2話 ひとつの決着
「これでっ! 終わりよ犬っころぉぉおおおおお!!」
散弾銃のように撃ちだされた氷のつぶてが、白山氷柱の前に最後まで立ち塞がっていた群れのリーダーである傷ありの狼の体を打ち付けた。
最後の一匹が動かなくなったのを確認して氷柱はその場に座り込む。
「はあっはあっ、――――やっと終わった。こいつらちょっと元気なだけの狼かと思ったら…………巨大化するやら合体して首が3つの地獄の番犬みたいになるやら予想以上にてこずったわね」
大きな傷こそ無いものの雪のように白い肌には狼の牙や爪による切り傷かすり傷がいくつも浮かんでいる。趣味で着ている中学校の制服には所々にできた裂け目が目立っており、その事がさらに彼女の表情を曇らせる。
「まったく、この学校の制服は一着しか持ってないのに…………。ま、帰って璃亜に繕って貰えばいいか」
一息ついたところで懐からスマホを取り出す。
青と白のカラーリングに雪だるまをあしらったデコレーションで飾られた彼女らしいスマホだ。
「あーもしもしちびっ子、見てたと思うけどこっちは片付いたわ。向こうの様子は?」
「今璃亜さんが所長さんの血を吸って人狼さんと正面から殴りあっている所です。あと、氷柱ちゃんを中心に半径100メートル以内を視てみたけど周囲に敵はいないみたいだから安心してください」
千里の言葉に安堵し雪女がふっと息を吐く。
普段のおどおどとしたものとは違いその言葉ははっきりとしていて力強いものだった。彼女の普段の態度は人と直接接する事が苦手なためにああなってしまうだけで、電話や無線など相手の顔が見えない状態なら普通に会話をする事はできる。
「さんきゅーちびっ子、さすがにちょっと疲れたわ。ちょっと休んだら向こうに合流するから最適ルートの検索よろしく頼むわ」
「…………氷柱ちゃん、あまり無理はしないで下さい。さっきの狼さんの群れはともかく事務所で人狼さんにやられた傷は軽いものじゃないですよね?」
千里の声色から彼女本気で自分を心配してくれているのが伝わってくる。
「わーかってるわよ、別に吸血鬼と人狼の間に割って入ろうって考えてる訳じゃない。ただ、ウチの事務所で一番打たれ弱いくせに一番無茶する馬鹿がいるでしょ。その馬鹿が無茶しないように見張りに行くのよ」
天柳探偵事務所の所長であり唯一の『人間』である天柳相一。探偵らしく数々の難事件を解決し警察からも一目置かれる存在である彼にも欠点はある。その一つに親しい人間の身に危険が及ぶと途端に冷静さを失うというものがある。過去に自分の命を種銭にした生死を賭けたギャンブルに巻き込まれた事もあったが、終始冷静さを失うことはなく己のペースを保ち続ける事で勝利している。だがそれがもし仲間の命が賭かったものだったらそう簡単にはいかなかったかもしれない。
(普段は頼りになるくせに身内が危ない目に合うとすぐにオロオロする、…………まったく、困った所長だわ)
心の中で悪態をつくこの少女もまた、天柳相一に助けられた過去がある。
「さ、そろそろ出発しようかしらね。璃亜が動けるようになった今なら心配ないと思うけど、放っといたら妖怪の私でもドン引きしそうな無茶をやらかしそうだし」
別れの言葉を告げると通話を切り、スマホを懐に戻す。
そして調子を確かめるようにゆっくり立ち上がると、満月に照らされ夜道を一人駆け出した。




