第三十五話 謎の男
ケルン商会の積荷を商人を守り、無事にアルニカ帝国まで送り届けるのが今回聖騎士団が引き受けた護衛任務だった。ケルン商会は古くからのアルニカ帝国の商売相手であり信頼も厚く、今回の積荷の護衛も是非にと聖騎士団を指名してきたのである。そして、その任務に派遣されたのがギルたち三人の騎士であった。
「くっ……!」
だが、運の悪いことに小爪竜の群れに出会してしまい今の現場にいたっていた。小爪竜はモンスターの中では小型のモンスターに入るが小さいその体を上手く生かして群れで狩りをし、人間の物を盗んだりをする悪い習性もある。どうやら、小爪竜たちに目をつけられたらしく、鋭い牙と爪を用いて小爪竜は邪魔をしてくるギルたちを排除しようと襲いかかる。
「はぁっ!」
ギルは剣の刃でなんとか小爪竜たちの攻撃を跳ね返すが、体力は徐々に削られていく。
「ギル副隊長ッ~!こいら数が多すぎるのだぉー!」
獣人族であり犬獣の力を宿した彼女、ラブリーも自慢の運動神経を利用して軽い身のこなしで兎のように縦横無尽に飛び回り小爪竜たちを翻弄し、短剣で切りつけて片付けていく。だが、倒しても倒してもわらわらと湧いて出てくるにラブリーも苦戦している。
「このままじゃらちが明かないぞ!」
巨大な体をしたローガンも小爪竜を鷲掴みにし、地面にと叩きつける。その間にギルは必死になって脳をフル回転させ考える。
『どうする?雷属性の極大魔法でも発動するか……?いや、ダメだ!後ろの馬車にいる商人や積荷にも被害が及ぶかもしれない』
ちらりと後ろの馬車の様子を見るが商人たちは恐怖に怯えていた目をしていた。その姿を見たギルは己を奮い立たせる。
「ラブリー、ローガン!積荷を守ることより人命の方を優先しろ!!彼等には怪我一つさせず職務を全うし、無事に最後の最後まで諦めずアルニカ帝国まで送り届けるぞ!我ら聖騎士団の名にかけて!」
「ラジャー!」
「了解した」
己に下った使命を果たすため小爪竜の群れに立ち向かうローガンとラブリー。
「はぁあああっ!!!」
ローガンとラブリーと共にギルも諦めず小爪竜に剣を振りかざす。暫く小爪竜と剣を交えている内にラブリーが何かの音を拾う。
「待って!ギル副隊長!」
「ラブリー、どうしたんだ!?」
「何かが近づいてくる……!聞いたこともない音なんだぉ!」
ぴんっと犬耳を立て近づいてくる謎の音に耳を傾けるラブリー。
『くそ!新手のモンスターか何かかッ!?』
こんな時に!っとギルは歯を食い縛る。ラブリーが音が聞こえると言う方角に目を向けると物凄いスピードで何かが此方に近づいてきた。しかし、それはモンスターではなく人間の姿であった。
「な、何なんだ!?あれは!」
「凄いよ!あの人、鉄の馬に乗ってるんだお!!」
見たことのない乗り物、鉄の馬を乗りこなした男がまたスピードを速め小爪竜たちの群れに突っ込んでいく。風の膜みたいなのを纏いて小爪竜たちを弾き飛ばし蹴散らす。
「俺たちを……助けてくれているのか?」
次々と吹き飛ばされた小爪竜たちは悲鳴を上げる。ギルは颯爽と現れた謎の男の顔を見るがゴーグルと兜で隠されており正体は分からなかった。
『おい!お前ら取り合えず全員、目と鼻を隠してろ!!』
突然三人の頭の中に声が語りかけてくる。
「な、なんだ!?頭に声が直接聞こえてくる……!」
「だぉん!」
「これは【念話】か……!」
ギルは謎の男の姿を見つめる。先程聞こえた声に悪意は感じられなかった。ギルは男の言葉を信じ、賭けてみることにした。そして、部下や商人たちにも聞こえるよう大声で叫ぶ。
「皆ぁー!!目と鼻を隠すんだ!早くっ!!」
素直に皆副隊長のギルの指示に従い、目を閉じて鼻を肘で覆った。するともくもくと赤い煙が積荷を取り囲む。
「けほぉ!ごほぉっ……!!ううっー!もしかしてこの目の痛くなる感じと臭っい匂いって……まさか苦苦草と涙腺草ッ……!?げぇほぉ」
ラブリーは人間より感覚器官が鋭いためよりギルたちよりダメージがでかかった。
「げぇほっ……!だが、見ろ!小爪竜たちも積荷からどんどん離れてく!」
ギルが指差す先には小爪竜たちが苦苦草の特有の臭さがあるエキスが濃縮された煙に堪らず、積荷の傍から離れていく。信じられないといった様子にギルは煙の先にいるはずの男を黙って見る。
この短い時間であっという間に形勢を逆転してしまった男の背中姿を。




