第九十話 金色の妖精の尻尾
マーリンの姿が見えない所まで来て、ようやくケンジを降ろす。ふぅー、危なかったッー!
「もー!ポチがさっきの場所にいなかったから探してたのに、急にどうしたのさぁー?」
俺を見上げ、ぷりぷりと両方の頬っぺたを風船のように膨らまして怒るケンジ。
「いやー、それがどうしてもやむを得ない事情があってだな……」
ケンジを宥めるための言い訳を考えながら道を歩いていると何処からか音が流れてきた。
「――~~♪」
滑らかな透き通るような歌声――。
広場のある小さな噴水の前で一人の少女が歌を紡いでいる。その少女の周りには沢山の村人が集り、清らかな少女の歌に聞き入っていた。
歳はまだ中学生ぐらいの12~11歳らへんだろうか?腰の辺りまで伸ばした金色の美しい髪に愛らしい碧眼とすっきりとした小さな鼻――。
金髪が風になびくと尻尾のように動き出す。噴水の水に反射し、太陽のように光輝く。その歌声に俺たちも思わず歩いていた足を止めしまう。
「~~ッ♪……ありがとうございました!」
少女が歌が歌い終わると同時に、拍手喝采の嵐が鳴り響く。
「流石、風の噂で有名な“金色の妖精の尻尾”……!!この世のものとは思えない程の綺麗な歌声だ」
「えぇ!凄く心が洗われるようだわ」
「なんか心がポカポカしてきた……!」
村人たちは口々に少女の歌声に称賛の声を上げながら、あらかじめ前に置いておいた瓶の中に銀貨や銅貨を投げ入れていってくれる。
「ありがとうございます!」
眩しいぐらいの笑顔でわざわざ歌を聞いてくれた観客である村人たちに頭を下げ、お礼を言う少女。
少女の歌声に満足した村人たちは徐々にその場から去っていく。
少女もお金が入った瓶を確認するとしっかりと瓶を蓋で閉める。
そしたら近くに置いておいたリュックにとしまい、背負うと何処かへと歩いて行ってしまった。
「凄く綺麗だ……!」
「あぁ、確かに凄く綺麗な歌声だったな」
あまり音楽など詳しい方ではないがそんな俺でも少女の歌声には何か強い想いみたいなのを感じた。
「え、あっ……!そ、そうだね『歌』の方もね……!」
「?」
何故か少し顔が赤くなっているケンジ。用も済んだし、家にさっさと帰るかと足を向けようとしたその時――。
「――いたッ……!」
短い悲鳴が上がる。何事かと振り返ると、俺たちとは反対方向に歩いていったはずのあの少女が二人の男たちに絡まれていた。
「やっと見つけたぜぇ……!どこに逃げたかと探していればこんな古びた村で路銀稼ぎしてたなんてな」
「い、いやだ……!離して下さい……ッ!」
「うるせぇ!大人しくしてろ」
「い、いたいッ――!!」
黒いローブに印された蠍の紋章を身につけている二人組の男。二人組の一人である、声を荒上げた男の方は少女の美しい長い金髪を乱暴にも更に引っ張り上げる。
「……」
態度を改めることなく黒いローブを身に付けた男たちは少女を力づくで連れていこうとする。
「よし、こいつを連れてさっさとボスの元に――……ぐあッ!?」
女の子に乱暴していた男の顔面には、どこからともなくやってきた生卵が投げつけられた。べゃちゃりと黄身と卵白の二色が男の顔を彩る。
「おっと、すまん。買い物帰りで疲れて、手元が滑った」
「だ、誰だ!てめぇ!」
ケロリとした俺の表情に間髪を入れず凄んできた男。
「おおっと!?すまん、またまた手が滑ったーッ!」
っと、俺は謝罪の言葉を述べつつも腕は逆の行動を取っており、俺は片手で持つ食材が詰まった紙袋の中から卵を取り出し、また男の顔面向かってぶん投げる。
すると、おっ!今度はもう一人の男の方に当たった。
「ってぇ!?」
「て、てめぇ……!」
怒りでカッと顔を真っ赤にする男共。ようやく少女の髪の毛から手を離す。
邪魔をしてきた俺たちに逆ギレして来た二人組の男。だが二人の意識がこっちに向いたその時、ちょんちょん――っと誰かが男の肩を後ろから小突いた。
「ったく、なんだ!俺たちは今取込み中……ッ!!」
「クルピァ!」
バックから出て、こっそりと背後に忍びよっていたクロ。振り向いた方の男は突然見られぬモンスターに呆気に取られる。
いつもの鳴き声と共に、クロは男たちの頭に狙いを定め、口から吐き出した黒い炎を浴びせた。
「ぎゃあーーー!!」
「み、水ーーッ!!」
メラメラと男たちの髪の毛に火の手が上がり、悲鳴を上げる。
プスプスと音を立てて、髪の毛が焦げる時の特有の嫌な臭いがする中、その隙に俺は空いている片手で少女の腕を掴み、引っ張っる。
「――逃げるが勝ちだ!」
「え、えっ!!?」
突然のことに状況があまり理解できていなかった少女は素っ頓狂な声をあげた。
男たちがクロの吐いた炎に気を取られている内に少女を連れ俺たちは村から脱出し、家まで全力疾走で走り続けた。




