五十五話 燃え尽きました!
「そろそろ休憩しましょう…」
「そうね。お昼時だし、良いと思うわ。」
今日は朝からセシカさんに連れ回され、僕は既にくたくただった。
「おっ! あの子可愛くないか?」
「そうだけど…お前、彼女居るだろ。」
お詫びと言う名目の下、セシカさんはやりたい放題だ。
「あのな、俺はお前の為に女の子を選んでやってんだぞ? 別に浮気目的じゃねーよ。ほんのちょっとだけ遊ぶけど。」
「余計なお世話だ。っていうかお前絶対遊びたいだけだろ。」
服はもちろん、下着まで女物を着せられてしまったせいで精神的にかなり疲弊した。
「ちげーよ! お前、彼女欲しいんだろ?」
「そりゃ…そうだけどさ。」
どこかしっくりくる感じがするというのもその一因だろう。心の在り方すら女性になりかけているのだろうか。
「じゃあ、あの子なっ! 行けよ。ちょっとは積極的に、男らしいトコ見せてやりな!」
「お、おう…」
…早く戻らないと危なそうだ。レーサさんから薬を貰ったらすぐに飲もう。
「お、おーい! そこのお嬢ちゃん!」
お嬢ちゃん?
ああ、セシカさんのことか。思いっきりこっち見てるし、僕たちの他にあの男の人の事を見てる人はいないし…
「マノア、ナンパよ。」
ナンパって…何か落としたとかじゃないの?
僕は何も落としてないはずだけど。
「セシカさんじゃないんですか? お嬢ちゃんって…」
「貴女も今はお嬢ちゃんじゃない。」
「それは…そうでしたね。」
完全に他人事だと思ってた。
しかもあの男の人、よく見たらセシカさんじゃなくて僕の方を見ている。
「あ、あの! えっと、すいません!」
「はい、ご注文は…じゃなかった。なんでしょうか?」
「注文…?」
「あ、いえなんでもないです。」
お店の時の癖が…職業病かな?
「マノア…」
セシカさんは呆れている。反射なので許してほしい。
「えと…お、お嬢さん。」
「僕はおと…」
と言いかけて思い出した。
男じゃないじゃん!
っていうか、もしそんなこと言ったら僕女装趣味の変態だと思われない!?
…い、言えない…常套句が使えない…!
「おと?」
「お…乙女、です…だいたい…おおよそ…」
「?」
実際は乙女の欠片も無いけどね! 主に内面が!
「…じゃあオトメ、さん? えっと…一緒にご飯でも行かない? お友達も一緒で…俺も友達連れてくるからさ。」
名前だと思われた!?
って言うかコレ、どう考えても本当にただのナンパだよね?
……ナンパ…
………どうせなら女の子にされたかったなぁ。
…ハッ!? な、何を言ってるんだ僕は。第一女の子でも男の人でもナンパされたら困るだけだ!
「…すみません。見ず知らずの人とはちょっと。」
「そ、そこをなんとか!」
「えっと…実は、その…僕は…お、おと…男…」
「男? 男の人が…どうしたんです?」
「お、男の人に興味無いんです!」
「!?」
「…なるほど、それなら嘘はついてないし周囲からは女装してるとは思われない。
…でも、同性愛者だとは思われるでしょうね。」
覚悟の上だっ! そもそも僕男だしっ!
「実はこの女の子と一緒に寝たことあるんです! なんなら寝相とかちょっと前に言ってた寝言とかも知ってます!」
「え!?」
「マノア!?」
ええいままよ! ここまで来たら全部の手札を使い切ってやる!
「今日もデート中だったんです!それを男の人なんかに邪魔されてたまりますか!」
「すっ、すみませんでした!」
自棄になって半分くらい自分が言ってることを理解できなくなってたけど、なんとかナンパの人は撃退した。
「マノア。」
「はい。」
「色々と言いたいことはあるけど…とりあえずご飯に行きましょう?
お話しはその時にね。」
「…はい。」
先の疲労も相まって燃え尽きてしまったような感じがする。
僕は燃えカスとなった心を引きずりながらセシカさんと手ごろな飲食店を探し始めた。
「オトメちゃんオッスオッス!」
「ぷふっ!」
しばらく歩いてようやく見つけたお店で食べている最中、知った声でそんな言葉をかけられて噴き出してしまった。
幸い下を向いていたので噴き出したのはお皿の上。他の場所に飛ばなくてよかったけど、良くなかったこともある。
「アユミさん!? 見てたんですか!?」
ナンパされてたところを見られてしまっていたことだ。
自暴自棄になって滅茶苦茶なことを言っていたのでできれば知り合いには見て欲しくなかったと思ってたけど、叶わぬ願いだったらしい。
「うん、進矢も一緒にね。」
「悪いなマノア、傍観するつもりは無かったんだが…ちょっと衝撃的すぎて固まっちまった。」
「シンヤさんも…」
「いや、だってさ…なぁ? 不可抗力だし…」
「言いたいことは分かりますし、仕方ない事だって言うのは分かるんですけど……できれば忘れていてほしいです。聞かなかったことにしてください。アユミさんも。」
「…分かった。」
「それで、どうしてオトメだなんて言っちゃったの?」
「アユミさん!?」
「姉ちゃん!?」
「ものの見事に聞いてない…」
「いや、だって気になるでしょ? なんで女の子扱いされるのが嫌なはずのマノア君がどうしてそんなことを言っちゃったのかって。」
「マノアの格好を見れば分かるんじゃない?」
「「………なるほど。」」
「あ、あんまり見ないでください…」
いつになっても女装(今に限ってはある意味違うけど)を見られるのは恥ずかしい。
まじまじと見られればなおの事。それが知人であれば更に。
「「……なるほど!?」」
「何故二度も!?」
今何に納得したの!?
「…この服、セシカさんが選んだの?」
「そうよ。」
「うん、良いセンスしてる。マノア君にピッタリ!」
「ありがとう。そう言ってくれると嬉しいわ。」
「うんうん! ナンパなんてされるわけだよね!」
「ええ! 実は、今回のコーディネートには私も自信があったもの。」
………
「マノア、お前大変だな。」
「…分かってくれますか?」
「ああ、ほんのちょっとだけど気持ちは分かる。
別に、嫌なら嫌だって断っても良いんだぞ? 本当に嫌な事なら分かってくれるはずだからさ。」
「あはは…ありがとうございます。
でも、僕はいつも皆にお世話になってばっかりだから何かでお返ししたいんです。
正直こんな格好をするくらいでは気が済まないですけど…ちょっとでもお返しが出来ればと。」
「良い奴なんだな、お前は。
けど、辛い時はちゃんと言えよ? 言われなきゃわからないこともあるし、そう言う時は助けてやりたいって思うのが友達なんだからな。
心配させたくないって一人で抱え込もうとはするなよ?
…って、偉そうなこと言っちまったな。すまん。」
「いえ、ありがとうございます。良いアドバイスだと思いますよ。」
「そうか、なら良かった。」
一人で抱え込むな、か。
これまでずっと他の人にばかり頼ってきて、これからも誰かに頼るのは良くないと思ってたけど…
…けど。
やはり、皆に話して皆で解決する方が良いのだろうか。
それでは、もしも……誰にも頼れなくなってしまった時はどうすればよいのだろうか。
昼食を口に運びながら、ぼんやりとそう考えていた。




