第八十一話 リンダの忘れ物
「いっちゃったね」
「……」
家に残されたケンジたちは閉ざされた扉を見つめる。リックの顔からは急に元気がなくなる。
「だ、大丈夫だよ!ポチも一緒だし、強いんだよポチって!」
リックの様子を見て心配したケンジは励ますように必死に明るく振る舞う。
「ご飯でも食べて一緒に待ってよ?」
「うん……」
ケンジに促され漸くリックも歩みを進め、朝ご飯が置いてあるテーブルに向かう。スープはまだ湯気が立っており、温かそうだ。テーブルに向かって歩いてる途中、リックはあるものが目に入った。
「んっ……?あれって……」
少し空いた棚の引き出しから、はみ出ている赤い布端にリックは気がつく。それに見覚えがあるリックは近くにあった椅子を引っ張ってきて、引き出しの中に入っている物を確認する。
「やっぱりッ……!大変だ!お姉ちゃん、替えの弾が入った袋忘れてちゃってる!!」
リックは袋の中身を確認してみると、やはりリンダがよくクエストやモンスターの討伐などに持っている替えの実弾が入った袋であった。
「届けにいかなきゃ!」
「でも、ポチたちはここで待ってろって……」
「けどお姉ちゃん、これがないと困るはずなんだ。……僕、牧場にいって届ける!」
ケンジの反対も押切り、リックは赤い袋を抱えて一人でも牧場に向かおうと玄関に走る。だが、リックの腕をケンジが掴む。
「ま、待ってよ!なら僕も一緒に行く!」
「え、ケンジくんも?」
「だってリックくんのことも心配だし……。それに僕もこれから冒険家になって『アルバトロス』みたいな格好いい勇者を目指すんだ。こんなところで僕だけじっとしてるなんて出来ないよ!」
「じゃ、一緒に牧場に行こう!ケンジくん!」
ケンジたちはそう話が決まると扉を開いて、家から飛び出した。ケンジたちは石床が並ぶまだ早朝で人通りが少ない閑静な街道を走る。まだ空気が冷たく、白い息を吐きながらも走り去っていくケンジたちの姿を後ろから見かけた影がいた。
「あれは……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「どうしよう……門番さんが見張ってる」
城門に辿り着いたケンジたち。しかし城門の前には甲冑を身に纏い武器を持った兵士が一人で城門の下に立ち、しっかりと門を警備していた。
「これじゃ、牧場に行けないや……」
門は開いているのだが、子供のケンジたちはモンスターがいる外にへと簡単に通してもらえるはずもないので茂みに隠れ、ケンジたちは門に近づけるところまで近づいてみたものの。門の下にはぴたりと兵士が張り付いており全然ケンジたちが入れそうな隙はなかった。
『んー……何か門番さんの目が反らせそうな物はないかな?』
ケンジは周囲の茂みの中を探ってみる。すると自分の握り拳と同じぐらいの大きさをした転がっている石コロを見つけて手に取る。
『あった……!』
「リックくん……!これを投げて門番さんの目を反らしてる間に門を潜っちゃおう!」
「そっか!」
ケンジは兵士の目線を見計らって石を投げられるチャンスを狙う。そして兵士が一瞬だけ目を反らす。
『いくよ、リックくん』
『うん』
「えっい……!」
小声で合図し二人は顔を見合わせた後、ケンジは自分たちがいる方向と全然違う所に石を投げる。ケンジが投げた石コロは城壁に当たって跳ね返り、コツンッ!と音が響き地面に落ちる。
「ん?」
門番の兵士は茂みの中からした不審な音に気づき、持ち場である門の下から離れ、音のした方に駆け寄る。ケンジたちは兵士が投げた石コロに気を取られている内に門の下を音を立てぬよう素早く走り抜ける。
「やった……!」
「よし、このまま真っ直ぐ進めばすぐ牧場だよ!」
門番に気付かれぬよう喜びの声を上げ、無事に城門を抜けることに成功したケンジたち。二つの小さな背中はアベシス王国のすぐそばにある牧場にと向かっていった。




