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シーサイドへようこそ!  作者: じりゅー
第一章『シーサイドとお客さんたち!』
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十一話 忠告されました!

「ふぁ~…」


 料理を机に置いている途中、レーサさんが欠伸していることに気付いた。

 お昼に欠伸なんて、どうしたんだろう?


「眠そうですね?」


「ああ、今日は夜に仕事があってな…

 寝る時間をずらすために昨日は徹夜してこの町まで歩いてきたんだ。食い終わったら宿で寝る。」


「あー…そう言うことですか。」


 狩人は夜に魔物の討伐や薬草の採取を行うため、睡眠時間をずらすこともあるという話は聞いたことがある。

 会ったことはないけど、昼夜逆転の生活をしている夜の依頼専門の狩人もいるとか。


「それよりマノア、そっちの客が話してたんだが…今色々大変なんだって? 貴族に勧誘されたとか、トラブルが絶えないとか…」


 レーサさんにも伝わっちゃったか…知ってほしくなかったんだけどな。

 前にかなり心配してくれてたから、ちょっとでも安心させてあげたいのに。


「大丈夫です。

 僕は頼りないかもしれないですけど…常連さんも助けてくれますから。」


「そっか。

 じゃあ、何かあったら言ってくれ。オレも力になるからさ。

 オレだって、この店も、マノアも好きだからな。」


「え、あ…ありがとうございます。」


 一瞬勘違いしかけたけど、その気持ちは純粋に嬉しかった。


「あ、そうだ。

 そう言えば、ひとつお前にお土産があるんだけど…」


「お土産?」


 そう言ってレーサさんがバッグから取り出したのは小さな袋だった。


「これはなんですか?」


「疲労回復の薬だそうだ。

これを飲んで寝るとよく疲れが取れるらしい。なんでも、治癒作用がある…リカバの実とか言ってたかな。そんな木の実も混ぜ込んでるんだとか。

 マノアがまた無茶してるんじゃないかと思って一つ買ってきた。やるよ。」


「疲れが取れるならレーサさんが使った方が良いのでは? 狩人は闘うお仕事ですし…」


「いーんだよ、オレ薬嫌いだからさ。

 お前が貰わないなら捨てちまうぞ?」


「…じゃあ、ありがたく頂きます。」


 せっかくの気遣いだし、ありがたく頂いておこう。

 そう思った僕は薬を受け取り、今夜早速使用することにした。疲れなんて毎日溜まるし、ほっといて忘れちゃうのも悪いし。


「副作用で眠りが深くなるらしいから、寝坊しないように気を付けろよ。

 …それと、一つ訊きたいことがある。」


「訊きたいこと?」


「ああ。

 さっき出てった貴族とはどういう関係なんだ?」


 今日来た貴族のお客さんはセシカさんだけだ。そこを迷うことはない。

 けど、どんな関係かって訊かれても…強いて言うなら。


「…常連さん、でしょうか。」


 様付けをやめるように言うあたりちょっと距離が近いかもしれないけど。

 それでも、貴族と平民。身分の違いは弁えているつもりだ。お客さんと店員。それ以上の関係ではない。


「…貴族には近づきすぎない方が良い。

 機嫌を損ねればってのはもちろん、貴族同士の厄介ごとに巻き込まれるかもしれないし、他の貴族から不遜と捉えられる危険もある。

 もちろん、入店を禁止しろとか一切話すなとかそういうことを言うつもりはねえけど…気ぃ付けとけ。」


 レーサさんが親切心でそう言ってくれてるのは分かるんだけど…僕としては、その気遣いがちょっとだけ不愉快だった。

 セシカさんと仲良くなりたいからかもしれない。打算的な繋がりでなく、もっと個人的な付き合いをしたいのかもしれない。

 …不遜かもしれないけど。


「…ま、踏み込み過ぎなきゃいい。むしろ貴族にコネが出来るのは良い話だ。

 適切な距離で接するんだ。どんな奴にも言えることかもしれねーけどな。」


「はい、忠告ありがとうございます。」


「ああ。

 じゃ、冷めないうちに食うぞ。」


「はい。どうぞ、お召し上がりください。」


 その後レーサさんは少し追加注文して完食し、店を出ていった。







「………」


 …今日はよく眠れた。そんな充足感を感じながら体を起こす。

 昨夜はレーサさんがくれた薬を服用し、眠りに就いた。

 確かに効き目はあるようだ。昨日の疲れはさっぱり無い。

 ただ、副作用のせいかいつもよりぼーっとする。窓から見える日もいつもより高く見えるようだった。

 …行かなきゃ。

 今日も仕事だ。寝坊ってほどでもないけど、起きた時間がいつもより少し遅めになってしまった。急いで準備しないと。

 “シーサイド”の奥は居住スペースとなっていて、僕はそこに住んでいる。両親が居た頃は親子三人でここに暮らしていた。

 だから、起きてすぐに厨房へ行けるし、何か必要なものがあればすぐ取りに行ける。当たり前になっているからもう便利さは感じないけど…おかげでしばしば助かってることも事実だ。


「……ん?」


 寝室のドアを開けると、焦げ臭い匂いがした。

 近くで火事でもあったのだろうか。と最初は呑気に考えてたけど、厨房に近付く程その匂いが強くなっているようだった。

 まさか。とは思った。

 けど、仕事が終わったら毎日火元を確認している。火種が無ければ火事になる訳も無い。

 予感を理詰めで押し殺し、仕事場の扉を開く。

 そこには―――


「……え?」


 ―――黒焦げになった床。散乱し、あるものは壊れ、あるものは床と同じように焦げているテーブルと椅子。

 ところどころ壁に空いた大穴。破壊されたドア。

 そして、そこに立ち尽くす―――


「―――レーサ、さん?」


「マノアか…

 その…っごめんな、あんなこと言っておきながら…」


 顔が悲壮に歪んでいく。

 彼女はそれ以上を語る前に、ドアがあった場所から飛び出していった。

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