十四話 一章その六:陰キャに向けられる美女の笑顔ほど冷たいものはないよね後編
前回までの『おれ天』!!
水着であって『水着』じゃあない。
炎上する屋上に、二人の女が対峙している。
冷ややかに佇む女に、燃え盛るカナフ・バックドラフト。
「あらぁ、ドジっ子のカナフじゃない。久しぶりぃ」
「今回は何の用だ、性悪のセリーナ・ドライランド」
「相変わらずセンスないのね、貴女」
「質問に答えろ」
すると女、セリーナはカナフとの間に巨大な氷の壁を出現させた。
「これで答えになるかしら?」
そういうや否や、カナフの頭上には大量のつららが生成された。
炎と氷。
どちらが有利なのかは意見が分かれるだろう。
単に『氷を溶かす』だけならば、炎が強いだろう。
だが、氷が溶けた後に発生した水は炎を消す。
消されまいと相当な高熱を持った炎ならば、氷を水(液体)になるのをすっ飛ばして水蒸気にすることもできる。
現に、カナフは迫りくるつららの大群を圧倒的な熱量でさばいている。
そして、氷の壁に映ったセリーナの影が逃げ出そうとしたところを見て、
「逃がすかァァァ‼」
と。彼女の目の前にそびえ立つ、プールの横幅20メートルに隙間なくそびえる氷の壁を消滅せんとありったけの熱量を持った炎の拳で殴りつけた。
カナフは、「氷を昇華させてしまえば脅威にはならない」と理解していた。
望み通り、氷の壁は一瞬にして消滅する、がそれは悪手であった。
「相変わらず、お馬鹿さんね」
その刹那、女は笑った。
見栄ではない。彼女は、カナフの犯した失敗を笑ったのだ。
確かに、『氷の壁』は消えた。だが、それがそっくりそのまま消えたわけではない。
氷が水蒸気へ、と変化したのだ。
固体から気体への形状変化。
突如水蒸気へと変化した『氷の壁』は、体積は一瞬にして約1700倍となって、周囲の物体を跳ね退けた。
「『水蒸気爆発』。ちょっとでも頭が回れば分かることなのにね」
受け身をとれずに建物に突っ込んでいったカナフを見送りながら、セリーナは辺りを見回す。
プールにいた天使もどきの三人。
そして、突如と現れた神テトの側近のカナフ。
では、先ほどすれ違った男子生徒は? とても無関係とは思えない。
すんなりと、パズルがはまったような気を彼女は感じた。
「確かに、今日はツイてるわね」
セリーナは、冷ややかに笑った。
―――翌日、テトの視点―――
午前10時。
「うっわ、寝坊じゃん」
そう思ったがもう後の祭り。
俺自身には寝坊する気はなかったがそうなる理由はあったのだから、当然の結果と言える。
いや、これほど寝坊するとあれだな。
踏ん切りがついて逆に冷静になるな。
のんびりとした後、余裕をもって午後の授業に出るか。
一応、カナフを落ち着かせるために学校に通ってんだからな。仕方なし仕方ないし。
そう謎の自信をつけて、俺はテレビをつける。
『きょう未明、都内の○○高校にて発生した謎の爆発について…………』
はい?
『……爆発の元となった校舎屋上は酷い火事の後があり、爆弾は用いられたかは今のところ分かっていません…………』
考える間もなく、カナフが爆発の原因だと分かった。
屋上、ってことは昨日掃除してたプールがあるところだよな。一体打ち上げで何があったらこんな不祥事が起こせるんだ?
だが、こんな大事件をナットが見過ごすとは思えない。
早速俺は専用のイヤホンを付けて彼女を呼び出す。
が、やっと通じたと思えば留守の文句が流れてきた。
『……同時刻○○高校周辺に発生した謎の霜や気温低下も爆発と何らかの関係があるのでしょうか?…………』
ナットの不通。
霜、気温低下。
そして、爆発。
いくら鈍い奴でも分かる。
これは非常事態だ。
『天界の半数の天使がテトを探している』
何時ぞやカナフが言っていた。
いつかはするどい天使たちがこの街にやってきるとは思っていたが、いくら何でも早すぎる。カナフがこっちに着てまだ二ヶ月しか経ってないぞ。
いや、二ヶ月も経ってしまったのか。
いくらなんでも楽観的過ぎた。敵はもうすぐそばに迫っている。
「そうだ、カナフッ!」
強引に持たせた携帯に電話をかけても通じない。
俺の名前を見ればすぐさま飛んでくる彼女にはあり得ないことだ。
頼れる天使はいない。
どうすれば良い?
考えろ。
考えろ。
「クソッ!」
ゴールデンウィークみたいに、思考に靄がかかってうまく考えられない。
溜まってきたところで、
ポーン。
と。
インターホンの澄んだ音で俺の思考は現実へ引き戻された。
「昨日振りね、学生君」
ドアの向こうにいたのは、昨夜であった美人の女性だった。
*
「どうして、ここが?」
彼女を比較的綺麗にしていたリビングに座らせて、俺は入れ慣れていないコーヒーを淹れる。
彼女は礼儀正しく座り、興味深く部屋の内装を見回していた。
「住所録を見たのよ。今朝の爆発は知ってるでしょ? そのせいで急遽休校。君生徒会でしょ。昨日学校に残る申請をしてた子たちの安否確認にきたのよ」
「じゃあ、君はうちの学校の先生なんだ。見覚えがあったのはその所為か、はいコーヒー」
いくつか疑問はある。
疑問というより、怪しいところだが。
それでも、俺は情報を得るためにそこを無視して話を続けた。
「ありがとう。でも驚いたわ。女生徒と同棲している生徒がいたなんて。しかも、その生徒は昨日であったラッキースケベのイケメン。こんな偶然ある?」
「どうかな、それは『神のみぞ知る』ってところだね」
「相変わらず冗談が上手ね。あ、コーヒーおいしい」
彼女は絵になる笑みを浮かべて続けた。
「ところで、同棲してる彼女はどこ? 外出中?」
「さぁ? 起きた時には家にはいなかったよ、偶然なことにね」
「困ったわぁ、あの子の様子を見るまで動けないのに…………」
「じゃあ、長居ができるね。今日もツイてるみたいだ」
うまく考えられない割にはうまい冗談が続いた。
だが緊張感が体から抜けることなく、とりあえずそこから逃げるために彼女の飲み干したばかりのカップを下げて、次を淹れようとした。
「待ってッ!」
彼女はらしくなく大声をあげる。
理由はすぐに分かった。
霜が、降りていたのだ。
コーヒーを淹れて、飲み干したばかりのカップに霜が降りていたのだ。
当然、あり得ないことだ。
靄のかかった思考でも、流石に分かる。
「マジかよ、クソったれ」
その瞬間、リビングは凍りついた。
俺も氷に拘束されたが、抵抗する気はしなかった。
「今日はお互いにツイてないな」
俺はまた冗談を言う。
昨日から不思議とうまい冗談が吐けると思った。
彼女は今まで見せなかった悲願がかなったような満天の笑顔を浮かべている。
「残念だけれど、ツイてないのは貴方だけよ。テト様」
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