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二十一話 二章:その四 夢から覚めなかった神様 終編

前回の『おれ天』!!

スーパーヒーローの常識

 夏休み二日目。

 あたしとナリ、ブーリの三人は神様の命令に従って不眠不休の作業にあたっていた。


「ハッ……! 寝てタッ!」


 嘘だ。

 だって考えてみて欲しい。睡眠時間を極限まで削った期末試験を乗り越えて、最後の力を振り絞るつもりで宴を敢行した人間が、二日連続の徹夜をできるわけがない。

 逆に一回でも徹夜の成功したことを誉めて欲しいくらいだ。


『この紙を一時も離してはいけませんよ。これは下書き用ですから、管理者から離れれば勝手に『シナリオ』が進みます。もしも私の不利益になるような結果になったら……、分かりますね』


 でも、都合悪いことはすぐに思い出すもんで。

 マズいな。まだ余裕のあった原稿用紙も気づけば十枚くらいしかないじゃあないか。

 恐る恐る内容を確認してみると、


「なんだ、こレ?」


 テトが、ヒーローになってた。

 素っ頓狂な『シナリオ』によると、こうなっている。


『超人的な能力を持っていながら自堕落な生活をしていたテトは、ある日勾留所を抜け出した際に半魚人の怪物・『深き者ども』と遭遇してしまう。街の人々を恐怖させていたこの怪物をテトはらくらく蹴散らし、人々に乗せられて街を守るスーパーヒーローへと変身を遂げたのだった…………』


「駄作、だナ」


 もうn番煎じか分からないほど使いまわされた設定と自動的に紡がれた稚拙な文章は退屈そのものだった。

 全部読み切ったあたしを誉めてくれ、と言いたいほど。

 あと十枚じゃあ軌道修正もできないしな。

 今後のことを相談するべく、まだ寝こけている二人を起こそうとした瞬間、


 ポーン

 と。玄関が来客を告げた。

 時刻は午前の7時。

 夏休みとはいえ平日のこの時間に宅配が来るわけがないし、友達も来るはずがない。

 そうだ。メンド臭いなら居留守を使おう。たっぷり寝たから今日にあたしは冴えてるぞ。


 ポーン

 ポーン

 ポーン

 ポーン


「むにゃ、誰だよぉ。こんな時間に……。はいはい、どちら様ですかー?」


 インターホンの連打に起こされたナリが寝惚けたまま出ようする。


「待て待て待て待テッ! ナリ、時間を考えロ。こんな朝早く来るのは厄介ごとなのが常識なんだ」


「でもヴァリちゃん、毎朝新聞楽しみにしてるじゃん」


「新聞は良いんだヨ。居留守ってことで無視しろって言ってんだヨ」


「今留守にしてまーす! ごめんね、お客さん!」


 ナリとわちゃわちゃしてる間に、案の定寝惚けたブーリもいらないことを叫んだ。


「うおおおおイッ! 何しようとしてんだ、お前たチッ! あれカ? 新手の嫌がらせか、こレ?」


 ナリを羽交い絞めにして、這って玄関に行こうとするブーリの首を伸ばした足首でせき止める。

 運動神経の悪いあたしだが、よくもまぁこんな曲芸ができなもんだ。

 でも、こんだけ玄関の前で騒いでいれば居留守を使えるわけもなく。事情を察したのか客はインターホンを押さなくなった。

 楽天家のあたしも流石に帰ったとは思わなかったが、


 ベギョリ


 と。玄関のドアノブが曲がった瞬間、あたしたちはすべてを察した。

 ナリとブーリはその衝撃で完全に覚醒して、あたしはこれから起こるであろう惨劇を覚悟した。


 キイィィィ


 ゆっくりと扉が開く。

 実際はゆっくりじゃあなくて、極限状態のあたしが勝手にそう感じたのかもしれないが、扉はそれでもかというくらい時間をかけて、ゆっくりとドアノブを破壊した怪力の持ち主の姿を露にした。


 現れたのは燃えるような赤髪に程よくついた筋肉を持った女、


「邪魔するぞ。小鳥遊ヴァリ」


 カナフ・バックドラフトだった。






 *

「つまり、今回もまたお前たちの仕業だったというわけか…………」


「はイ。そうでフ」


 数分もしないで、あたしたちは捕まった。

 ナリとブーリはショックで気絶したままだし、何故かあたしだけタコ殴りにされて麻縄で縛られてる。

 腫れた頬のせいで鼻声と口足らずのダブルパンチ。縛られてる姿も相まって間抜けな感じだ。


「なんであたしだけ麻縄で縛られてるんダ?」


「私の趣味だ。気にするな」


 カナフはため息混じりでそう言った。

 何だよ、趣味って。

 あたしはてっきり『縛られる』方だと思ってたぞ。『縛る』のも好きだって初耳だ。

 あ。でも、MとSは表裏一体だって聞いたことあるな。まさか、『Mプレイを執拗に求め続けるSなM』だったのか。この変態め。


 勝手にドン引いているあたしを無視してカナフは続ける。


「この説明書によると、この中の『シナリオ』を上書きするためにはより高い権限を持つ天使が必要、というわけだな」


「そうだナ。説明書に書いてある通りの意味ダ」


「つまり?」


「? そのままの意味だガ…………。ヌギャア!」


 殴られた。

 惚けてもいないのに、真面目に言っていることが分からないから聞いただけなのに、殴られた。


「私はこういう文章は良く分からないのだ。これ以上殴られたくなかったら、素直に配慮して質問に答えろ」


 随分な暴君っぷりだな。

 テトがいなきゃこいつは暴走機関車だぞ。選ばせてくれるトロッコ問題の方がまだ人道的ってもんだ。


「あたしより大きな規模で『シナリオ』を担当している天使がいれば万事解決ってことだヨ。まぁ、これがきっと一番程度の低い『シナリオ』だろうから、大抵の奴なら解除できるゾ。でも、お前は無理ダ。煽りじゃあなく、単純に『シナリオ』を書いていないから、定義上あたしよりも格下ということになるからナ」


 あたしがそう言うと、カナフは少し考えた。


「カナフ・バックドラフト! 中身のない頭で考えてるふりなんかしてるんじゃあないぞ!」


「そうだ、そうだ! どうせ脳筋のお前には何もできないぞ、このスカポンタンめ!」


 目の覚めたナリとブーリが割って入ってくる。

 が、ギロリと殺意を向けられるや否や「ヒィ」と言って無残な姿のあたしの裏に隠れる始末。あまりの情けなさに涙が出てきそうだ。


「ふむ……。奴に借りを作るのは癪だが、これもテトのためだ…………」


「まさか、いるのカ?」


 『シナリオ』を書いている、というかテトの仕上げた『シナリオ』のアシストをしている天使といえば、働き詰めで引きこもりの変わり者が多いと聞く。そうやすやすと下界に降りるわけが―――――、


「おい、ナードッ! 出番だぞッ!」


 と。カナフが空に叫ぶと、ベランダに何かが振ってきた。

 着弾点となったベランダはもちろんのこと、窓や室内の家具たちは吹き飛んで、現れたのは何時ぞや遭遇したサイボーグだった。


「…………ホンマや」


 どこぞのコメディアンのギャグがあたしの口から漏れ出る。

 後ろにいた二人は泡を吹いて気絶している。忙しい奴らだな、ほんとに。


『君がクソヲタク(ナード)って呼ぶの、ボク許可してないんだけど』


「御託は良い。話を聞いていたのなら、早く自分の仕事をやれ。一刻も早くテトを開放しなくては…………」


『言われなくてもやるよ。役立たずの脳筋さんは下がってもらえます?』


 サイボーグはそう言うと、駄作が書く綴られた原稿用紙にその手を置いた。

 そして、数少ない天使にしか許されていない祝詞(のりと)を告げる。



『創造神テトより『創造』の力を賜った大天使ナターリヤ・ガブリエル・スカイネットが、ここに奉る。創造神テトの名の下に、偽りの青史に囚われた魂を解放することを命ず。

 重ねて奉る。創造神テトの名の下に、ここに綴られた青史の解体を命ず…………』



 最後の方は聞き取れなかった。

 ナターリヤと祝詞をささげたサイボーグの天使と下書きとはいえ『シナリオ』として幻術を具現化した原稿用紙から眩い光が発せられて、それに包まれたあたしには何も感じ取ることができなかったからだ。


 神と紙。

 今となっては言葉遊びになってしまう両者。

 創造神であるテトが歴史を紡ぐのに用いたのが文字と紙であったように、人間は自分の願望や要望を紙に綴って神に送る。つまり、『神が人に賜す紙』を、人は『神』として扱う。

 あたしが神様より預かったあの原稿用紙は、さながらあたしを借りの神様とするための紙。原稿用神(げんこうようし)というわけだ。

 仮の神の所業を打ち消せるのは、それ以上の格を持った仮の神か神その者だけ。

 説明書に書かれた解除方法の真理はこうだったのだろう。


 光に当たったせいか、妙に冴えわたるあたしの考えを横に、光はどんどん強くなってゆく。

 そして、それから少しして光になれてきたその瞬間―――、


「テトッ‼」


 カナフは飛び出した何かにそう叫んだ。

 現れたのは閉じ込められていたテト。

 それもただ現れたんじゃあなく、爆速で飛びあがり天井を突き破っての登場だった。


「テトッ! 本気で飛んだら天界に見つかるぞッ!」


「おお、カナフかッ! 大丈夫大丈夫、ここは幻術の中だからな。何をしてもノープロブレムッ! ほら、穴だってすぐ元通りだぞッ!」


 上機嫌に告げるテトだったが、生憎とここは現実世界。

 当然、天井は元通りにはならなかった。

 そのことに気がついたようで、


『ボクの説明はいるかい?』


「いや、大丈夫です…………」


 まるで黒歴史ノートが晒された高校生のように、テトは下りてきた。

『シナリオ』に書いてあったから予想はできていたが、テトの格好は痛々しいほどのコスプレ仕様。


 …………なんか、可哀そうになってきたぞ。





 ―その後、テトの視点―


 それは重く、そして恥ずかしい帰り道だった。


 何があったのか、だって?

 言わせるなよ。

 ちょこっと戻れば分かることだろうが。


 俺と長い付き合いのカナフは事を予見してジャージを持ってきてくれたから少し早いハロウィンをする羽目に会わなくて済んだが、入る穴があれば入りたいこの気持ちは変わらなかった。


「テト。さっきのようなことは、人間誰でも通る道だ。テトは人間じゃあなく神だが、人間はテトが自分を模して作ったんだから、人間のする過ちはお前のする過ち。だから、何も恥ずかしがることなんかじゃあないぞ。クスクス」


『クスクス、そうそう。テトがやらかしたのは、『誰もいないと思ってお風呂で熱唱してたけど、実は寝てただけで一部始終を親に録音されてた』みたいなもんだよ。恥は恥でも笑い話になる恥だよ。つまり―――――』


「『ノープロブレムだ!』」


 キャハハハ、と二人は声を揃えて笑った。

 普段は犬猿の仲のくせして、こういう時だけ妙に息が合う。

 実は仲が良いんだろ、お前ら。


 そうこうしている内に家に着いた。

 玄関を開けるや否や、俺はベットにダイブ。今日の(ついさっき負った心の傷を)疲れを癒す。


「テト」


「なんだよ、俺は傷心なんだぞ。イジるんじゃあなくて労わってくれよ」


「違う。ポストに手紙が入っていた。学校からだ」


 カナフが器用に俺の目の前に手紙を投げる。

 封筒にも入っていない、裸の手紙だったがいつもと違う高級そうな質感なので、重要な報せなのだろうか。





☆夏休み中の登校日のお知らせ

 理事長の抗体により、予定されていた長期休暇中の登校日は、日程変わらず『臨時文化祭』を開催することに決定したことをお知らせします。

 学級ごとの出し物はせず、全校生徒共通のイベント『闘技会』を行います。

 各自、準備を怠らぬよう。


 新理事長 より

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