになっているからか……雷のカペラには特に関係あることだ。よく覚えておきなさい。全てのものに魔力は存在し、魔法は全ての事柄に干渉している。インクも例外ではない。雷魔力は紙に乗せたインクを引っ張りかすれさせるんだ。水魔力はインクを滲ませ、火魔力は色をあせさせる。紙も然り。だから正式な発音で情報を保存するのは不可能だったんだ」


「あれ? だったらロジー・プラメ・エレザンクトリアだって文字だから残せないはず……?」


「流石、良いところに目を付ける」

 誉められました。年下に誉められて嬉しくなる感覚が無性に空しい。


「文字の確立とともに、後世に残せる形で記されたのを古代文字と踏んでいる。ある二つ文字配列によって魔力干渉を最小限に抑えることに成功した。名前が存在しないので仮に合体語と分割語と読んでいる。しかし、この説には重大な欠陥がある。読み方の解読法がないこと。だから、議論のテーブルにさえ上がらないんだ」


 なにここ学会? 少年少女の四人で学会ではないですけど、学会レベルの討論会。学会終わりの教授達の悪口に付き合うプチ高級酒場(バー)ですか? 面倒くさいところに迷い混みましたか? 私。


「文献に一切残っておらず、調べようがないから推測の域を出ない。本来は他者に読まれないように解読法を秘匿に代々と引き継いでいた家宝みたいなものの可能性。属性継承されやすいし。それが何かの拍子に出来なくなり、文書だけが現代に残ったのではないかと」


 ここまでいくと歴史ミステリーみたいでドキドキしてきました。ちょっと楽しくなっている自分がいます。


「ノージ・ファラメア・エンザクトとロジー・プラメ・エレザンクトリア。使われていない文字を抜き出すと、あるものが見えてくる。レレーリアだ。炎の基礎魔法プチファイア『燃やし放ち、我が力を示せ』コルト・バーメル・フレイン。ロコルト・バーレン・フレメリア。こっちもレレーリアだ。レレーリアが意味するものとは――魔力の無効、及び極大減少を意味するのではないか?」


 レレーリアと聞くたびに興奮度が上がる。レレーリアキター、レレーリアもう一丁キターみたいに。ダメ押しレレーリア最高ですわ。

 魔法無効ってなんかロマンがあるよね。ほら、一般の私が物凄い魔法使いと対峙し凄い魔法使ってくるの。それをバシュンって感じに一瞬で消して、その程度の魔法私には効かぬわ! 自分最強みたいな? 強い魔法使いを屈っさせられそうなのが最高ですね。


「……レレーリア、魔法無効、まずいな。カペラさん、セイラさん」


 ケミー様に名前呼ばれた。


「このことは他言無用(オフレコ)で。誰にも話してはならないよ」


「魔法第一主義者達による暗殺を心配してるのか? 別に大丈夫だろ。手詰まりの研究から脱却って感じに、近い将来に誰かがそういう論文が書くだろうし。その頃にはバンバン言えるようになっているだろ。バンバンはあり得んか。ハハハハッ」


 笑いどころが分からん!

 てか、私、命狙われるの? 子供が好き勝手言っただけのことを聞かされて、反国者で命狙われるの? 割に合わないよ!


「レレーリアだって左から右に読んだものだ。正しいかもわからん。子供の戯言と相手もされまいよ。それは一旦、置いといて」


 置いとけない! 置いとけないよ!

 子供の戯言で済む話じゃないですよ!

 この年齢で人気の無い所で襲われないか怯えて生きる人生絶望ですよ……

 子供の戯言で押し通すしかないのか……


「レレーリアは魔力の何を変化させ効果を発揮するのか? ロスト、レイジー、ロック……古代魔力の概念であるエイラに三つの(エル)を加えた形が――」


「レレーリア……!」

 私は思わず、口にしていました。

 金プラの少年はそうだと肯定するかのようにゆっくり頷く。


「『燃やす』コルトは何を燃やすのか? 『集結』プラメは何を集めるのか? エイラ、魔力だ。魔力を集め、魔力を燃やし変換する。魔力を使うことを意識するのとしないのでは、魔法威力に雲泥の差が出る。ここで終えるのは凡人的な発想だ。もう一歩踏み込む」


 ここまで革新的な発想にまだ上が……

 演説のように振り上げた拳を下げて、目が合いました。

 一つの答えに向かう真っ直ぐな揺るぎ無い瞳に引き込まれます。


「マナとエナ」


 全てのパズルのピースが揃うかのように私の中でぴったりはまる感覚。私の手は震えていた。


「体内魔力と体外魔力をそう分類する。専門書は上院でも行かない限り資料は読めないから詳しいことは俺も説明は出来ないが、体内に保有する魔力と空気中に浮遊している魔力、空気保有魔力とされるもの。それくらいは誰だって感覚的に知っているはずだ」


 私は訪れた事がないが、西側には高魔力地帯と呼ばれる霊山があり、東側には低魔力の洞窟が存在する。地学は専門外だが生きる上で必要な知識は誰もが聞かされる。異常地帯に近寄ることなかれと教えられる。


「魔力に関してどう消費されるか、語られていないんだ。体内のは当然として、体外の魔力の動きは語られたものはない。だから試すしか無かったんだ」


「まさか、お兄さまがこもられたのって……!」


「自分なりの結論は出したつもりだ。アネス・ファプ・クリザネーション」


 手から金塊よりも、私は聞いたことのない呪文に未だかつてない衝撃を受けた。

 私が及びもつかない。

 この少年は天才なのだ。


「今のだって時間経てば基礎魔法とされるかもしれない段階さ。生きている以上頂上を見たいと思わないかい? 応用ってものは膨大な基礎の積み重なりから成り立つんだ。基礎が無い知識に価値はない。セイラさん。これからも妹に魔法の基礎を教えてくれませんか? 貴女の思う全ての基礎を」


 私は意味を貰った気がした。

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