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シーサイドへようこそ!  作者: じりゅー
第一章『シーサイドとお客さんたち!』
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九話 トラブルが起きました!

 

「ふざけんなよテメェ!」


「ああ!?」


 数日後。

 調理中、怒号が聞こえたので厨房を出ると、狩人と思わしき格好をした筋肉質な男が2人で言い争っていた。


「どうされました!?」


「おめぇにはカンケーねーよ! 引っ込んでろ!」


「わわっ…!」


 仲裁に入ろうとするも、片方の狩人から突き飛ばされる。

 僕の体はその衝撃でいくらかのテーブルとイスを倒してしまう。

 幸いそこに他のお客さんは居なかったから、怪我人は出てないけど…腕が痛い。テーブルの角に引っ掛けてしまったらしい。血も出てる。

 でも、僕が止めないと。僕はこの店の店主なんだ…!


「止めてください! 他のお客さんに迷惑です!」


「黙ってろって言ってんだよ!」


「っ…!」


 頬を叩かれて床に腕をぶつける。

 ぶつけたのはさっき血が出た方の腕だ。床、汚しちゃったかな…


「おい! 何やってる!」


 それを見ていたお客さんの一人が二人の狩人の肩を掴んで抑える。


「なんだオマエ!」


「喧嘩なら他所でやれ! ここは店だぞ!」


「知るかよ! コイツが悪いんだ!」


「はあ!? 分け前が減るってのは最初から言っといただろーがよ!」


「それにしても少なすぎるだろ!」


「落ち着けお前ら! 客に迷惑かけてるどころか店主に怪我までさせてんだぞ!」


 ちらり、と僕を見る二人の狩人。


「…お、おい、やべえんじゃねえか?」


「逃げろ!」


 僕の腕を見ると、二人は青ざめた顔で店から出ていった。

 当然、お金も払わずに。でも、なんで出て行ったんだろう…?


「いっ…!」


「大丈夫かマノア! お前、かなり血が出てるぞ!」


 でも、そんなことを気にしている余裕は無かった。

 二の腕からどくどくと血が出てきている。早く手当しないと…


「俺が手当てをする! 包帯はあるか?」


「大丈夫です…これくらい、自分で出来ますから。」


「無理するな、片手じゃ難しいだろ。」


「…すみません、お願いします。」


 指摘通り、自力での手当が難しいこともあって断り切れないと思った僕は厚意に甘えることにした。

 また、なにも出来なかった。それに、お客さんに手当までさせて…


「…ごめんなさい。」


「お前が謝ることは無いさ。

 待ってろ、あの馬鹿共とっ捕まえてお前に謝らせてやるからな。」


「そ、そこまでしなくても良いですから。」


「あいつら代金も払わないで行ったろ? 慰謝料込みで倍払わせてやるさ。

 任せな、これでも俺はつえーんだ。ごろつき2人くらい訳無いさ。」


「あはは…じゃあ、お願いしますね?」


 まあ、どうせ冗談だろう。

 と思ってその時は笑ってたけど、2日後二人の狩人が謝罪、代金と慰謝料の支払いに来た時は言葉に詰まった。

 まさか本気だったなんて…







「おい! ここの店長を呼べ!」


 威圧的な口調、クレームであることはすぐにわかった。

 あのお客さんに出した料理は…うん、特に調理中のミスは無かったはず。

 となると、髪の毛とかかな?


「はい、どうされましたか?」


「どうしたもこうしたもあるか! なんだってこの店は獣人なんて入れてやがる!?」


「……」


 指を指されたヒュースさんがクレーマーを睨むのが見えた。

 …確かに、一部の店では獣人の来店が制限、もしくは禁止にされている店もある。

 理由としては料理に毛が入るとか、店主が獣人嫌いとか…そういう理由だったと思うけど、それが獣人差別だという声も少なくはない。


「ここに入店制限なんてありませんから。

 貴方が指を指したあの人も、もちろん貴方も。」


 でも、シーサイドではそんな入店制限は無い。お客さんなら満足してもらえるようにおもてなしをする。

 …食い逃げとか勧誘だけとかなら話は別だけど。

 以前の狩人の件こそあるものの、今のところ他にそういったことは無い。

 そう考えると、僕は良いお客様に恵まれている。本当にありがたいことだ。


「獣人なんて入れてたら料理が毛まみれになるぜ! 

 見ろよこの毛! さっきこの料理から出てきたんだ! そのまま食っちまったらどうするんだ!」


 唾を飛ばして怒鳴り付けるクレーマーに、僕は物怖じ一つせずに答えた。


「その毛、さっき自分で料理に混ぜたものですよね?

 ちゃんと見てましたよ。あのお客さんにわざとぶつかって、服に付いた毛をその料理に混ぜてたのを。」


「う…」


 僕はこの人が入ってきて、挨拶した直後に見ていた。

 ヒュースさんに見て分かる程わざとぶつかっていたところを。

 ヒュースさんは苦々しい表情をしながら、謝りもしなかったその人に文句ひとつ言わなかったことを。

 きっと、この店の雰囲気を悪くしたくなかったから何も言わなかったのだろう。僕はそのことに申し訳なさを感じていた。

 だから僕は目をつけていた。ヒュースさんに悪意のある行動をし、嫌悪の目を向けていたこの人を。

 そしたら料理が届いてしばらくして、彼がさっき言ってた行動を取っていたことに気付いた。

 だから僕は、歪み一つ無く強気を保っていられたのだろう。


「それに、獣人の方が来たからって料理にお客さんの毛が混入することはありません。」


「なに?」


「気をつけてますから。

 僕は毛が付いたか付いていないかにも関わらず、そういった方と話した後は毎回外に出て全身を払ってます!」


「「!?」」


「一応言っておきますが、決して獣人の方が汚いからとかではありません!

 あくまで異物の混入を防いで、お客さんに気持ちよく食事して頂くためですから!」


「……あ、ああ…そうか、分かったよ、悪かったな店主…仕事に戻っていいぞ…」


「分かって頂けたならいいです! では!」








「……なあ、坊主。」


「なんですか?」


「俺、お前が仕事してる時は喋らないから…来たらいつも頼んでるやつ置いといてくれ…」


「え!?

 …あ! もしかしてさっき言ってたこと、気にしてるんですか?」


「……」


「大丈夫ですから! 別に気にしないでどんどん話しかけて頂いて良いですから!」


「…すまん。」


「大丈夫って言ってるじゃないですかぁー!!」


 頑張って説得したけど、その日からヒュースさんの口数が少し減った…様な気がする。

 あと、翌日から常連さんの何人かは腕や脛の毛を剃って来ていた。本当に気にしなくても良いのに…

 …髪の毛剃ってきた人。ホントにやりすぎ。

このハゲー! 違うだろー!

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