第五章⑬
ならば、とさらに強く鉈で切り付ける。先程よりも強く、より正確に錠前のある場所を狙って。
すると、あれだけ押しても引いてもびくともしなかった扉に変化が起きた。扉の外で、何か鉄製の重たい物が落ちるような音がたったのだ。どうやら、錠前は扉から外れ、床に落ちたようだ。
「よし」
クラインは鉈を左手に持ち替え、扉を押した。押された扉はなんの造作もなく開き、通路と独房を一つの空間にした。
一歩前に出て、通路に首だけを出すようにして周囲に誰か人間がいないかを確認する。半地下の通路はしんと静まり返っていて、新月の夜を思わせる程に暗い。空気は湿気を帯びていて、何処か洞窟のような冷たいカビ臭さがクラインの鼻をつく。
「左か」
アルメンダリスの情報に基づき、ライサとネウを解放するべく、通路を左側を見やった。
壁にはかなり遠い間隔で松明が掲げられている。だからだろうか、ぽつぽつと細い通路を照らすその松明は見様によっては暗闇に不気味に浮かぶ火の玉のようにも見える。
足を一歩だけ踏み出してみると、右足にのしかかる自分の体重が、これから自分のすべきこと、果たさねばならない目的への想いを改めて思い返させてくれた。
そうして、ネウとライサを助け出す、と覚悟を決めてまた一歩、足を踏み出した矢先の出来事だった。
ぐちゃ、と実に気味の悪い、聞くに堪えない音が、それと同時にぽきりと何か木の枝のようなものが折れるような、聞いていて決して気持ちの良くなるようなものでは無い音が足元から発せられた。
初めの一瞬は誤ってネズミでも踏んでしまったか、とさして気には留めなかったが、次第に自分はいったい何を踏んだのかが気になって、近くにかけられていた松明を手に取り、足元を照らした。松明が照らし出す石畳の床。そこには。
「人間の……死体、か?」
無残にも体の至る所から骨が突き出て、胴体からは内臓がはみ出し、皮膚が破けて肉がこぼれている。
今や語らぬその死体は、哀れさと悲惨さを物語り、かつては喜怒哀楽と豊かな表情をたたえていただろうその残骸の表情にふさわしい、ビリビリに破れた血染めの死に装束を体にまとっている。
あえて「着ていた」とは言うまい。そしてこれが、クラインの確固たる意志を阻害する結果を生み出したわけでもない。ただ、これからだ、と覚悟を決めていたクラインには、この演出は少々出来すぎたようだ。
これが、死んだあと何年も放置されて白骨死体同然になったものであれば、クラインもここまでの恐怖を覚えることは無かっただろう。
春休みなんて無かった




