五十四話 気付いちゃいました!
「いい、いぃらっしゃいまセシカさん。ごご注文はお決まりですか?」
「…本当に大丈夫なの?」
厨房から出てきた僕はガチガチに緊張していた。
あー、ドキドキが止まらない…
セシカさんを騙すような罪悪感もそうだし、もしかしたらバレるんじゃないかって言うのもバレたらどうなるんだろうなって言うのもあるんだろう。
「先輩…落ち着いて。」
通りがかったフォリスの言葉を聞き、冷静さを求め深く呼吸する。
…少しは頭が冷えた気がした。
「…大丈夫です。
えっと…以前の件ではその、御心配をおかけしましたことを誠に申し訳なく」
「堅い。」
あ、罪悪感がオーバーフローした。
これじゃ益々怪しまれる…落ち着いて…落ち着いて…隣に執事さんも居るんだから。
「すぅ~…はぁ~…
す、すみません。セシカさんとは久しぶりに会ったのでつい。なんだか緊張してしまって。」
「今までそんな事無かったでしょう?
本当に大丈夫なの? なんだか分からないけれど、調子が出ないなら休んだ方が良いわ。」
「大丈夫ですよ。ちょっと日が空いたから調子が悪いだけです。
それより、ご注文はお決まりでしたか?」
「ええ、いつものお願い。」
「かしこまりました。」
よし、ひとまずはごまかせた。
達成感と安心を覚えると同時に、隠してることの罪悪感が残るけど――
「ねえ、ちょっと待って。」
厨房に戻ろうとしていた僕をセシカさんが呼び止める。
「ちょっと戻ってきて。」
「は、はい…」
急にどうしたんだろう。目つきもなんだか険しくなってるし…
「目を瞑って、じっとしてて。」
何が何だか、よく分からないまま目を閉じる。
「!?」
一、二秒した辺りでフワッと甘い匂いがした。
この匂いはセシカさんの…セシカさんと一緒に寝てた時にした匂いと一緒だ。
耳元で小さく鼻を鳴らすような音もするし、髪に何かが少しだけ当たってるような…これってどういうこと?
「…目を開けて。」
目を開けた時にはセシカさんの顔は元の位置にあった。
「マノア、どういうこと?」
「それは僕の台詞なんですけど…」
「貴方から女の子の匂いがする。」
「!?」
しまった、匂いまでは気にしてなかった…っていうか匂い変わってるの!?
香水とかを着けて誤魔化すべきだったか………今度はなんで香水を着けてるのかって聞かれそうだけど。
「これはフォリスの匂いじゃないわ。
他の3人からもこんな匂いはしなかったはずだし…そもそも、この匂いは貴方の匂いに混ざってる感じがしない。それなのに限りなく貴方に近い匂いでもある…」
…セシカさん匂いに敏感過ぎない? 獣人並みに凄いんじゃないかな。
「貴方、おん」
「あー! そうでした! そう言えばセシカさんに話があるんでしたー!
すみません、ちょっと来てください。本当にすぐ済みますので。」
真相を言われる前にセシカさんをお店の奥に引っ張り込む。
わざとらしい大声は必要なかったかもしれないけど、それは焦ってつい。
更に言うなら貴族の腕を掴んで引っ張っていくのも不敬だけどそれも焦ってつい…じゃすまないよね。ちゃんと謝っておこう。
「ここ…もしかして、貴方の部屋?」
「いえ、応接室…みたいな感じですかね。そんな大仰な物じゃないですけど。」
セシカさんを連れてきたのはお客さんを通す部屋だ。もちろんお店のお客さんじゃなくて家に来るお客さんの。
最近はあまり使われないけど、念のため掃除をしておいてよかった。まあ、掃除してなかったらしてなかったで僕の部屋になってただろうけど。
「それで、本当に?」
「…はい。セシカさんが察した通りです。
今の僕は女の子なんです。」
ついに打ち明けた。
知られてしまった、と思うと同時に安堵が滲み出る。
もう隠さなくて良いんだって考えると今まで感じていた罪悪感が消えていくようだった。
「自分で言おうとしててなんだけど、本当にそんなことあるの?」
「あるのかどうか、じゃなくてなってるんです。なんなら確認してみますか?」
「良いの?」
「……やっぱりやめてください。」
メイド服の着方を聞いたときの事を思い出してしまった。
セシカさんの輝く目を見ると嫌な予感しかしない。自分で提案しておいてお断りしたのはほぼ反射だった。
「良いじゃないの、今は女の子同士なんだから。」
「絶対必要ないところまで触りますよね?」
「…そんなことするわけないじゃない。」
「絶対に?」
「……そんなことするわけないじゃない。」
絶対嘘だ。思いっきり視線逸らしたもん。
「それで、どうしてそんなことになったの?」
…諦めてくれたと考えておこう。うん、良かった良かった。
「実は、疲労回復の薬がなにかの手違いで性別を変える薬になっていたみたいで…
そうとも知らずに飲んでしまい、今に至ります。」
「悲しい事故ってことね…」
「はい、本当に…
あ、そうでした。僕が女の子になっている件については他言無用でお願いします。執事さんも。」
「まあ、貴方程可愛い男の子が女の子になったら色々なトラブルは避けられないでしょうね…分かったわ。」
…否定したいけど黙っておこう。
「……マノア、まさかとは思うんだけど…」
「なんですか?」
「もしかして、私にも秘密にしようとしてた?」
「……ナンデスカ?」
「…………」
「…………」
「やっぱり! 今日は妙に距離を感じると思ってたらそういうことだったの!?」
「ちちちちがっ、ごかっ、ごめっ…」
「今謝ろうとした! 今絶対認めた!」
勝手に飛び出してきた罪悪感を突かれた!
「だ、だって言われると思ったんですよ!
女の子になったからもう女装じゃないとか、ちゃんと女の子の格好しなきゃ駄目でしょとか!」
「それは…言うけど。」
「やっぱりじゃないですか!」
「でも私だけ言わないなんて酷いんじゃない!? フォリスにも言ったんでしょう!? どうせあの狩人にも!」
「そ、そうですけど…それは、その、セシカさんのことを知っているからというか…別にセシカさんだけ除け者にしようなんて思ってないですから!」
「本当?」
「本当です! そこに悪意はありませんから。」
「……そう。
でも、ちょっと傷ついたわ…」
「あ…ご、ごめんなさい。
その、えっと…お詫びでもなんでもしますから。」
「…本当?」
「本当です。」
「じゃあ、次のお休み空けて。いつ?」
「明日ですね。分かりました…」
今からでも覚悟しておこう。
それが自分勝手にセシカさんを傷つけてしまった僕の償いなら―――
―――あれ? もしかして最初から正直に打ち明けてたらお詫びも何もないから断れてた?




