二十一話 繋がってました!
日が空いたのは二話でやらかして以降ですね。今回は4日ですけど。
「…降りてください、ここから少し歩きますよ。」
馬車が止まる。
執事さんの指示に従って降りると、そこには見慣れた風景が広がっていた。
「ここって…」
「見ての通り、貴方の町よ。」
僕が生まれてからずっと暮らしてきた町。
やっと分かってきた。セシカさんが考えていることが。
「ここからは貴方の方が詳しいんじゃない?」
「…そうですね。」
たった数日だと言うのに、久しさすら感じる町並みを歩く。
その終着点には――
「あ…」
釘を打ち付ける音。
詰まれている木材。
忙しなく動く人々。
――工事中のシーサイドだ。
「もしかしたら、気がかりかもって思って。
お店だけど、見ての通り今大工さんから直してもらってるわ。
実行犯の捕縛と賠償ももう済んでるし、後はその裏に居る首謀者を聞き出して捕まえるだけ。」
「え? 実行犯はもう捕まってたんですか?」
実行犯とは別の、首謀者の存在くらいは勘付いていた。
けど、既に実行犯が捕まっていたことは知らなかった。いつの間に…
「ええ、実行犯の捜索は結構簡単だったわ。
今尋問中なんだけど…もしかして、会ってみたいの?」
「まあ、一発殴るくらいはしたいですけど…別に良いです。」
お店を滅茶苦茶にしたツケに関しては、既に弁償という形で払っている。
顔を見ても気分を悪くするだけかもしれないし。あ、でも顔を覚えてブラックリストに入れた方が良いかな…命じられてたこととはいえ、やった事がやった事だし。
「そう。
実行犯の処罰は私達の尋問の後、ギルドに任せるから。殴るなら今の内よ。
…殴れる状態だったらの話だけど。」
「だから良いです…って怖いこと言いますね!?」
殴れる状態だったらって何!? 犯人どんな目に遭ってるの!?
…もういいや、精神衛生上見ない方が良いような気がしてきた。絶対に会わないでおこう。
「おーい! オーナーさーん!」
大工さんの一人が作業の手を止めてこちらに来た。
この人、見覚えがあるような…
「見に来てくれたか!
この仕事を聞いた時は驚いたぜ。実は俺、何回かこの店で食ってたんだ。覚えてるか?」
お客さんだったんだ…通りで。
「はい、見覚えがあるとは思ってました。」
「おお…かなり間隔が開いてたから本当に覚えられてるとは思ってなかったけどよ…そう言われたら嬉しいぜ!
店の修理は任せとけ! バッチリ直して、その後また食いに来るからよ!」
「はい、よろしくお願いします!」
ここに来てくれたお客さんが、こうしてお店を直してくれてる。
なんだか嬉しくなった。まるで今までの頑張りがこんな繋がりを生んで、報われたような気がして。
「訊くまでもないかもしれないけど…どう? 来て良かった?」
「はい!」
実は、セシカさんの懸念は的中していた。
お屋敷にいて、時々お店のことが心配になっていたのだ。
無事に工事が進んでいるのか。もしかしたら工事が始まっていなかったり、また首謀者に荒らされたりしているのではないかと。
それを、わざわざ払拭してくれて。
お店の修繕まで手配してくれたセシカさんには、感謝してもしきれない。
お店を直してもらうまではもちろん、直ってからもお役に立ちたい。純粋に、そう思った。
「…良かった。
それと…実は、ここに来たのは工事の確認の為だけではないの。」
「そうなんですか?」
他の要件と言うと、貴族としての用事だろうか。
だとしたら僕完全にお荷物だよね…貴族の作法とか分からないし、知らない内に粗相を働いちゃうかもしれない。
「簡単に言えば調査ね。
マノアみたいな被害に遭ってる人がこの街にいないか。マノアのお店を荒らした犯人が同じように他の場所で悪事を働いてるかもしれないから。」
「…っ」
僕と、同じ目に。
それを聞いた途端、僕は心が痛んだ気がした。
もしもそんな人が居て、僕みたいにセシカさんや常連さんのような味方が居なかったら…
いるかどうかも分からない被害者に心を痛めるというのも変かもしれないけど。
それでも、心に残るのは同情のような感情と―――
「それで、なんだけど…貴方に、この街を案内して欲しいの。
前もって言っておくべきだったかもしれないけど、この街に住んでた使用人は貴方しかいないから…」
「…もちろん、良いですよ。
僕だって、そんな人はいて欲しくないですから。もしいても何とかしてあげたいです。」
―――強い正義感。
僕は弱い。
両親も兄弟も居ないから一人で生きていかないといけないのに、お客さんに支えてもらってやっと生きていけてる人間だ。
でも、そんな僕でも人の為になりたいという気持ちは持ってる。
自分一人のことすらどうにもできないのに、なんて言われても良い。僕もそう思う。
けど、その気持ちには人と人を繋ぐ力がある。
さっきの大工さんも、常連さんも、僕もその気持ちを持っている。だからさっきみたいに繋がりを感じることが出来る。
だから、大切にしなきゃいけない。失ってはいけないんだ。
「そう、良かった。」
そして、その気持ちはセシカさんも持っている。
僕が力を貸さない理由は、どこにもないのだった。