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二十二話 二章:その四 臨時文化祭『闘技会』 前編

前回までの『おれ天』!!

ノープロブレム!

 カレンダーによると、今日は8月の18日らしい。

 つまりは夏休みに入って2週間半が過ぎ去ったわけで。

 1日中家に引き篭もってゲームをしていた俺にとっちゃあ、あっという間にこの日を迎えてしまった。

 そう、今日は学生たちの解放感を台無しにする『登校日』だ。

 本来なら休みの間に生徒たちが羽目を外し過ぎないように監視する目的で設けられるこの『登校日』だが、俺たちにとって、いやこの学校にとっての、今年の『登校日』は少し毛色の違った代物になっていた。



「カナフさんや。俺たち、道を間違えたわけじゃあないよな……」


「ああ、…………もちろんだ」


「じゃあ、ありゃ何だ?」


「さぁ…………?」


 通学路を歩ききった俺たちの眼前にあったのは、3か月通って2週間半ぶりに行くことになった馴染み深い校舎ではなかった。

 一言で言うのなら、イタリアにあるコロッセオ。

 新品ピカピカの鉄筋コンクリートで構築された、間違いなく世界で最新鋭の『闘技場』に変わっていた。

 コロッセオという概念が今にも崩壊しそうな大型建造物に固まっているせいで、目の前にある現代化された新品のものを見ていると軽く酔ってきそうな気分になるが、それはきっと別のところからきているもんだと信じたい。


 とはいえ、こんなところで呆けているわけにもいかない。

 恐る恐る俺はカナフと校門をくぐり自分たちの教室に向かう。

 コロッセオの内装は、見回す限りサッカースタジアムと似たようなところ。

 なので、建物内の地図は所々においてあったおかげもあって、特に苦労はなく教室に到着できた。


「浮いてる生徒がいると思ったら、お前たちカ…………」


 聞き覚えのある声に引き留められて振り返る。

 小鳥遊ヴァリだった。

 ことあるごとに散々な目に合っている彼女だが、今日の彼女はいつもに増して憔悴しきっている。

 今にも死にそうな、いやさながら歩く死体そのものだった。


「そういう君は随分とお疲れだな。キャラが崩れてるぞ」


「もうそこは諦めているところダ。とっとと行けヨ」


「また何か企んでいるんじゃあないだろうな、小鳥遊ヴァリ?」


「んにゃ、何にモ。これから何が起きようとも、元凶はあたしじゃあなイ」


 カナフにガン飛ばされたせいなのか、ヴァリは重い足を引きずって去っていった。

 彼女の背中を目で追ってから気づいたことなんだが、周りの生徒たち、つまり『シナリオ』に設定された存在である人間たちは、この状況に何にも疑問がないように自然なふるまいをしていた。

 ものの3週間弱で校舎がどでかい近代的なコロッセオになったことに混乱もなく、普通に初めて訪れた施設を歩くように地図で自分の教室を確認して、別に気にすることは何もないと言うようにスムーズに自分の席に座って友達と楽しい会話をしている。


『元凶はあたしじゃあなイ』


 と。ヴァリが言っていたように、彼女よりも大きい何者かの仕業で間違いないだろう。


「そう言えば、カナフさん。ヴァリは底辺の天使だって言ってたね」


「そうだな。この前テトが恥ずかしいコスプレをする羽目になったのはあの小鳥遊ヴァリのせいだし、そうするための道具を与えたのは神……、去年お前に『神』を押し付けられたあの男だ」


「でも、神って意外と忙しいからなー。こんなピンポイントで手の込んだことできるのかね?」


「誰かさんみたいにサボらなきゃできるんじゃあないのか? 新任の神様は勤勉みたいだな、誰かさんとは違って」


「な、ナンノコトカナー」


 ギロリと睨むカナフ。

 俺は咄嗟に片言になった。


 そんなこんなでようやく教室にたどり着く。

 そのころにはもうほとんどの生徒が着席していて、結果的に空いている席が俺たちの座席と分かった。


「二人とも、遅刻よ。お楽しみ続きの夏休みだからって自堕落をしろってわけじゃあないのよ。もっとしゃんとしないと」


 前に立つ担任教師、以前俺を拉致監禁した天使セリーナがくどくどと文句を言っている。

 カナフとナットに敗北を喫した彼女はそのまま天界へ強制送還される予定だったが、俺の気まぐれで残すことにした。

 なんで天界へ帰してはならないと思ったのかは覚えていないが、とりあえず「美人だから」と言って二人にゴミを見るような目をされたことだけ言っておきたい。


「えーと、みんな学校からの通知が来ているから知っているだろうと思うけれど、例年秋にやる予定だった『文化祭』を取りやめて、登校日である今日に『闘技会』? をやることになりました」


 教室がざわつく。

 だが、そのどれも「なぜそうなったか」ではなくて、「文化祭楽しみだったのに」や「『闘技会』って何やんだ?」といったものだった。


「しーずーかーにー! 自分たちで騒いだってなんにも分かんないでしょ。これから新任の理事長のあいさつがあるから、そこで説明してくれるんだって。黙って聞いてるのよー」


 セリーナは教師らしく、投射用のスクリーンを降ろしながらそう言った。

 天使な手前、慣れない機械の扱いをそれに詳しい生徒に力を借りながら、なんとか準備を整えると、ちょうどよく新しい理事長らしい男の姿が映し出された。

 映ったのは中年の男。

 ただの中年じゃあない。その男は、背が高く、筋骨隆々で、快活な笑顔とハキハキとした活舌の良い大声で武装した、ザ・カーストの上位に君臨するような中年の大男だった。


『やあやあ、皆さん。初めまして。私が、新しい理事長です。この度、急な校舎改築と『闘技会』の開催で混乱を招いてしまったことは申し訳なく思っております。

風の噂で文化祭が行われないという不届き者がいるようですが、それは関係ありません。この『闘技会』はいわばデモンストレーション、お試し運用というやつです…………』


 教室の目線がセリーナに集中する。

 そうだよな、通知には『臨時文化祭』って書いてあったもんな。そうなっても仕方がない。

 でも、視線から逃げるように教卓にしゃがんで隠れるなんちゃって完璧美人というのはなんかこう、推せるところがある。


『というわけで、今回は短縮版ですので参加するメンバーはこちらで決めました。各クラスから男女一人ずつを選抜、それ以外の生徒は帰っても良し、応援しても良し、代表者が優勝した暁には「そのクラスの要望に学校側が絶対に一つ叶える」ことを約束しましょう。振るって参加してくださいねー!』


 理事長はガハハと笑ってスクリーンから姿を消した。

 そして、その後に発表された代表者には、俺とカナフ、教職員代表としてセリーナの名前も載っていた。


「おいッ! なんでモヤシ野郎が俺たちの代表なんだッ! 俺は認めねぇからな!」

「カナフお姉様が出場されるのね! 親衛隊総出で応援させていただきますわ、ゴミムシなんて捨て置いておきましょう!」

「俺たちは可愛いセリーナちゃんを応援するぜ! 何? そこのモヤシ野郎? どうせ初戦で敗退だろ、見るだけ損だぜ。セリーナちゃーん、頑張ってー!」


 教室は『闘技会』に歓迎的だった。

 俺の扱いに関してはいつもの通りだし、特に気にしてない。

 いや、マジだから。流れてんのは目汁だから。






 気を取り直して、場所は代表生徒の控室に移動する。

 控室の雰囲気はさながらプロスポーツのロッカールームといったところ。

 当然男女は分けられていて、みんな黙々と制服から運動着に着替えてストレッチなりクラスからの応援動画を見るなりして英気を養っている。

 学校中からの嫌われ者の俺だが、選出されたのは血の気の多い連中じゃあなかったのでちょこっと睨まれるだけで、絡んでくるような奴はいなかった。

 何が言いたいかって言うと、暇ということだ。

 腐っても元神の俺には準備体操は必要ないし、こうして絡まれないで放っておかれると手持ち無沙汰になって寂しい気持ちになる。配慮してくれるのも嬉しいが、もう少し考えて欲しかったもんだ。

 そんな時に扉から、


「テト、少し良いカ?」


 と。聞き慣れた鼻声が通った。


「ヴァリじゃん。どうした?」


「ブビャッハァ!」


 俺が腹を掻きながら扉を開いた瞬間、ヴァリは鼻血とカエルをすりつぶしたような声を出して仰け反った。


「うわッ、いきなりなんだよ。汚ったねぇな!」


 血が噴き出る鼻を抑えて余計に鼻声になったヴァリは答える。


「いきなりなんだ、とはこっちの台詞ダ。割れた腹筋をチラ見せしながら掻きやがっテ……。お前たち男子のシックスパックがどれだけの魔物か知らないとは言わせないゾ。そいつは全ての女子たちがときめく花園。それを何食わぬ顔でやってのける細マッチョ男子は我々の強敵なのダ…………」


「別に良いさ、そんな御託」


 ヴァリの鼻血が落ち着くまで少し待って、


「んで、何の用? 君だって代表なんだろ、自分のことは良いの?」


「あたしのことはどうでも良いんダ。早く来イ」


「なんで?」


「何でもダ。早くしろ、お待たせするとマズイ」


彼女がそう言うと、俺の手を掴んで控室から連れ出した。


ヴァリに任せるままたどり着いたのは、控室から最寄の男子トイレだった。


「この中ダ、早く行けヨ。モタモタシテいるとあたしが後で怒られル」


 押し込められるように中へ。

 すると、そこには一際大きい男の影があった。


「いやぁ、久しぶりですねぇ。貴方に会えるのを待ち望んでましたよ」


 そこにいたのは中年の男。

 背が高く、筋骨隆々で、快活な笑顔とハキハキとした活舌の良い大声で武装した、ザ・カーストの上位に君臨するような中年の大男だった。

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