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吸血秘書と探偵事務所   作者: かみこっぷ
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2話 吸血鬼と狼男③

「クは、それがアンタの隠し球か? いいな、プレッシャーがさっきまでとは比べ物にならねえ程に膨れ上がってやがる。そうじゃなきゃ吸血鬼と闘う意味がねえよなあ!!」


雪のような白い髪に炎のような赤い瞳、本気の吸血鬼を前にして尚銀月の余裕は揺るがない。相手がなんであれ満月の下にいる限り己が負ける筈など無いという確固たる自信の表れである。


「こちら準備が整うのをのんびり待っていた事を後悔させてあげましょう」


「まさか、全てを出し切ったアンタを倒してこそ、この戦いに意味が生まれるんだ。それに…………これでも弱いものいじめをするのは好きじゃないんだ。さっきのままだと間違いなくそうなってただろうよ」


「…………口の減らない戦闘狂ですね」


二人の間に開いた距離はおよそ10メートル。お互い手足が届く距離ではないが、吸血鬼の反応速度と人狼の瞬発力を持った二人にとっては0にも等しい10メートルだ。


重心を少し落とし拳を軽く握って構えをとる璃亜とは対照的に、力を抜き鋭い爪を携えた両腕をだらりと下げて棒立ちを続ける銀月。


先に動いたのは銀月だった。


ッッッドン!! 


己の肉体を砲弾にし、音を置き去りにしてしまいそうな速度で真っ直ぐ璃亜に突っ込んだ。


対して璃亜は『回避』や『防御』のための行動は取らなかった。その圧倒的なスピードに反応出来なかった、訳ではない。


「とりあえずコレは――――」


一歩踏み出し上半身を弓のようにしならせ


「――――――さっきの分です!!」


既に眼前へと迫っていた銀月に向けて、吸血の効果で傷が癒えたばかりの己の額を叩きつけた。


今度は銀月が吹き飛ぶ番だった。


銀月はビデオの逆再生のように元来た軌道を綺麗に戻っていった。それは璃亜が吹き飛ばされた時の勢いを数段上回るものであった。


その勢いは瓦礫の塊にぶつかった程度で止まるものではなかったようで、廃工場の敷地の外へ突き抜けていった。


電車一車両分ほど地面を転がった銀月は近くに積んであった廃材の山にぶつかった所でその動きを止めた。


「クはは、コイツはマジに驚いた。この姿で誰かにぶっ飛ばされるなんて初めてだ!!」


地面に仰向けで転がったままの銀月。


「あーやっぱいいな、最高だアンタ。今、最高に愉しいぜ」


「お褒めに預かり光栄です、と言いたいところですが犬畜生の称賛などそれこそ犬の糞ほどの価値もありませんね」


「なかなか口の悪いねーちゃんだな」


そう言ってゆっくりと銀月が立ち上がる。月明かりに照らされたその姿には目立った傷は見当たらない。


「回復が早いのか、それともただ単純に硬いだけなのか。どちらにしても面倒くさい事この上ないですね」


パキパキと指を鳴らしながら銀月との距離を詰めていく吸血鬼。対して人狼もジーンズから伸びるぼさぼさの尾を揺らしながら歩みを進ませる。


「さあ、続きだ」


「…………はぁ」


新しいおもちゃを与えられた子供のような歓喜の表情を浮かべている(と思われる)銀月とは対照的に、璃亜はうんざりした様子を浮かべる。


「私は早く所長の手当を――――」


「だったらここで俺に殺される訳にはいかないんじゃねえのか!?」


二人の距離は近づき続ける。その距離10メートル。そこで二人は止まらない。一歩、さらに一歩とお互いの間合いに入って尚無防備に相手へ接近する。


ぴたり、と吸血鬼と人狼は示し合わせたかのように同じタイミングで立ち止まる。


お辞儀でもすれば相手の体に頭をぶつけるぐらい二人の間に距離は無かった。


満月が浮かぶ夜空の下、大妖怪と評される二つの存在が衝突しようとしていた。

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