↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シーサイドへようこそ!  作者: じりゅー
第五章『彼と彼女の境界線』
60/114

五十九話 妄想しました!

 

「どうだった?」


「分かったのは外が平原だということだけでした…」


 もう一度セシカさんに肩車をしてもらい、窓から見えたのは一面の平原、というか草が生えた地面だった。

 窓の大きさのせいで範囲が限られ過ぎているのでそれ以上の情報は得られない。


「なら、そこの窓から何か合図を送れば誰か来てくれそうじゃない?

 例えば、煙とか…」


 狼煙か。

 確かに、周囲に人が居るなら有効そうだけど…


「誰かいるならさっきの騒ぎで気付くんじゃないですか?」


「そうよね…

 …あ、でも魔法で煙を出し続けてれば誰か来てくれるかもしれないわ。ちょっと遠くでも煙を高くまで飛ばせれば気付いてくれるかもしれない。」


「そんな魔力あるんですか?

 少しの時間ならともかく、長時間、しかも広範囲で魔法を使い続けるのは危ないです。

 魔力切れで死んでしまうかもしれないんですよ?」


「…そうよね。」


 以前の僕にはレーサさんが居たけど、今回脱出する前に魔力切れになってしまったら助かる見込みはほとんど無いだろう。

 ここからは出られないし、もし出られても近くに診療所やお医者さんが居ないために処置できない可能性が高い。ここでの魔力切れは避けなければならなかった。

 なので、やたらめったらに魔法を乱射して壁を破壊して脱出するという方法は取れない。というか、数発の魔法で出られるくらいならとっくにやっている。


「……じゃあ、やっぱり無理なのかしら。」


「無理、というと?」


「ここを出ていくこと。

 もういっそ諦めて、誘拐犯が来るのを待つ?」


「そんなの、それこそ終わりですよ!

 諦めちゃだめです、諦めたら本当に終わりです!」


 諦めてしまえば一筋の光すら届かない。いや、気付くことすら出来ないだろう。

 諦めずに注視すれば、それが見えてくるはずだ。例えどれだけ弱い光でも。


「……じゃあ、貴方は今“あれ”を使える?」


「“あれ”?」


「実はね、一つだけ方法があるの。

 貴方も私もここから出て行く方法が。」


「本当ですか!?」


 セシカさんの言葉に喜びを感じる最中、疑問も感じていた。

 そんなに自信をもって言えることなのに、どうして今までその方法をさっぱり言わず、しかも脱出を諦めているのか。


「貴方の“黒い炎”。」


「…え?」


 黒い炎? 僕の?

 なにそれ? 全然分からない…


「初めて見た時は恐かったけど…あれほどの魔法ならこんな建物なんて何とか出来るわ。」


 そんな魔法なんて使った覚えはない。

 せいぜいマスなんとかって魔物と戦った時に火を出したくらいだ。すぐに魔力が無くなっちゃったけど。


「……やっぱり、使えないのね。

 私には他の方法は思いつかないわ…だから私は降参。もう何も思いつかない。」


「ですから、諦めたら本当に終わりなんですって!

 もしかしたらあるかもしれないじゃないですか、ニンジャヤシキみたいに隠し扉とか、秘密の脱出路とか!」


「あるわけないじゃない。

 ……ねぇ、マノア。」


「なんですか?」


「私達…もう、ここから出られないのかしら?」


「泣き言を言っても助かりませんよ。」


 言い方が少しキツくなってしまったのは、セシカさんに諦めて欲しくないから。

 一見すると逃げ道の無い建物の中。それでも何か助かる方法はあるはずだ。

 強大な魔物に襲われた時も。

 お店が壊された時も。

 両親が突然亡くなった時も。

 ―通りすがった誰かが助けてくれた。

 ―セシカさんが助けてくれた。

 ―残ったお店を継いで、一人で生きていくことを決めた。

 だから、今回もきっと―――

 ―――きっと…

 きっと…

 ……


(ほぼ助けてもらってばっかりじゃん!)


 だ、だからこそたまには僕が何とかしないと。

 僕は決意を新たにして壁や床を調べ始めた。







「………」


 結論として分かったのはこの建物が何の変哲もない廃墟だということだけだった。

 加えて壁が薄そうな所やレンガが外れそうなところもない。床はレンガになっているので掘れない。

 わざわざ補修した跡が見られるところから誘拐犯が補強したのだろう。そりゃ脱走なんてされたくないだろうからね…


「マノア。」


「なんですか…?」


 僕はもう疲れ果てて冷たい床に寝転がっていた。

 壁や床を触って、叩いて、押して、そんな作業をくまなく行えば疲労も溜まる。

 さっきまで燃えていた心の炎は一つ吹けば消えてしまいそうだった。


「もし、もしもの話なんだけど…

 実は誘拐犯も見つけてくれる人も、皆居なくなってて…この世界の人間が私達だけだったら、どうする?」


「どうするって…どうしようもありませんよ。」


 投げやりな回答しか出せなかった。疲労で頭は回っていないし、もし疲れてなくても質問の意図が分からず首をかしげていただろう。


「何かしたいこととか、ないの?」


「そうですね…

 あ、この体を元に戻したいです。」


「それって、なんのため?」


「なんの為も何も…ずっと女の子のままって、なんか嫌で。」


「…そんな理由なの?」


「今まで一人の男として生きてしましたからね。例えあんまり変わらなかったとしても男に戻りたいんです。

 そうすればナンパも断れて…あ、ナンパはされないんでしたね。」


 はは、と軽く笑うけど、セシカさんは何も返してくれなかった。


「…セシカさん?」


「……私もマノアと同じことをすると思うわ。」


「協力してくれるんですか?」


「ええ。

 マノアとは違って、下心があるけど。」


 下心?

 あ、まさか…


「まさか、その後可愛い服を持ってきて…」


「それも良いけど違うわ。」


 違うんだ…でも、良いんだ…


「なんでか、分かる?」


「…………」


 セシカさんがしたい事ってなんだろう。

 お出かけ? でも、誰も居ないっていう設定だし…

 結構な頻度でお店に来るから、ご飯が食べたいとか?

 じゃあ別にわざわざそんな設定つける必要は無いよね…今だって食べに来てるし。

 ……お屋敷に居た頃は一緒に寝てたから、もしかして一緒に寝たいとか?

 それは確かにもう叶えてあげられそうにないけど…いや、セシカさんの家に行ってお泊りしてあげればいいか。

 …やっぱり、設定の意味が無い。

 いや、設定の事は考えなくても良いのかな?


「分からない?

 それなら、教えてあげる。」


「え? ちょっと…」


 寝転がる僕に覆いかぶさるセシカさん。

 顔は赤みがかって見える。これじゃまるで…


「……あ、なるほど。夢か。」


 あり得るはずのない事象からここが現実ではないことを知らせてくれた。どうやら疲れて眠ってしまっていたらしい。

 って、夢でも僕はセシカさんとそんな…

 …申し訳ない。セシカさんに物凄く罪悪感が…


「い、痛た!?」


 覆いかぶさったまま頬を抓られた。夢なのに痛い。


「………夢じゃ、ないけど?」


「つ、痛覚があるタイプの夢みたいですね…」


「叩き起こしてあげましょうか?」


「止めてくださいっ! ごめんなさいっ!」


 い、今までに聞いたことが無い声が…

 しかも暗いはずなのに青筋がくっきりと見えた。あれは本気でぶたれる。


「はぁ…

 この状況でも分からないの? それはもう鈍感どころの話じゃないと思うけど。」


「それは……わ、分かりませんよ。」


「じゃあ今この場でマノアに性教育してあげる。まずは男女の違いからだけど」

「ごめんなさい分かってます! 分からないのはそっちじゃないです!」


「…何が分からないの?」


「どうして、僕なんですか?」


 現状を正しく呑み込めていなかったのは、そこだ。

 ハッキリ言って理由が分からなかった。僕が男らしいところを一度でも見せたかって言われたら無かったはずだし、セシカさんに何かを与えたわけでもない。むしろ与えられていたのは僕の方だ。

 きっかけがまるで思い至らない。


「…貴方の事、最初に見た時は可愛い子だと思った。

 でも、身の上話を聞いて可哀想な子だと思って、次に私からの誘いを断ってお店を続けるって聞いて、強い子だと思って…」


 …子(・)なんだ。


「…それで、マノアが私の家で働いてた時。

 一緒に暮らしてるうちに、段々貴方と一緒に居る時間が楽しい事に気付いたの。

 その前からちょくちょく貴方のお店に行って会いに行ってたのも理由の一つかも。

 最初は心配で様子を見に来てたけど、心配が薄くなっても会いに来てた。いつの間にかお友達みたいな距離感になってたのかもしれないわ。」


「……でも、僕は平民でセシカさんは貴族です。」


「言ったでしょう? もし誰も居なかったらって。

 そんなことを気にする人なんて、居なかったらって。」


 セシカさんの顔が迫ってくる。


「本番は出来ないけど…今ここで、その前までやっちゃう?」


 鼻先がぶつかる直前で、彼女は囁いた。

 まるで悪魔の囁きのように。小悪魔のように蠱惑的な表情(かお)で。


「そっ、それは良くないです!」


「どうして? 私は良い。っていうかしたいのに。

 …もしかして貴方は嫌? 私の事、嫌いだったの?」


「違いますよ! でも…けっ、結婚もしてないのに、そんなこと…」


「じゃあ、結婚する?」


「~っ!」


 顔がかつてないほど熱くなっている。

 頭の中はこれ以上に無いくらい真っ白。ただ、本能のような何かが逃げるように促すだけだ。

 けど、僕の体は動かない。

 ただ、怖かった。何がかは分からないけど。

 豹変したセシカさんがなのか、逃げられない僕自身がなのか、これから起きることがなのか。


「結婚するなら良いんでしょ?」


「………」


 もうセシカさんが何を言ってるのかわからなくなってきた。

 このままじゃ多分取り返しのつかないことになる、それだけが分かっていて何も出来ない。

 体は動かず、逃げ道は固く閉ざされている。ああもう誘拐犯でもなんでもいいから誰か来て!


「先輩! セシカさん! 大丈夫!?」


 あれ? なんでフォリスの声がするんだろう。

 ここには居ないはずだし、来れるはず無いし…でも、幻聴にしてははっきりしすぎだ。


「……」


 赤みがかったセシカさんの顔は僕ではなくどこかに向いている。

 確かそっちは出口のドアのはずだけど――


「……」


 ドアが閉じた。

 その直前に真顔のフォリスが見えた気がする。

 いや、見えた。


「どういうこと!?」


「どういうこと!?」


 再度扉を開けたフォリスに思わず反復してしまった。


「…子供が見るものではないわ。出て行って。」


追い出しっ!?


「あ、はい。失礼しました…」


「待って! 助けて! 助かった!(?)」


「えっ…

えぇぇ…どうすれば良いの?」





※フォリスは11歳です。

 マノアは15、セシカはそれに近い年齢です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。