四十四話 尾けられました!
思い出したのでなんとなくなろう勝手にランキングに登録しました。
「早く!」
「待ってくださいセシカ様、近付きすぎると気付かれちゃいますから!」
その日、セシカとフォリスの2人は予定通りマノアを尾行していた。
セシカは町の外に馬車を停め、服装も背丈が近いメイドの私服を借りて完全に庶民に溶け込んでいる。
更に、フォリスにも変装用の衣装を用意するという徹底ぶりだ。これなら一目見たくらいではばれはしないだろう。
…そういうメイドのお墨付きがある分、彼女はいつもよりアクティブに動けているのかもしれない。
「今のところ、どうですか?」
「今のところは何も無いわ…ただ普通に町を回ってるだけみたい。」
「私も、特に異常は見つからないです…」
何の変哲もない、ただの散歩。
2人が見る限りではそのようにしか見えなかった。
「どこの店に入るでもなく。」
「ただただ歩いて。」
「時々立ち止まったと思ったら。」
「また歩き出して。」
「意味あるのかな、コレ…」
「大ありじゃない。私は見てて楽しいけど?」
「え…」
セシカの返答に少し引くフォリス。どうやら彼女にはストーカーの素質があるらしい。
(……でも。)
このままでは本当に何の成果も無く終わってしまいそうだ。
時間がもったいないし、罪悪感が募るばかりでなく、最近の異変の正体にも近付けない。
…フォリスにとっては、収穫無しというのは痛手でしかなかった。
…フォリスにとっては。
「それにしても、本当にどうして出かけてるのかしら…
最初はデートかと思ってたけど、それにしては寄り道しすぎてるし、落ち着きすぎてるし…」
「先輩に彼女って出来るんですかね? 大抵の女性はマノア先輩の方が可愛いから自信を無くして付き合うどころか出会った瞬間にフラグと心が折れそうですけど。」
「フラグ…?
でも、マノア本人は女の子が好きって言ってるし…それに、愛し合えるなら外見なんて気にしないと思うわ。」
「でも、外見は大切な第一印象ですよ? セシカ様だって、ブサイクよりイケメンの方が近付きたいですよね?」
「そのイケメンよりマノアに近付きたいわ。」
「ゾッコンですね…〈おかしいな、セシカ様ってこんな人だっけ…?〉」
「ゾッコン?」
「…今は気にしなくて良いです。
それより、先輩がお店に入って行きましたよ。あのお店は…えっ!?」
ようやく訪れた状況の変化。
フォリスは目を剥いた。彼には縁のない場所だと思い込んでいたからだ。
「………フォリス、もしかして。
彼女が出来たって言うのは、あながち間違いじゃないかもしれないわね…」
「私達も行きます?」
「いえ…普段の私ならともかく、あんなところに庶民の服で行ったらそれこそ目立つわ。尾行どころじゃなくなるかも。」
「そうですね…宝石店なんて貴族ばっかりですからね…」
その店は真偽の怪しい宝石のようなものが置いてある怪しげな店ではなく、貴族御用達の本物の宝石店。
行った覚えのあるセシカだけでなく、入った事の無いフォリスにまでそれが分かる外観だった。
「もしかして、結婚を控えた彼女に贈るプレゼントを?」
「い、いえ! マノア先輩にそんなお金は無いはずです! 確かにお店は繁盛してますけど、そんな大それたことが出来る貯金なんて…!」
「…可能性は、あるわ。」
「どうしてですか?」
「私の家からのお給金…
マノアが私の家でメイドをしてたって言うのは知ってた?」
「はい。いつまでも執事服が来なかったってぼやいてました。」
「そ、そうだったの…今度謝っておいたほうが良さそうね。
…話を戻すけど、家のメイドにはそれなりに渡してるはずだから。それを数か月務めて、ほとんど使わなかったとなると…安価なものであれば何か買えるくらいになってるかも。」
「そ、それを彼女さんに!?
いや、でも…いくらマノア先輩でも、いや、先輩だからこそそう言う時はケチらないでドンと出すかも…!」
「考えられるわ。
それにしても、マノアの彼女…一体どんな人なのかしら?
タイプは優しくて小さくて可愛い女の子って聞いたけど…」
「……優しくて、小さくて、可愛い…え!? まさか先輩って幼女趣味!?」
「!?
その発想は無かったわ…で、でも、私も対象に入るって言ってたし…!
それに、マノアのタイプは全部マノアのコンプレックスからきてるものだったから…大丈夫、マノアは犯罪者にはならない。子供には優しそうだけど、そういう目では見ないはずだから。」
「ちょっと言い聞かせてない!?」
と、2人で話している間にマノアが店から出てくる。
彼は上機嫌だが、手には何も持っていない。
「…何も買わなかったみたいね。」
「下見に来ただけ? それにしても、嬉しそうな顔だけど…」
「やっぱり、新婚生活を想像して…!?」
「違うと思…う~ん…否定できない…
それより、早くしないと先輩行っちゃうよ?」
「そうね、急がなきゃ…!」
真相を掴まなければ、とよい強く思い尾行を続けるフォリスとセシカ。
見失いかけていたマノアを再度補足したその時、彼は建物の間にあった細い道に入り込んだ。
「どうしてあんなところに…?」
彼お決まりの散歩コースでないことは明白だ。2人は疑問を浮かべながらこそこそと通りを横切り、マノアが入って行った細い路地を覗き込んだ。
「……あれ?」
「いない…?」
しかし、そこには誰も居なかった。
「…どういうこと?」
「見間違いかしら…じゃあ、マノアはどこに行ったの?」
「2人同時に見間違いなんて…とにかく、探そう!」
「あ、待って!」
2人は路地に入り、物陰や脇道、曲がり角を探し回った。
それでも彼の姿は見えない。それどころか――
「…ここ、どこ?」
「ご、ごめんなさい…分からないです。」
――完全に迷ってしまった。
「とりあえず、さっき来た道を戻ってみましょうか! 戻って行けば思い出せるかもしれないから! えっと、確か…」
フォリスはなんとか来た道を思い出し、引き返し始める。
「よう嬢ちゃんたち! 道に迷ったのかい?」
「俺達が教えてやっても良いぜ?」
その時、後ろから声が掛けられた。
声を掛けたのは2人の男。言葉はともかく、態度には親切心が感じられなかった。仮に彼らの案内に付いて行っても、本当に表の通りに出ることは出来ないだろう。
…自分の身の自由にこだわらなければ、話は別だろうが。
「…セシカ様、走るよ!」
「分かったわ!」
危険を察知したセシカとフォリスは走り出した。
「捕まえろ!」
当然、男達は逃げた二人を追いかける。
男達に捕まった場合、最悪な末路は避けられないだろう。
捕まれば人生が終わる。
孤児だったフォリスはともかく、セシカにとってそれは初めての恐怖だった。
いつもなら守ってくれる執事も、今は馬車で留守を任せている。助けに来ることはまずないだろう。
頼れるのはフォリスと己の身だけだが、どちらも貧弱過ぎて頼りにならない。
「とにかく走って! 諦めたら本当に終わりだよ!!」
分かっている。
けど、心が、体が恐怖で思うように動いてくれない。
「助けて…誰か…!」
弱々しく、届きもしない小さなSOSは、恐怖に屈しかけている彼女の心からの叫びだった。
もうすぐ、伸ばされた魔手は2人を掴む。
『はーい! 正義の味方が助けに来ましたよー!』
届いたのは頭に直接響く声。
気付けば皆、足を止めていた。
「今の…誰?」
「テレパシーみたいだったけど…あれ?」
フォリスは気付いた。
自分たちはともかく、追って来ていた男達が足を止めていることを。そして、その理由を。
「この人たち…気絶してる?」
「え!? どうして!?」
脅威は去った。
しかし、セシカが最初に抱いた感情は安堵ではなく驚愕だった。
「大丈夫だった?」
そんな二人に声が掛けられる。
2人はまさか、と思った。
彼が追っ手をこのように無力化させる手段を持ち合わせているとは思えなかったからだ。
だが、現に男は気絶している。声も聞き覚えのあるものに間違いは無い。
…セシカとフォリスは、ほぼ同時に振り返る。
「もう大丈夫だよ、悪い人はやっつけちゃったから。」
そこには見知った顔の、知っている笑顔があった。




