第八章②
市庁舎にポルトギア王国の軍旗が掲げられ、港に停泊していた二隻のうち一隻の海賊船が拿捕されると、やっとガーボヴェルディの街並みに明るさが戻った。
問題は、一隻とらえ損ねた船だが、もう武装は無いに等しく、放っておいてもいずれはどこかの港で捕まえることができる、というのが、ディオーネ商会商人兼ガーボヴェルディ守備隊長であるアルメンダリスの結論だった。重要なのは、幹部が居て、麻薬や奴隷を積んだもう一隻の、拿捕できた船の方だったのだ。
辺りでは海賊に壊された建物が再建される鎚の音が響き、朝早くから早速小舟を出して漁業に従事し始める人々も出てきた。
恐らく、ガーボヴェルディの主な産業であった、塩とカカオの貿易が再開されるまでにはまだ時間がかかるだろうが、本国から木材などの物資を送ってくる船舶が着くまでには、以前のにぎやかさは取り戻せるだろう。
アルメンダリスは、爽やかな海風を感じながら、クラインの質問に答えた。
「先程の質問ですが、白崖……つまりアルビオンの私掠海賊でしたよ」
「アルビオン王国ですか」
アルビオン王国はポルトギアよりもさらに北の寒い海に浮かぶ島国で、ポルトギアが海外事業を始めて以来、長らく、陰でポルトギア王国と水面下の争いを繰り広げてきた国だ。
私掠海賊、というこちらとしては非常に厄介な制度を始めに考え出したのが、この王国なのだ。近年はさらに私掠海賊を活発化させ、ポルトギアの富をいかにして奪うかと画策している。
「厄介ですね」
「本当にそうです。まあ、今回のこの一件で、一つ海賊団は潰せましたし、この海域はしばらくの間、海賊行為は収まるんじゃないか、と思っています」
アルメンダリスは、はるか遠くにある水平線を眺めながら、これからの海賊の事を語った。
「それでも、防衛は怠らないようにして下さいね。防衛をおろそかにしている危ない都市ほど、商人は近づこうとしませんから」
「肝に銘じます」
クラインが一言付け加えると、アルメンダリスはわずかに口を歪ませた。事実、帝国から多大な庇護を受けている都市や宗教都市でもない限り、防衛をおろそかにしている都市はどうぞ攻め込んでくださいと言っているようなものなのだから、誰もそこで商売しようとは思わないだろう。どんなに小さな村でも、用心棒が数人はいる。
「そういえば、ネウさんとライサさんは?」
「ああ、ネウとライサなら、今頃きっとお腹をパンパンに膨らませていますよ」
「というと?」
クラインがにやりと口を引きながらアルメンダリスに笑いかけると、市場の奥から、ネウとライサが仲良く手を握って、空いた片方の手にはそれぞれ鳥の串焼きと魚の串焼きを持って、並んで歩いてきた。二人が歩く姿は、背の差と仲の良さから、一見するとまるで姉妹の様にも見えた。




