五十七話 許してませんでした!
「……」
ここはどこだろう。
目を覚まし、反射的に開いてみると薄暗くてよく見えなかった。
次に体を動かし、起き上がった。
「……!?」
…起き上がろうとした。
身動きが取れない。両手と両足が離れず、行動が出来なかった。
状況が呑み込めず、目を覚ます直前の記憶を必死にたどる。
えっと…確か、僕はセシカさんと出かけてて…
朝は散々着せ替えられて、昼食を取った後は商店街や高級なお店を見て回って、遊技場で遊んで…
…ああ、そうだった。
僕たちは誘拐されたんだった。
「…誘拐!?」
セシカさんも居たはずだよねどうしよう何が目的なんだろう人身売買? 体? でも僕は男だしああ男だって分からな本当に男じゃなかった! どうしようどうしよう絶対まずいよだったら多分その内誘拐犯が来るはずだよね? こんな状態じゃ碌な抵抗も出来ない。っていうか来たら終わる。そもそももう終わってるかもああぁぁぁ…
「マノア、落ち着いて。」
「セシカさん!? 居っ、気がっ、いっ、起きっ、見っ…」
「落ち着いて。」
後ろからセシカさんの声がした。
僕一人だと勝手に思い込んでしまっていたので驚いて焦った返ししか返せなかった。
「あっ…!」
だからだろう。振り向こうとした時に余計に転がってしまったのは。
予想よりも大きく移動してしまった僕はセシカさんの目の前に来てしまった。
少し動けばお互いの鼻が当たってしまいそうな距離だ。ぶつからなくて良かった。
「す、すみません。思ったより近くなっちゃいました。」
「今更ね。一緒に寝てる時はいつもこれくらいだったじゃない。」
「…そうでしたね。」
そのことについてセシカさんが気にしている様子は無い。
ずっと暮らしているうちに一人の男ではなく家族のような距離感になってしまったのだろう。ましてや度々一緒に寝ていれば。
おかげで僕も動揺が薄い。セシカさんに急接近したことよりも転がりすぎてしまった事の方が驚きは大きかった。
「私も目が覚めたのはちょっと前だったわ。
確認だけど…私達、誘拐されたんでしょ?」
「…はい。」
「犯人の動機はともかく、このままじっとしていてもきっと犯人の思うツボ。助けが来るより先に大変なことになってしまうかもしれない。
だからマノア、ここから脱出しましょう。こんなところに長居なんてしたくないわ。」
「はい!」
それに関しては同感だった。
寒いしホコリ臭いし、暗くて恐ろしい。犯人の思い通りになるのもまっぴらごめんだ。
脱出を決意するのは自然の成り行きだ。
「じゃあ、まずは縄ね…」
縄は後ろに回された両手と足の二ヵ所。拘束はこれだけらしい。
猿轡や目隠しが無いのは運が良かったかもしれない。そうでなければセシカさんにも気付かず一人でパニックになっていただろう。
「魔法で切れませんか? 僕は火の魔法しか使えないので、セシカさんにお任せしたいんですが…」
「…マノアの魔法は勘弁して。あんなに恐ろしい炎もう見たくないわ。」
「しませんって。」
そもそもただの火の魔法だし、恐ろしいも何も…
…まあ、火で縄を切ろうとしたら僕の体にまで燃え移りそうって意味では怖いけど。だから辞退した訳だし。
それにしても、“僕の”って限定したのはなんでだろう?
「一度試してみたけど、駄目だったわ。
首輪に吸風石が付けられてるみたいで、魔法を使おうとしても使えないわ。」
「首…あ、確かに何かありますね。」
セシカさんに言われて首の違和感に気付く。どうやら僕の首にも巻かれているらしい。
吸風石とは、魔力を吸収して風を生み出す特殊な石だ。
風を起こす道具にも使用されているが、主に囚人の枷の一部などに使用されている。
理由は魔法の使用者の体に触れてさえいればその者の魔力を吸い取り、魔法を使えなくしてしまうからだ。
常に魔力を吸い取る訳ではないが、魔法を使おうとした時に魔法の行使で使おうとした分だけ魔力を吸われるのだ。
「近くに縄を切れそうなものってありませんか? 何かの角とかでも良いんですけど。」
「床には無いわ。
あってもこの態勢で切るのは難しいと思う。」
「そうなると、魔法しかなさそうですね…」
でも、その魔法は吸風石によって阻まれる。
一体どうすれば…
「……もしかしたら、なんだけど。」
少し考えこんで、セシカさんは自信なさげな声を出した。
「何か思いついたんですか?
この際です。なんでも言ってみてください。」
「本当にうまくいく保証は無いのだけど…
…ちょっとの間でも首輪に付いてる石を離せば、魔法は使えるかもしれないのよね?」
「そう、かもしれないですね。」
「それで、思いついたんだけど…
マノア、私の首輪の石を噛んで引っ張れない?」
「え?」
か、噛んで?
「む、無理ですよそんな器用な事! そもそも失敗したらセシカさんの首噛んじゃうじゃないですか!」
「でも、それしかないんじゃない?」
「…………」
僕は考えた。他の脱出手段を。
他に石をどうにかできる手段は無いか、他に魔法を使える手段は無いか、他に脱出できる方法は無いか。
でも、非情なことに僕の頭ではセシカさんに従う以外の方法が見つからない。もっと勉強を頑張っていれば何か思いついたかもしれないのに…
「……わかりました。」
僕は意を決して、その案を実践してすることにした。
一瞬セシカさんが笑ったように見えたのは、きっと自分の案が通って嬉しかったからだろう。
「じゃあ、行きますよ…」
「いつでも来て…」
横向きに寝転んだセシカさんの首の上に、僕は両ひざをついて口を空けていた。
倒れ込まないようしっかりバランスに気を付けながら。ゆっくり、慎重に首に顔を近づけていく。
「…っ!」
しまった。
少し行き過ぎてしまい、僕の口はセシカさんの首を咥えてしまっていた。
この位置からでは石を視認できないので、舌で石の位置を調べる…
「ひゃっ!」
「あ、ご、ごめんなさい!」
舌がセシカさんの首を撫でてしまい、彼女の声に慌てて離れる。
「いえ、私も変な声を出してしまってごめんなさい…
今度は大丈夫だから、確実に石を取って。」
「わ、わかりました。」
今度こそは、ともう一度彼女の首に近付く。
石の位置は…おおよそ合っている。後は咥えるだけ。
と、その前にちょっとだけ舌を出して確認。首を噛んでしまう訳にはいかない。
「…っ、…っ!」
再度首を撫でてしまったけど、気にせず続ける。
中断して謝るよりさっさと終わらせて後で謝った方が良いと判断したからだ。
「…! ヘヒハはん!」
ようやく石を咥えることに成功。そのまま引っ張る。
「はぁ…はぁ…え、えぇ…」
顔が赤くなっている。これが終わったら何度でも必死に謝らなきゃ…
「……ありがとう、切れたわ。
もう大丈夫よ、マノア。」
石を引っ張って五秒後、セシカさんからの声を聞いて急いで咥えていた石を離した後下がって床に頭をつける。
「途中で舐めてしまって申し訳ございませんでした!!」
「…え?」
困惑を含んだ声だった。顔は見えないけどきっと声は嘘をついていないだろう。
「仕方ないじゃない。事故みたいなものなのだし、そうなることも見越して頼んだのだから。
…それに、ちょっと良かったし。」
「それじゃ僕の気が済まないんです! また今度なにかお詫びさせてください! 一日メイドでも女の子の格好でも何でもしますから!!」
「全部女装関連ね…じゃあ、今回は生きて帰って、またその内私と一緒に出掛けて。
こんな目に遭って、嫌でなければだけど。」
「嫌な訳ありますか! 絶対にまた行きたいって思ってましたよ!」
「…そう。ありがとう。」
彼女は本当に気にしていなかったのか、微笑みながらそう答えた。
それを見て、絶対に2人とも無事で、一緒に帰ろうと決意した。
「あ、すみません。セシカさん。
縄が解き終わったなら僕のも解いて欲しいんですけど…」
「そうね。
でも、その前に…」
セシカさんが僕の首輪を外し、その場所に顔を近づけた。
…ちろりと舌を出しながら。
「え? セ、セシカさん?」
「じゃあ、お詫びとは別にお返しということで…」
「ひゃぁ! セシカさん、やめぇ、ひゃっ!?」
僕の首はしばらく彼女の舌に蹂躙され、縄を解かれたときには首が全体的にべとべとになっていた。
やっぱり許してなかったじゃん!
しれっとエロは初挑戦。
これくらいなら年齢制限に引っかからない…と思いたいです。
……そもそもエロって程でもないとか?




