七十八話 無駄に考えました!
「マノア先輩、今日も一緒に寝よ?」
「うん、良いよ。」
フォリスに許可を出した後2人で寝室に行き、同じベッドに横たわる。
ここ最近、毎日フォリスが僕と一緒に寝たがる。
最初は他の世界の記憶にあった僕との死別を思い出してしまったとか、僕の失踪が大きな不安を与えてしまったのかと考えていたけど、徐々に違和感を感じてきた。
寝る時以外でもほとんどの時間僕の近くにいるし、なんだかずっと見てくるような気がするし…
…いや、分からなくもないんだ。目を離したら僕が居なくなるんじゃないかとか、ついそんなことを考えてしまうというのは。
それを強く否定できない出来事があったばかりだし、もし僕が居なくなったらフォリス一人でこのお店を続けて行けるか、生活はどうするのかとかそう言った不安も無くしきれないことは分かる。
だけど、いくらなんでもくっつきすぎのような気がする。
たまにフォリスを見てみるとじっと見られてる時もあるし、目を合わせたらさっと目を逸らすし…
何かあるのか訊いても大抵何も無い。本当に用がある時もあるけど、なんの用もないことの方が多い。
……そんな行動をしてしまう程に心配をかけ、不安を与えてしまった可能性もある。
ただ、妙に気になるのだ。前世の経験を持っていて精神的には成熟している彼女がそこまで不安定になるものなのか。
…フォリスも人間だ。前世の記憶があっても、それは変わらない。
疑念への肯定と否定を繰り返して、答えは一向に出ない。
いつも出る結論は様子見だけ。
こんな不毛な思考としか言いようが無かった。けど、フォリスへの疑念は心に深く刺さって抜けない。
…僕はフォリスの何を疑っているのだろう。
前世で助けられたからという理由で、この世界では何の関係も無い僕について来てくれて、時に助けてくれて。
そんな相手を自分で弱らせておいて、何がおかしいというのだろうか。
「先輩…?」
「あ、ううん。なんでもない。」
気が付けば一向に寝ようとしないでずっとフォリスを見続けていた。
そのままずっと彼女を見続けていても仕方が無いので、仰向けになって目を閉じる。
労働の疲れは程よい睡魔に変貌し、安らかな眠りへと誘われてゆく。
そう言えば、ちょっと前までフォリスは普段しないようなミスを何回もしてたっけ…
まるで、彼女がフォリスじゃなくなったみたいに――――
「やっほーマノア君! お久だねぇ!」
「マノア、来たぞー。」
「アユミさんにシンヤさん! お久しぶりです!」
今日来たのは前世でフォリスが知り合っていたオータク姉弟だ。
最近2人の姿を見てなかったけど、忙しかったのかな?
「…アユミ…とシンヤ? 久しぶり。」
「おうおう、なんだー? 今日のフォリスちゃんは妙に元気が無いじゃないかよーぅ?」
「今日もアクセル全開だな姉ちゃん…まあ、これでも気遣ってやってるつもりなんだ。テキトーに乗ってあげてくれ。」
「そーゆーこと言ったら私がふざけてるけど本当は真面目で誰よりも人を気遣ってる人のフリしてる奴みたいなクサいキャラっぽくなるから止めて!?」
「誰もそこまで言ってないしフリじゃなくて実際気遣ってんだろ?
…で、フォリス。大丈夫なのか?」
「う、うん、大丈夫…元気だよ。」
アユミのテンションに圧されっぱなしのフォリスに、フォローを入れるシンヤ。本当に仲が良い姉弟だと思う。天涯孤独の身としてはちょっとうらやましい。
けど、実際にアユミがお姉さんになったら苦労しそうだな…なんて考えてみる。ちょっと笑いが零れた。
「おやおやマノア君、お可愛いですねぇ。」
「可愛くないです!」
「多分言ってみたかっただけだと思うから無視しても良いぞ。」
「もう、進矢のいけず~…私の調子をそんなに崩して楽しいか!? 私の調子はドミノか何かか!?」
「本格的に調子乗ったら歯止め効かなくなるからその前に止めてやってんだよ言わせんなめんどくさい。」
「“言わせんな”に恥が無い! やり直せ!」
「そういうとこだぞ。」
「あー…フォリス、あとよろしく。」
「え? マノア、先輩?」
よく分からない漫才ワールドが展開されたので、後はアレに付いて行けるフォリスを残して厨房へ戻る。
店員がお客さんと大声で長々と話をするのは褒められたものじゃない。少なくとも僕は調理の仕事もあるのでいつまでも居る訳にはいかない。フォリスもずっと話してて良い訳じゃないけど。
「先輩…」
「あ、もう終わったの? もうちょっと話して来てて良いよ。」
「えっと、ううん…ちょっと話に付いて行けなくなっちゃって、注文だけ訊いてきたんだ。」
「え? そうなの?
…じゃあ、注文聞くよ。」
驚いた、フォリスでも付いて行けない事ってあるんだ。
今まで無理させちゃってたかな? 楽しそうに話してたからてっきりフォリスなら大丈夫だと思ってたんだけど、これからは気を付けることにしよう。
「あ。それと先輩と話したいから来てほしいだって。」
「分かった、料理を持って行く時に話すよ。」
話したい事…直近では失踪の事かとは思うけど、2人はそのことを知っているのだろうか。知ってたらもっと早く言いそうだけど。
手早く出来ていた料理を盛り付け、盆に乗せて姉弟の席へ向かう。
「お待たせしました、何か話があるんですよね?」
「お、ありがとね。
そうそう、フォリスちゃんのことなんだけど…なんだか変じゃない?」
「…そう思いますか?」
「おお、まさかマノア君が黒幕?」
「いえ、そんなじゃ……そうかもしれないんでした。」
「どういうことだ?」
「実は―――」
僕は自分の失踪について話した。
けど、その表情は何と言うか――意を得ていない、という顔だった。
「んー…確かに、マノアが居なくなったのは負担だったと思うけどさ…今のフォリスはそういうんじゃないんだよな…」
「貴様見ているなっ!?」
シンヤさんが真面目に考えていると、アユミさんは突然バッ、と顔を隠しながら僕の後ろに指を指した。
唐突過ぎて頭がどうにかなってしまったのかと思ったけど、一応訊いてみる。
「…何してるんですか?」
「いや、フォリスちゃんがジーっとこっち見てたからね? つい言って見たくなっちゃって。もう居ないけど。」
「ポーズまで真似してもフォリスに伝わってないみたいだぞ。びっくりして逃げちゃったじゃないか。」
「進矢! そのネタ教えずして何を教えてきたの!?」
「フォリスに地球のネタ教えたのは俺じゃねーよ! 向こうの俺に言ってくれ!」
「気にしないでください。ここ最近フォリスはああなので…」
「……ん? マノア君、フォリスちゃんはここ最近ずっとああなのかい?」
「はい、そうですけど…」
「何?」
…ここに来て、シンヤさんに加えてアユミさんも深刻そうな顔で考え込む。
「…あ!」
「何か分かったんですか!?」
そして、アユミさんは目を見開いた。
「せっかくのお料理が冷めちゃう! 早く食べなきゃ! ほら進矢も!」
…テーブルに目を向けたまま。
「…だと思った。
じゃあマノア、また後で来てくれ。このままじゃ姉ちゃんが食いながらしゃべりかねないし、マノアも他のお客さんいるだろうしさ。」
「あ、はい。」
答え合わせは食事の後のようだ。
僕はそれを待ちながら、仕事を続けることにした。
大卓姉弟マジで書きやすいです。




