十二話 話せなかった
「はぁ~…」
疲れた。
昼から寝て、夜に起きて依頼に行く…慣れない生活パターンのせいでいつもより疲れと眠気が強くなっているようだった。前日の徹夜もその一因かもしれない。
空を見上げると、もう昇り始めた日が見える。
レーサは少し前まで魔物の討伐依頼を受け、討伐対象の魔物と闘っていた。
ちょっとドジを踏んだせいで明け方まで戦うはめになったが…依頼はなんとか達成。ギルドへの報告も終わり、後は宿に戻って眠るだけだ。
ドォォ…ン
と、思っていたのだが。
近くで大きな音がして、その考えを改める。
爆発音…? こんな時間に?
疲れと眠気が吹き飛ぶ。音の元へ急ぐ。
「ここは…!」
辿り着いたのはマノアの店。
ドアは無くなっており、壁には穴が空いている。
丸見えになった店内からは炎と、それに照らされる人影が二つ見えた。
「うああああ!」
その内の一つが壁を破り外へ飛び出した。
出てきた男はボロボロだが、戦う意志は失くなっていないようでもう一つの人影を睨みながら立ち上がっていた。
「おいお前ら! 何をしてる!!」
街中、しかも人の家で。
ましてやマノアの店で戦っていることが許せなかった。
だから、気が付けば既に叫んでいた。
「あ!? なんだお前!?」
飛び出してきた男がオレに食って掛かる。
剣を抜いている。街中の喧嘩で剣を抜くなんて普通じゃない。余程怒っているのだろう。
「…止めだ。」
店から出てきたもう一人の反応は対照的なものだった。
魔法使いと思わしき男は持っていた杖を懐にしまい、両手を広げる。
しかし、街中の、しかも屋内で魔法を使い、爆発を起こしたした男だ。油断は出来ない。
「なんだと!? テメー逃げる気か!?」
「“不抜の黒剣”。お前も聞いたことがあるだろう。」
「……くっ…」
…二つ名はあまり好きじゃないが、こんなところで役に立ってくれるとは。
オレに二つ名を聞いたもう一人の奴も剣を納める。
もっとも。
「剣を納めたからって許されると思うなよ。
そこはオレが気に入ってた飯屋なんだ。殺しはしねーけど、痛い目には遭ってもらう。」
一本、剣を抜く。
妙な動きを見せたら、その瞬間―――
「…逃げるぞ。」
「チッ、今ばかりは同意見だ。」
―――心のどこかでは、そうなることを望んでいた。
剣を納める。無理に飲み込んだ怒りが完全に沈黙するまでには時間が掛かりそうだ。
いっそ一太刀でも浴びせればスッキリしたかもしれないが…過ぎたことだ。
それよりも。
「マノア…起きてこないな。」
店の中を覗いても、マノアは居なかった。あったのは変わり果てた内装だけ…
「………」
込み上げてきた怒りを押し殺す。今怒ってもどうしようもない。
それより、こんなのをマノアが見てしまったら…
でも、オレには直せない。そんな能力なんて無いし、魔法による修繕もここまでの被害では不可能だろう。
せめて店を立て直す手伝いくらいはしたい。
でも、金銭的な支援は限度があるし、なによりマノア本人が受け取ってくれなさそうだ。
『レーサさんはお客さんなんですから。
気にしないでください。』
力なくそう言うマノアの姿が鮮明に思い浮かんだ。
ああ、いったいどうすれば――
「―――レーサ、さん?」
――来てしまった。見られてしまった。
「マノアか…
その…っごめんな、あんなこと言っておきながら…」
とっさに出来たのは、ただただ謝ることだけ。
それ以上は何も言えず、マノアの顔を見られず、オレは店から飛び出した。
「………」
気が重い。
でも、せめて何が起こったのか。オレが知ってる範囲だけでも伝えるべきだ。
そう思ったのは宿に戻って眠って、目が覚めて空腹を自覚した時だった。
元気づけるべきだと、分かっているはずなのにマノアに顔向けできないと思ってしまう。
オレも力になる――そう言っておいて、あのザマだったから。
(それでも…)
もう一度、謝りに行く。
今こそ、力になるべきだ。
そう自身を鼓舞し、動かない足を無理矢理動かしてマノアの店へ向かった。
「……マノア…」
ついに辿り着いた。
今朝と変わらずボロボロとなった建物。
シーサイドだった場所へ足を踏み入れる。
「…アンタ、その店に食いに来たのか?」
その時、背後から声を掛けられた。
振り向くと一人の獣人。犬か狼だろうか…何回か店で見たことがある。
「…ちょっと店主に用があってな。
マノア…ここの店主はどうした?」
「ああ。
アイツなら、貴族のトコに行った。」
「………え?」
貴族の…所?
まさか。
まさか、アイツは―――




