第九十二話 ウエストリア
「あの、お風呂ありがとうございました!」
ほかほかと体から湯気を出し、持参していた寝巻に着替え、風呂から上がってきたエルナ。
「それにしても凄いですね!自宅にあんな大きいお風呂があるなんて……!もしかしたら貴族たちの所有する風呂場より凄いかも」
エルナが風呂から上がった後、今度はケンジとクロたちがお風呂に入る番となり、俺は部屋でケンジたちが上がるのを待っていた。
「あの、ポチさん……」
「ん?」
「折り入ってご相談があるのですが……」
「?なんだ?」
改まった態度で話しかけてきたエルナに、俺もちゃんとエルナの目を見て話す。
「ポチさんは、冒険家ですよね?」
「あぁ、一応そうだけど……。よく分かったな」
「いえ、なんとなく様子を見ていてそうかなー?っと思いまして……」
少しおっとりとしている見た目とは裏腹に人を見る観察力はとても長けているエルナ。
「んまぁ、俺だけじゃなくてケンジもそうなんだけどな」
「えっ!ケンジ君も冒険家なんですか!?」
流石に自分より歳が下なケンジも冒険家とは思っていなかったのかびっくりした顔を見せる。
「まぁ、ケンジは特別にな」
「そうなんですか……」
ケンジも冒険家だったということにまだ少し驚きを隠せない様子のエルナ。
「それで話って何なんだ?エルナ」
「はい……。話と言うのは“任務”のご依頼の件に関してです」
「任務の……?」
「はい、そうです。今回の私がお二人にお願いする任務というのは『私を“ウエストリア”まで護衛する』という護衛任務です」
ウエストリアー?どこだ?そこ??
そう思っている俺の前に差し出されたのは、瓶一杯に詰まった銀貨と銅貨。
きっと女性の一人旅でここまで稼ぐのにも色々と苦労を重ねてきたんだろう。
「今持っているお金はこれが全部なのですが……」
エルナは美しい金色の髪を垂らしながら、俺に向かって頭を下げる。
「お願いします!私をどうかウエストリアまで連れていって下さい!!」
「……それはもしかして、あの変な連中にも追われてたのに関係することなのか?」
「……はい」
なるべく俺は優しく目の前で必死に頭を下げ続けているエルナに語りかける。
「私はどうしても会いたい……いや、連れて帰らなきゃいけない人がいるんです!」
顔は見えないが震える声で言葉を紡ごうとする。その言葉には形では決して形容できない何か強い想いを感じた。
「これでも報酬がなりないと言うなら、必ず後でお支払します!だからお願いします!どうか、どうか私をウエストリアまで……ッ!」
「分かったよ」
「えっ……?」
「エルナを助けたのは俺がそうしたいって思ったからだし、それならそれできちんと最後まで助けきるよ」
本当はクルスティアに行きたかったんけど、温泉は別に逃げないし後回しでもいっか。
俺はエルナの任務を引き受けることにした。
『何より女の子がこんなに必死に頭を下げているのに断るとか外道だよな……』
そうと決まればケンジにも色々と相談しなきゃなっと、俺が考えていたら何故か目の前にはポロポロと青い目から涙を流しているエルナがいた。
「エッ!?」
今のところにどうしてそんなに泣く要素があった!?
俺が驚いて固まっていると、エルナは両腕で涙を拭う。
「す、すいません……!私、一族を出てからはずっと一人ぼっちでぇ……!!他人に声を掛けようとしても、ずっと怖くて声を掛けられなくて、それで……!!」
「わ、分かった!分かったから泣くなよ、なぁ?」
「そうだ、こんな時にはホットミルクだ!」っと俺は台所に走る。だが、動揺して手が震えて上手く焜炉の火がつけられない。そんなことをしている間に、ケンジたちも風呂から上がってきた。
「お風呂上がったよ~……ってエルナちゃん!?どうして泣いてるの!?」
「クルピァ~?」
『げぇ!?』
最悪のタイミングで風呂から上がってきたケンジたち。ケンジは慌てて、エルナに駆け寄る。
「ポチィ~……?一体、エルナちゃんに何言ったのぉ!」
「えぇ!?いや、別に……」
風呂から上がってきたばかりのケンジから理不尽に説教を喰らう俺。まぁ、確かにこの見ただけの現状じゃ俺がエルナを泣かしたようにも見えなくもない。
「違うんです!私が、わたしが……うぅっ!」
また俺の顔を見て、感極まわって泣き始めるエルナ。これによりまた更にその場は修羅場と化す。
「~~!ポ~チ~ッ……!!」
物凄い怖い顔で俺を睨むケンジに俺は怯む。
「ご、誤解だぁ~!」っと叫びその後、俺はケンジに事情を説明し誤解を解くのに小一時間ぐらいかかった。




