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第二十三話 村での異変

 始まりの村に行ってから一週間経ち、あれから何事もなく俺たちは平和に静かに森で暮らしていた。今日は俺はケンジとキーちゃんとバニーちゃんとその子供たちで森の湖に俺が朝早く起きて作った岩石怪鳥(ロックバード)の肉をたっぷりと使ったお弁当を持ってピクニックをしていた。


 空は雲一つないくらい晴れきっており、出かけないと勿体ないぐらいだ。子供たちはキーちゃんと追いかけっこしている。バニーちゃんは日頃の育児に疲れているのか俺の隣でのんびりと鼻ちょうちんを浮かべながらお昼寝をしている。


 『和むわー……』


 スライム姿で俺もぼっーとして只目の前に広がる湖を眺めていると、後ろの草むらからガサガサと音が鳴る。


 「はぁ、はぁ……!!」


 草むらから出てきたのは悪ガキの内の一人、ティプだった。ティプの顔は所々草で切ったのかすり傷で血が滲み出ており、足は必死に森の中を駆け回ったせいで泥で汚れている。あの生意気そうにつりたっていた茶色い瞳も今日は涙を溜めており今にでも泣き出してしまいそうな感じであった。


 突然茂みから現れたティプに驚いたのか牙を向け威嚇するバニーちゃん。ティプもまさかこんなところにこの森のエリアボスがいるとは思ってなかったのか「ひっ……!」と大きな体のバニーちゃんに怯える。


 『わぁー!バニーちゃん待った!!』


 『これ、一応俺の知り合いだから!』とバニーちゃんに伝えるとバニーちゃんも大人しく牙をしまう。こっちに異変に気づいたケンジが走って向かってくる。


 「あ、あれ……?君は……」

 「お、お前!その声、もしかして……!」


 すっかり綺麗になったケンジの姿を見てびっくりするティプ。


 「よ、良かった!俺、お前を探してたんだ!」

 「ぼ、僕を?」

 「お前の従獣魔……!あの凄い強いスライムを俺に貸してくれ!!」

 「え、ポチを!」

 『俺を?』


 突然のことにびっくりするが俺たち。いったいどういうことだ??


 「村の近くに……!悪食豚頭(オーク)の群れが出たんだ!父ちゃんも村の男の人たちと一緒に退治に行ったけど、今ヤバいらしくて……」


 ティプの話しを聞くとどうやら悪食豚頭(オーク)とは豚の頭と人間に近い体を持っており、その名の通り悪食で人や動物なんでも骨ごと食べ尽くすたちの悪いモンスターらしく特に好みは肉が柔らかい女子供で、よく色んな村で悪食豚頭(オーク)によって女子供が拐われるという被害も起きているらしい。

 群れで行動し、繁殖力もあり近くに食べるものがなければ禁断症状みたいなのを起し、見境なく共食をし始めるという恐ろしいモンスターの一種で、ティプの話ではその群れが現在、この村にへと向かっていきて進行してきているらしいということだった。


 退治にいったはずの父も村の男たちも帰ってこない。ティプは居ても立ってもいられずこの前、見事に三体の従獣魔に勝った俺に力を見込んで力を借りに来たらしい。

 「お、お前の従獣魔強いだろ!だからそれで父ちゃんを助けに行きたいんだ!」というティプ。うん、父ちゃん思いでそれは結構なことだ……。


 ―――だが、俺は直ぐにぷいっと顔を反らす。


 『俺は嫌だからな。俺はお前の従獣魔のだし』


 そう俺はケンジだから従獣魔になってもいいかと思ったのだ。それを勘違いしてしまっては困る。それに俺はペットとかとは違うだからな。


 ケンジは俺が素直に嫌がっていることをティプに伝えると「はぁ?従獣魔が嫌だってそう言ってる??馬鹿じゃねの!モンスターの従獣魔が喋るはずないだろ!」と怒り始めてしまった。このままケンジが話してもらちが明かないなと思い、俺はこいつに念話で自分の意思を伝えることにした。


 『おい、糞ガキ』

 「えっ……?今、声が聞こえたような……」

 『前だ、前』


 恐る恐るといった様子で下にいる俺を見るティプ。俺は『よっ』と軽い感じで挨拶するとまるで恐ろしい化け者をみたかのように「うわぁぁああ! スライムが喋った!!」と叫び凄まじい速さで後ろへ飛び退いていくティプ。

 こりゃ、俺がゴキ⚫リを見つけてしまった時の反応より酷いなぁ…。


 『ティプ、よく聞け。悪いが俺はお前に力は貸せない』

 「な、なんで!?」


 俺の話に食らいつくようにティプは噛みつく。

 『俺はケンだから力を貸そうと思い、従獣魔の契約を交わしたんだ。誰でもいいって訳じゃないし、ましてや自分の相棒である従獣魔を貸し借りなんてもってのほかだ。ティプ、モンスターの従獣魔だってな生き物なんだ。どんなモンスターにだってちゃんと心があるだよ』

 「でも、でも__!!」


 「それじゃ、父ちゃんがっ……!」っと、どうしても諦めてないといった悲痛な声を出すティプ。だが俺もこの信念だけは譲れなかった。


 『ティプ、俺の主はケンだけだ。お前にはついていかない』

 「~~っ!!」


 声にならない悲鳴をあげるティプ。「もういい!!」そう叫ぶとティプは村の方へと走り去っていってしまった。

 「あっ……」とケンジは走り去ったティプの後ろ姿を見つめ、何か言いたげそうに俺を見る。


 『何か言いたげそうだな、ケン?』

 「いや……。なんか、ポチらしくないなぁーって思って…」

 『そんなことねぇよ。これはちゃんと従獣魔になってから決めてたことだ。俺はお前の言うことしか聞かねぇよ』


 「そっか……」けれど、どこかやはり浮かない顔をしているケンジ。俺は『はぁー……』と溜息をつき、一言助言してやることにした。


 『あのな、ケン。俺が断ったのはあいつについていくことだ。別に村のことを助けるの自体を断ったわけじゃない』

 「えっ?」

 『さっきも言ったはずだ。お前の言うことなら聞いてやるってな……』


 本当はこいつが危険な目や面倒事に巻き込まれるのは嫌いなのだが、仕方ない。


 『俺はお前の従獣魔だ。どんな時だって、お前の一番の味方だ…。だからお前が決めろ。……お前はあんな村でも助けたいに行きたいと願うか?』


 「――行く!!僕、助けに行きたい!」


 なんの迷いもなく即決するケンジ。その青い瞳には憎しみの色などはなく純粋に困ってる人を助けたいと願う美しい光が宿っていた。

 俺は……、そんな優しい心の持主だからケンを俺は主として選んだんだ。

 俺はフッと心の中で笑う。


 『それじゃ、いっちょ!始まりの村でも救いに行きますか!!』


 俺とケンジは悪食豚頭(オーク)が出たとティプが言っていた場所へと足を向けた。

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