第四十五話 武器化
「あの犬耳少女とマッチョさんも連れず一人でこんなところまで来て大丈夫だったんですか?」
「えぇ。今回はあくまで休暇を利用した、しがない一人旅、という名目で来ましたので。それに俺個人の用事にあの二人をここまで付き合わせるのもしのびないですしね」
「そりゃ、部下思いの副隊長様なこって」
「別に当たり前のことですから。後、無理して堅苦しそうに喋らなくても大丈夫ですよ? 俺気にしませんし、それにポチさんは俺にとって恩人なのですから」
「んー、そうか?んじゃ、遠慮なく」
一応、お偉いさんなら丁寧な言葉使いを使っておいた方がいいかと思ったんだが。
まぁ、青年が気にしないと言ってるしいいっか。
「でもまさかエルフの女性を助けた時に会った貴方があの鉄の馬を乗った同一人物だとは」
んー、あれは鉄の馬じゃなくてバイクっていう乗り物なんだが…。まぁ、つっこむとめんどくさいことになりそうだがら俺は余計なことを言うのはやめた。
「しかも2属性も魔法を操ることができる2属性使いだったなんて。もう色々とポチさんには驚かさせられっぱなしですよ。ポチさんもご存知とは思いますがこの世に生を受けるものは全て属性を司る聖霊王様たちから一つだけ恩恵を授かることができます」
「ウ、ウン!」
たった今初めてその設定知りました!スンマセン。
「この恩恵こそがこの世界では魔力と呼ばれているものです。だから、原則的に二つの魔力を持って生まれる方は稀なんですよ」
興奮したように話すギル。
――じゃ、全属性が使える無属性ってかなり凄いことなのかな?
俺がそんなこと考えているとケンジはそわそわしたように「あの…」とギルに質問する。
「魔力を持ってない人ってこの世界どれぐらいいるんですか?」
「そうだな。2属性を使える人が滅多にいないのと逆に然りで恩恵である魔力を授からない人も珍しいと言えるな」
「そうなんだ……。僕、なんで魔力を持ったないで生まれてきちゃったんだろう」
「ポチさん、もしかしてケンジ君は……」
「あぁ、ケンジには生まれつき魔力がないらしい」
「僕が、きっと悪い子だったから…。聖霊王様から嫌われちゃったから恩恵、もらえなかったのかな…?」
ぽっつりとそうケンジは呟く。
「馬鹿か、お前は。そんなわけねぇだろ」
「いてっ」
俺は馬鹿なことを抜かすケンジにペチンと軽いデコピンを食らわす。
「ケンはケンだろうが。それ以上にもそれ以外にもなれない」
「ポチ…」
「俺が知ってるケンはまだ子供で力も弱くて泣き虫なところあるけど、人のことが間違ったことやってもそれを許すことができる優しくてしんの強いやつだ。それは簡単なことで一番難しいことなんだ」
始まりの村のことだってそうだ。本当ならケンジは見捨てもおかしくなかったのにケンジは必死に俺にまで頼んで村を救済する道をとった。俺なら間違いなく切り捨てていただろう。
「人を憎むのは簡単だ。でもその罪を本当に許すことができる人間なんてほんの一握りなんだよ」
けどだから俺はケンジを選んだのだ。真っ直ぐでこの無垢な少年を。
「それなのにもしそんなケンにふざけたこと抜かす奴だったら聖霊王とかなんだか知らないが、一発ガツンと言ってやる!」
俺はケンジに握りこぶしを見せつける。
「ポチさん、聖霊王様に説教をするとは大きく出ましたね」
目の前で俺の話を聞いてた青年は可笑しそうに笑っている。
「あったり前よ。俺は神様の存在は信じてるけど、宗教なんていう不確かなものは信じない主義なんでね。だって結局世の中なんて自分の努力次第だし、誰かに祈ったからって必ず報われるわけでもない」
だったら俺は少しでも誰かに祈ってる時間があるなら俺自身がこうだって決めたものに時間を費やしたい。
「ケンジ君。ポチさんの言う通り、そんなに魔力をないのを気にすることはないよ。まだ原因は解明されていないけど、魔力を持って生まれなかった者は他にも存在する」
ギルはそっとケンジの肩に手を置き、ケンジに話しかける。
「それに魔力がなくたって凄い偉業を成し遂げた人だって歴史上いるぞ」
「そうなの?」
「あぁ。例えばかつて七星剣と呼ばれた英雄の一人、勇者『アルバトロス』。彼は魔力がない分、自分で色々と工夫をしてモンスターと戦ってきた。それこそ魔力を持つ俺たちでは考えつかないような方法でね」
「僕もなれるかな?勇者に」
「勿論さ!」
「うん。ありがとうギルお兄ちゃん!」
その後、意外にも俺はギルの話す貴重な聖騎士団での冒険話で盛り上がり、気づけばもう外は茜色に染まっていた。
「さて、そろそろ俺は失礼しますね」
「えっ、ギルお兄ちゃん帰っちゃうの?」
「もう外は暗いぞ?部屋も余ってるし泊まってきゃいいのに」
「いえ。向こうにまだ沢山仕事も残していますので」
「楽じゃねぇんだな、副隊長も」
俺は玄関まで青年を見送る。
「本当はポチさんを是非、聖騎士団にスカウトでもしようかと思って来たんですがね」
「生憎、興味ない」
「はは、こんな森の奥に住んでいるぐらいですからそう言われんじゃないかと思っていました」
脱いだ鉄靴を履き直し、立ち上がるギル。
「ハーブティーごちそうさまでした。もし、帝国いらっしゃることがありましたら俺でよければ案内しますよ」
青年が別れにと手を差し出してきた。
「おう、じゃあその時は美人なお姉さんがいるところでも紹介してもらおうかな?」
青年と握手を交わそうとしたその時。
『怪しいヤツ。ギルに触るな!』
突然俺の指は静電気が走ったかのように痺れて弾かれる。
「いてっ!」
「だ、大丈夫ですか!」
突然、意志を持つかのようにギルの身に付けている十字架のネックレスがふわりと浮く。
「あ、アクセサリーが喋った?!」
「うわぁー!すごいや」
「こ、コラ!ウィル!いきなりポチさんになんてことをするんだ!」
ギルにウィルと呼ばれたネックレスから発せらた声はまだ幼そうな女の子が聞こえた。
『だってギル!こいつ、人間の姿をしてるのにモンスター臭が凄いするんだもん!』
ギクッ。
『それに下水道のこびりついたヘドロと意地悪な悪魔のゲロを混ぜたみたいなこの不快な臭い…。低級のスライムみたいだな』
ギクギクッ!!
グハッ!グサリッとジャックナイフのように鋭い幼女の言葉が俺の胸と心を突き刺す。
全国にいるお父さんが娘に『パパ、加齢臭臭い』とか言われた気分ってこんな気分なのかな?
『これじゃあ、まるで人間の皮膚を被った化け物みたい』
俺は次々と正体をネックレスに言い当てられ体を強張らせたいたその時、黙っていたギルがついにキレる。
「ウィル!いい加減にしろ!」
『うっ……』
ネックレスから聞こえる女の子の声もギルに怒鳴られ、声を詰まらせた。
「ポチさんが化け物?そんなわけないだろ!」
ごめん、青年ちょっとだけそのネックレスが言ってることは当たってるわ。
俺の良心が痛む。
「大体、もし人間に変身するなんてスライムなんていたら頃帝国の研究所にでも捕まってバラバラに解剖されているぞ」
「ば、バラバラに解剖ッ!?」
えっ!?なにそれ、怖い!!
『だ、だって』
「だってじゃない!」
うわぁ……!絶対バレるわけにはいかなくなった。
バレた瞬間、俺は直行の帝国の研究所行きの便、決定だ。
俺の背すじに嫌な冷や汗が流れた。
「謝りなさい、ポチさんに。今すぐ」
俺が横で真っ青な顔になっていることも知らず、ギルはまるで悪いことをした子供を叱りつける母みたいにギルはネックレスを怒っていた。
『やだやだ!!ウィル、別に悪くないもん!ギルのわからず屋、もう知らない!』
『べー、だ!』そう言い捨てるとネックレスは力を失ったように浮遊を止めた。「こら、ウィル!」とギルは何度も呼びかけるがネックレスは答えない。どうやら、完全にヘソを曲げてしまったようだ。
『――まったく『べー』って……。お前、一体いくつなんだよ……』
「す、すみません。ポチさん、こいつは俺の従獣魔のウィルと言って口は悪くて我が儘ですけど根は本当はいい奴なんです」
んまぁ、それぐらいは別に気にせんが…。
俺は十字架のネックレスに目を向ける。
「そのネックレスは青年の従獣魔なの?」
「はい。いつもはスキルである【武器化】で大人しくさせてはいるんですが、何故か今日は過敏に反応してしまって……」
ギルは眉を曲げ、困った風にネックレスを見つめる。
「へ、へぇ~。そうなんだ……」
俺はそう言いながら目を反らす。
100%俺の匂いのせいだ。
「ウィルには後でキツく言っておきますので」
「あぁ。それじゃな」
「はい、失礼します」
「バイバイ!ギルお兄ちゃんー!」
馬に乗って草原の彼方へ去っていくギルの背中にケンジは元気よく手を振る。
そして俺はその日の風呂は念入りに体の隅々まで洗った。
そりゃ、流石にあそこまで幼女の声で罵られれば俺でも凹むわ。




