十七話 不安になりました!
着替えを習得した後、すぐに夕食となった。
朝から何も食べていなかったのでお腹はペコペコだ。今の今まで色々あったからだろうか、食べ物の匂いが鼻に届くまでさっぱり気付かなかった。
セシカさんに案内してもらい、食堂に着くと料理が並べられているところだった。セシカさんのご家族と僕の分のようだ。
普段は提供する側だからか、その状況に奇妙な新鮮さを覚えていると。
「今晩は。貴女がお嬢様がおっしゃっていた料理人様でしょうか?」
料理を並べ終え、皿を運んだ盆を下げていたコック服の方が話しかけてきた。
一体、僕のことはこのお屋敷でどれだけ広まっているのだろうか。セシカさんが言いふらしてるのは分かるんだけど。
「はい、そうですけど…」
「そうでしたか…いずれ、貴女の料理を頂きたいものです。
では、これで。」
「あ、はい。ありがとうございました…」
呼び止めた割には随分あっさり…あ、セシカさんが居る手前長話できないのかな?
「さっきのコック、私の前だから畏まってたけど…多分、貴方だけだったら気さくに話しかけてくると思うわ。」
「え? あの人が?」
「ええ。私と両親とお客様の前と、それ以外の場でのギャップで驚く人が多いらしいわ。」
「へー…そうなんですか。」
礼儀正しい人に見えたけど。
いや、気さくな人が礼儀正しくないとは言わないけど、ちょっと意外だった。
「お待たせ、マノア君。」
「あ、お父様…それにお母様も。」
「先程ぶり…と、言えばいいかしら?」
「は、はあ…」
お父様はともかく、お母様にはさっきのことでちょっと苦手意識が出来てしまった。
ちょっとぎこちない返答をしてしまったけど、追及はされなかった。
「さ、そこに座りなさい。
お腹も空いたろう? 早く食べよう。」
「は、はい!」
僕以外の方は皆、既に決められた席に座っている。
残った一席に僕が急いで座ると、お父様は続けた。
「本来なら使用人用の食堂で食べてもらうはずだったんだけど、マノア君はこれから我々のディナーに同席してもらうことになった。」
え? 今回だけじゃないの?
「セシカの要望ではあったけど…私としても使用人の仕事場の雰囲気とか、ちゃんと仕事に馴染めているかとか、色々訊きたいことがあるからね。
そう緊張せずに、気楽に話してもらいたい。無理を言ってるかもしれないがね。」
緊張していない、と言えば嘘になる。
…努力はしよう。あとは慣れれば意外といけるかも。
「私達としても数少ないセシカの友人だから、仲良くなりたいのよ。よろしくね。」
「……」
『…貴族には近づきすぎない方が良い。』
僕の脳裏には、レーサさんの言葉が蘇っていた。
だから不安で、仲良くして良いのかって、畏れに近いものも感じて。
でも―――
「はい。これから、よろしくお願いします。」
―――セシカさん達の態度を見て、距離を置くことにも罪悪感を感じて。
僕は、自分の心から逃げるように彼女達に近付いていた。
「はぁ…」
ふかふかのベッドに横たわる。
緊張して、料理の味はよくわからなかったけど夕食はなんとか乗り切れた。
それからはまたセシカさんに自室まで連れてきてもらって…色々あったけど、無事にそれも乗り切れた。
今はタンスの中にあったパジャマを着ている。あれ全部僕のだったんだ…
着替えまで面倒を見てくれるとは思っていなかったのと、性別とでさっぱりそう思わなかった。まあ、昨日まで僕は女の子だと思われてたしね。どうしてそこまで用意してくれていたのかは謎だけど。
あと、もう一つの発見だけどセシカさんの私室は僕の部屋から近い…というか隣みたいだ。セシカさんにばっかり案内してもらってた一因がそれだったらしい。使用人と家の人で部屋分けないのかな?
「……」
…寝よう。明日も早いみたいだし、いつまでも起きている訳にもいかない。
それにしても。
これから、どうなるんだろう。
明日は他の使用人の方に紹介してもらった後、屋敷を案内してもらって―――
―――そうじゃない。
お店があんなことになって、修理することになって。
このお屋敷で働くことになって、明日からはどういった仕事をするのかもよく分からない。
…もし、出来るなら未来の自分に訊きたい。
僕の判断…一時的とはいえ、このお屋敷で働くことを選んだのは正しかったのか。
このお屋敷はどういうところで、どう思ったのか。
セシカさん達とはどんな距離感で接して、どんな人たちだと感じたのか―――――
「…ふぁ…ぁ…」
ふかふかのベッドのせいだろうか。
それとも、自分で思っていた以上に疲れていたのか。
抗いがたい眠気に誘われ、僕は眠りに落ちた。




