第八章④
「白崖海賊団の保有資産、金銀財宝の五割、総額リモーネ金貨二千枚もの大金を手に入れられてしまっては、一生真面目に働く気も起きなくなってしまうでしょう」
「二千枚にもなりましたか」
クラインは、リモーネ金貨二千枚もの金額を聞いて思わず感嘆した。都市の商人や内陸部を行商する商人に比べれば扱う金額の量が多い貿易商人と言えど、一回で金貨二千枚も稼ぐことのできる商人は相対的に見て少ない。
「あの独房での取引が、まさかこんな利益につながるとは」
「本当ですよ。本来なら、丸々、我々国軍の臨時収入につながったものが、半分も持って行かれるのですから、嘆かわしい事です」
アルメンダリスはさもわざとらしく悲しむ演技をしていたが、その泣いている演技は明らかに演技とは言えない程、笑っていた。まるで、それくらい、どうという事は無い、と表現しているかのように。
あの独房で、クラインがアルメンダリスに、「もし海賊の首領を捕らえるか、殺すことができたら」どうして欲しい、と頼んだ内容が「成功した場合、海賊の財産の半分を成功報酬としてクラインに譲り渡す」と言うものだったのだ。
それで見事にクライン達はウルバーノを倒し、海賊の財産の半分を受け取ることができる、というわけだ。
「奴らがどっかの植民地から奪っていった、金や銀で出来た調度品、偶像、宝石の装飾品……それら全てで金貨二千枚です。勿論、この町での買い取り価格ですが」
「なら、何処か別の都市で売った方が儲けられますね」
金や銀はやはり、植民都市や辺境で売るよりも、西方の大都市で売った方がやはり高値がつく。貴金属ばかり集めたがる富豪や貴族が、こぞって高価格で買ってくれるからだ。
「そうですか。……というと、この後は本国にお戻りになられるので?」
「いえ……」
普通ならば、すぐにリシュボアに戻り、これらを売りさばいた後、またガーボヴェルディを経由してシンドへ向かうだろう。しかし、クラインには一つの考えがあり、一つの約束があるがために、西方へ戻ることは無いと断言できる。
「これをシンドの国王に持って行き、献上品として使おうかと思っています。それならば無駄にはなりませんし、今後の利益を考えてみても、リシュボアで売る以上の利益が得られますし」
「なるほど。それは盲点でした。いやはや、やはり専業の商人は考え方から違いますな」
アルメンダリスは、ほう、と深いため息をつき、納得した表情をした。専業商人ではないアルメンダリスが商人としての仕事だけでもクラインよりも高い地位について高い収入を得ているのに、考え方が違うはずがない。
大方、クラインがそう答えることを予測していたのだろう。商人が相手商人と話して本音を言う確率なぞ、道を歩いていて金鉱石を見つけた、という偶然に等しい。
だからこそ、商人の本音は嘘に織り交ぜることで相手を操ることができる。
「それに」
「それに?」
クラインはまだ酔っぱらって、顔を真っ赤にしているネウに目をやって、「約束」を実行するための嘘を言った。
「この娘の目的も果たさせるためにシンドへ向かう必要があります」
「おお、そうでしたね。確か、各国の歴史を学ぶため……でしたっけ?」
「そうです。特に、神話や伝承なんかを中心に」
ネウの身を守るための嘘であるとはいえ、ネウが平時の時にこんな嘘を並べると、ネウはにやにやと笑い、さて次はどんな嘘が口から出るのか、と言わんばかりの目でこちらを見やる。
だから、ネウが酔っぱらって思考がおぼつかないうちに、ある程度の設定は作っておく必要がある。
その考えを元に、クラインはアルメンダリスに聞き込みをした。古今東西の書物に名を残す、「聖人」コンラルトだ。シンドや南方大陸にまで行っているとは考えづらいが、わずかでも伝わっている可能性を求め、聞いてみる価値はある。
「何か少しでも知っていれば、教えていただけると嬉しいのですが」
「んー、そうですねえ。…………ああ、有りましたよ、面白そうなものが」
「! して、何でしょう」
思わぬ収穫だ。クラインは身を乗り出して、続きを仰いだ。




