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シーサイドへようこそ!  作者: じりゅー
第五章『彼と彼女の境界線』
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五十二話 変わりました!

 

「くしゅっ…」


 なんだか寒い。体が痛い。

 下が硬い。どうやらベッドではなく床で眠ってしまったらしい。

 おかげで疲れもあまりとれていないようだった。


「……」


 今度こそベッドに入って眠り直したいが、今日は仕事なのでそうはいかない。

 まずは着替えようとズボンを下ろし―――


「…?」


 ―――違和感を覚えた。

 何かがおかしい。主に一部がスース―するような気がする。

 その部分を触ってみる。

 ……無い。


「……無い!?」


 えっちょっとどういうこと!? 何が起きてるの!?

 ね、寝てる間に去勢されてた!? でもなんで?! どういうこと!? 喉仏まで切除されてるんだけど!?


「も、もしかして…」


 恐る恐る、パンツを引っ張って中を見る。

 ……………


「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 最早思考すら出来なくなり、意味も無く全身を別々の右往左往させることしかできなくなってしまった。


「何!? どうしたの先輩!」


 しかし、フォリスが来たことによって僅かに平静を取り戻すことが出来た。

 ちょっとは冷えた頭をフル回転させて状況を簡潔にまとめ、彼女に伝えた。


「フォリス! どうしよう!

 僕女の子になっちゃった!!」


 慌てて言う僕に対し、駆けつけて来たフォリスの反応は淡泊な物だった。


「………何言ってるの先輩? 何も変わってないけど…」


「変わってるよぉ!!」








「…先輩、実は最初から女の子だったって訳じゃないんだよね?」


 数分後。

 なんとか今の状況をフォリスに説明し、少なくとも僕が今は女の子になっていることを信じてもらえた。

 直接確認(最終手段)を介さずして出来たのはとても大きなことだと思う。


「違うよ! 僕はちゃんと男の子だったよ!

 向こうの世界の僕もそうだったんじゃないの!?」


「そうなんだけど…こっちの世界の先輩、実は女の子なんじゃないかって何回か思ってて。」


「酷い!」


 数少ない理解者だと思ってたのに!


「だって向こうの先輩と喋り方が全然違ったんだもん! 向こうの先輩はイタマエ? とか言うのに憧れてて、オータクに喋り方を聞いては喋ってたんだから!」


「イタマエ?」


「ウチも良く知らないんだけど、オータクによると異世界の男気溢れる料理人なんだって。何でも、スシっていう料理を握る…? 作ってるんだとか。」


 良いなぁそれ。今度教えてもらおう…じゃなくて!


「それよりどうしようフォリス! これじゃお店が出来ないよ!」


「なんで?」


「な、なんでって、女の子になった僕が男の僕の代わりなんて…」


「それって性差?」


「いや、そう言うのじゃなくて…

 女の子になっちゃいましたって言っても信じてもらえないだろうし、見知らぬ女の子が堂々とお店に居たら誰ってなっちゃうでしょ!?」


「…言っておくけど、顔は昨日と全く一緒だからね?」


「え?」


「なんなら声もあんまり変わってないから、普通にお店に出てもバレないと思うよ。

 正直ウチも今半信半疑だし…」


「な、なら最終手段を…」


「分かった! 信じるからパンツ脱がなくて良いよ!

 …セクハラ店長。」


「うぐっ!?」


 確かに文句の付け所が無いほど完璧なセクハラだ…!

 落ち着こう、冷静になろう。今の僕は慌ててる。錯乱してる。間違いなく正気じゃない。いっぺん水でも被ってきた方が良いかも。


「それに、先輩は厨房で料理を作るのに徹して、料理とオーダーは全部ウチに任せれば先輩は人前に出ずに仕事ができると思うけど。」


「……あ、そっか。」


 そうだ、何も僕が出て行かなくてもフォリスが居るんじゃないか。

 なら、別に今日お店をやっても―――


「ケホッケホッ…」


「あ、そう言えばさっき床で寝てたって…

 先輩、今日は無理しないで休む方が良いと思うよ。」


「で、でも…ちょっと具合が悪いだけだから…」


「無理しないで。

 それで無茶して体調を崩しちゃったら、それこそもっと休むことになりかねないよ?」


「う…」


 それは…確かに嫌だ。

 それにこんなことになった原因も知りたいし、それを考える為にも…


「……そうだね。今日はお休みにしよう。」


 …僕は休むことにした。







「……」


 療養のためにベッドに入っていると、様々な事が頭に浮かんだ。

 これからどうしよう。どうしてこうなったんだろう。もうずっとこのままなのかな。

 どれも考え始めれば暗くなることばかりだ。急激すぎる変化に不安を覚えるのも無理は無いけど、何か明るいものは無いのだろうか。

 一応、別に手が無くなったとか、足が動かなくなったとか、そう言う訳じゃないから生活に不便を感じることは無いだろうけど…

 …前向きにとらえよう。

 この先の事はともかく、今。女の子だからこそ出来る事をやってみる!

 まず、おしゃれは…


『…言っておくけど、顔は昨日と全く一緒だからね?』


 うん、無しだ!

 そうなると外出系はアウトかな…結局僕だってバレバレらしいし、僕が女の子みたいなことをしてると思われるだけだろう。それじゃカモフラージュにもならない。

 …物凄く認めたくないけど。

 それなら、部屋で…何か…えっと…

 ………


「……」


 何も思いつかない。

 案外女の子だからこそ出来ることってないんだね…

 それもそうか、女の子になったからって別に人であることには変わらないし。言ってしまえばただ性別が変わっただけだ。

 主に顔が変わっていないからと言うのもあるとは思うけど、別にいつもと変わらないじゃないか。なら変に慌てる必要もないや。


「先輩、レーサさんが来たんだけど…どうする?」


「どうするって?」


 と、半ば悟りを開きかけているとフォリスが来てよく分からない質問をしてきた。


「そりゃ、先輩が女の子になっちゃったことだよ。言う? 隠す?」


「知らない人ならともかく、レーサさんには言っても良いんじゃないかな?

 他の常連さんにも。」


「知らない人なら100%先輩を女の子だと思うだろうけど…」


「それは言わないで。」


「でもさ、常連さんでも言った方が良い相手と言わない方が良い相手が居るしちゃんと考えた方が良いよ?」


「どうして?」


「奥さんがいる人ならともかく、独身の男だったら…もしかしたら、既婚者でも今の先輩は絶対ほっとかないかも。

 顔はもちろん、尽くしてくれそうな性格も申し分ない。先輩をよく知ってるからこそお近づきになりたいって人も居るはずだよ。

 …何回か男でも良いからって告白の相談も受けたことあるし。」


「ちょっと待ってそれ初耳なんだけど。怖いんだけど。」


「知ってても言う訳ないでしょ、お互いの為に。

 とにかく、話す相手は考えた方が良いよ。基本は隠すっていうスタンスでね。」


「…分かった。忠告ありがとう、フォリス。」


 そう言うことなら確かに考えた方が良いかも。いや、考えるべきだ。

 さっきまでの僕には危機感が無さ過ぎた。性別が変わってもほとんど変わらないと甘い考えを持っていた。

 この変化について考えるべきだと思い知らされた僕は、布団をかぶり直して考え始めた。


「それで、レーサさんには言うの?」


 あ、そう言えば来てたんだった。すっかり忘れてた。

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