六十九話 気付けませんでした!
あの後狩人ギルドに行ったけど、結局レーサさんとは会えなかった。
仕方ないので話がしたいと伝言を残し、ウィラさんとの約束の時間が迫っていたため帰った。
侵入者探しはなんの進展もなし。尻尾も手掛かりも手の中には無い。
でも、今回の捜索は完全に空振りと言う訳でもない。
条件付きとはいえ性転換薬が販売されているという情報。これは非常に大きい。
それさえあれば何かのはずみで男だとバレることも無くなるだろう。そうすれば今後動きやすくなる。
…使うことに抵抗はもちろんあるけど、使わないリスクに比べれば些細なものだ。
「ティーサさん、もうお茶無いですよ。淹れますか?」
「あ、ホント。じゃあお願い。」
と考えていると、ティーサさんが空のカップを傾けていることに気付いた。
今日もウィラさんと一緒に作った夕食を三人で囲う。いつもと違うのはメニューとティーサさんの様子だけだった。
話していてもどこか上の空だ。余程悩んでいるのだろう。
「ティーサ様、どうも何かお悩みのようですが…なにかあったんでしょうか? 」
「なんでしょうね…」
全く心当たりは無いけど、理由は僕なのかもしれない。
というのも、彼女は何度もチラチラと視線を僕に向けてくるのだ。流石にずっとじゃないし、視線が合ったらすまし顔で食事に戻ってたけど。
「えっと、どうかしたんですか?」
「…貴女ね、嘘つくの下手なのよ。」
「え?」
全く予想の外にあった言葉が飛び出してきた。嘘?
「朝私があんなことを言ってしまったのは謝るけど、本当に行くなんて。」
「え、あっ。」
バレてた。侵入者を探しに行ってたことが。
そう言えば行くなって言ってたっけ。
「あ、あれはせっかくだから観光しようかなって思っただけで…」
「観光にしても周囲の警戒が過剰すぎるわ。あんなの、見るからに何か探してますよって言ってるようなものじゃない。」
そんなに露骨だったかな?
でも、そう言われてるってことはそれが分かるくらいには…ってことだよね。それじゃもし侵入者に近付けても警戒されるか。今後はそういうことも考慮して捜さないと。
「それで、その時に見ちゃったんだけど…貴女、薬買おうとしてたじゃない?」
「薬?」
「その…あの薬。」
「ああ、そうですね。」
性転換薬の事か。
だって他の薬は特に見てなかったし。
「あの薬!? ま、まさか…違いますよね?」
「きっと貴女の想像通りよ。」
「え…マノア様、嘘ですよね?」
なんで2人はそんな反応してるんだろ。確かに変だとは思うかもしれないけど。
「けど、もう一人いないと駄目だからって断られたんでしょう? なら、わ、私が一緒に行っても良いわ。」
なんでそんなにぎこちないんだろう。
「それは助かりますけど、お仕事は良いんですか?」
「良いの、私自営業みたいなものだから。下手をすれば今のマノアより自由よ。」
どんなお仕事してるんだろ…訊いてもはぐらかされるけど、後ろ暗い職業じゃないことだけは祈っておこう。
「そうですか、じゃあ明日はお願いします。」
「分かったけど…なんか、かなり軽いんじゃない? もしかして使った事あるの?」
「………………………」
答え辛い。確かにあったけど。
でもどうやら沈黙と表情が答えを示していたようで、2人は顔を見合わせた後赤い顔で食事に戻った。
「きょ、今日は良い日ね。
よく晴れてて、良い風も吹いてて…」
家を出てからというもの、ティーサさんはずっとこんな感じだ。
どことなくぎこちなくて、振られる話題からもなんとなく距離を感じる。
その内趣味でも訊かれそう。
「ティーサさん、どうしたんですか?
昨日といい今日といい、様子が変ですよ?」
「どうしたって、それは…決まってるじゃない、だって…」
「?
決まってるって、何がですか?」
「ああもう! わざとじゃないの!? 絶対わざとよね!?」
「わざとって…どういうことですか?」
「…教えてあげない。
そっちがそうくるなら、絶対に教えてあげないんだから!」
「え? え? 何がですか?」
「さ、早く行くわよ! 売り切れるかもしれないから!」
売り切れるほど人気があるかな?
そんな疑問を感じながら、少し不機嫌になったティーサさんに付いて行く。
やがて昨日のお店に着いた。その時にはティーサさんの不機嫌もなりを潜め、元のぎこちない様子に戻っていた。
「すみません、性転換薬を下さい!」
「ちょ、ちょっとマノア! 声大きい!」
「昨日のお嬢ちゃんかい。確かにガールフレンドを連れて来たね。
…はい、代金は確かに貰ったよ。そら。
それと、そういうことはあんまり大きな声で言うもんじゃないよ。」
「あ…はい、すみません。」
曲がりなりにも求めていた物だ。まもなく手に入ると知ってついテンションが上がってしまうのは仕方のない事だろう。
でも声を大きくするのは良くなかった。
それはそうだ、男子禁制のこの島で、こんなものを使いたいなんて………
……うん?
「ほ、ほら! 目的の物は手に入ったんだから早く帰りましょう!
あんまり遅いと置いて行くから!」
「は、はい!」
思考を中断し、踵を返したティーサさんに付いて行った。
なんだか頬が赤いのは、早足のせいなのだろうか。
この後は何も話さず、2人で彼女の家に戻って行った。




