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十三話 一章その五:陰キャに向けられる美女の笑顔ほど冷たいものはないよね前編

前回までの『おれ天』!!

紫式部が登場。

 今日は朝早く目が覚めた。

 というより、今日は寝坊する理由も俺自身にそんな気がしなかったのだから、当然の結果と言える。


「さぁ、テトッ! 新しい日だッ、布団とよろしくやっていないで早く起きるんだッ!」


『おい、勝手なこと言うなよ。テトはさっきまでボクと『勝つまで寝れま10(テン)』やってたんだぞ。少しは気を遣えよ』


「それこそ『勝手なこと言うな』だ。同居させてもらっているからゲーム機を壊さないでやっているのが分からんのかッ!」


 そんな騒ぎがあっても、大丈夫。

 何も気にならない。

 カレンダーに書かれた予定を見れば、何が起きても俺は快くスルーできる。


『6月7日

 プール開き前日』


 何? 前日じゃあないかって?

 そう急くなって。本命の予定はその後だ。


『生徒会のプール掃除 要水着』


 そう。

『要水着』。

 学校指定の奴じゃあなくて(スク水でも興奮する輩はいるだろうが、少なくとも俺はそうじゃあない)、自前の水着を持ってとのこと。

 そうするに、俺は合法的に(中身はどうあれ)美少女たちしかいない生徒会の面々の水着を拝めるってわけだ。

 神も認める神行事とは正にこのことだろう。




 *

 この高校のプールは校舎の屋上、つまりは屋外にある。

 8ヶ月間放置されたそこの汚さは想像に任せる。

 わざわざ表現したくないほど、汚さは常軌を逸していた。


「嘘だろ……、こんなヤバい作業生徒にさせるか、普通? しかも半日で? 業者を呼ぶレベルだぞ、これ」


 俺はまだマシなところを見つけながら歩く。

 いや、待て。逃げるな俺。

 この後にはきっと美少女たちの水着があるはずだ。

 そう、神様は全ての事柄に対して平等だからな。

 相当な不幸にはそれと同じ幸運が待っているもんだ。


「うわー、すっげぇ汚いじゃん。これ私たちだけでやるの、ヴァリちゃん?」


「ヴァリちゃん、なんでも安請け合いしちゃあダメだよ」


「まぁ、掃除が終わったら自由にして良いって言われたからナ。文句言ってないで始めるゾ」


「「それ、ヴァリちゃんがBBQしたいだけじゃん」」


「んグ…………」


 この声は、生徒会の三人じゃあないか!

 早速よどれちまった目を潤そう…………。

 ん? 何か違う。なんか俺の期待してたやつと違う。


「おい」


「? どうしタ?」


「どうした? じゃあねぇよ。君ら水着はどうしたよ?」


「あたしたちは水着だガ?」


 は?

 三人が着ていたのは耐水のショートパンツ(まぁ、それは許そう。可愛いし)と長袖のダイビングスーツ。つまり、上半身は完全に隠れてるじゃあねぇか。

 はっきり言うが、そいつは水着じゃあねぇ。

 水に浸かるための服だ。

 水に浸かって良い服だ。

 水着ってのは、水辺で映える服。

 水に浸っちゃあいけない一般的な服を脱ぎ捨てて、結果的に残った『公序良俗に反しないようにできた(水に浸れる)下着』。

 それが、水着だ。

 何を言っているか分からねぇと思うが、神の俺が言ってるんだから間違いない。

 この並々ならない神の拘りが、水着というフェチズムを生んだんだ。感謝しろ。


「テト君。それは口に出しちゃあダメなやつだ」


「気持ち悪いぞ、テト君」


 時が固まる。


「あれ? 俺、声に出してた?」


「思いっきリ。自分のことを神様なんて、随分と中二病をこじらせているナ。まぁ、それを抜きにしても今の発言は相当気持ち悪いゾ」


 この際俺の人権なんてどうでも良くて。

 水着が見れないんじゃあここにいる道理もない。


「俺帰るわ。後は君たちでよろしく」


 俺は器用にきれいなところを選びながらプールサイドを後にした。

 ヴァリ、ナリ、ブーリの三人が吐いた俺の変態性の悪口が背中に刺さったが、俺の足が止まることはない。

 べ、別に気にしてないし。

 テトは強い神だから平気なんだし!


「あら、ごめんなさい」


 足早だったせいもあって、すれ違いざまに女性とぶつかってしまった。


「いえいえ、君こそ大丈ブワァ!」


 優雅に彼女を引き寄せようとしたその時、何かに滑って一回転。

 情けなくその場に尻もちをついてしまった。

 引き寄せようとしていた手前、俺の手は彼女の手首を握ったまま俺が素っ転んだわけだから、結果的に彼女が俺を押し倒そうとした態勢になった。

 紫がかった艶のある黒髪。

 俺の姿を反射させる銀色の瞳。

 端正な顔立ちに背は高く、スーツ姿の似合うスゥとのびた手足。

 年齢は二十代の中頃といったところの、相当な美人だった。

 とても、綺麗だ。


「あの……、声に出てるわよ」


「マジで?」


 嘘だろ。めっちゃ恥ずかしいじゃん。

 今日の俺、なんかボロボロだぞ。

 けど、ツイてるっちゃあツイてるのか。こんな美女とラッキースケベ(という程でもないけど)なんてそうそうないしな。

 神は平等理論も捨てたもんじゃあないな。


「でも、ありがとう。なかなかストレートに言われないから」


「じゃあ、お互いに今日はツイている日ってことで」


「フフ、面白い子」


 軽く冗談を交わしながら俺たちは立ち上がる。

 その時、俺は思い出した。

 フィーリング。

 タイミング。

 ハプニング。

 恋愛成就に必要な三つのingってやつだ。

 なんだか急にツキが回って来たぞ。


「君とどこかで会ったような気がするんだけど…………」


 それにしてももっとマシなやつなかったのかよ。

 これじゃあナンパじゃん。もっとリアルなギャルゲーやっときゃあ良かった!


「もしかして、大人をからかってるの?」


「いや、まさか、そんな。冗談だよ。決まってる」


「そういうことにしといてあげるわ」


 彼女が笑う。


「でも、見覚えがあるのは冗談じゃない。本当にどこかで会ってない? 他人な気がしないんだ」


「私目立つ顔だから街のどこかですれ違っているんじゃあないかしら」


「そう…………」


 彼女の笑いが渇いたものになる。

 不発か、残念。

 レンアイって難しいな。


「じゃあ、私そろそろ行かないと。今の私たち、その……」


「イケメンな半裸の男子高校生とスーツ姿の大人な美女。誰かに見られたら事案まっしぐらだ」


「分かってるならよろしい。それじゃあね、学生君」


「それじゃあ」


 そう言って、俺たちは別れた。

 彼女の足音が遠くなって、俺は聞き忘れていたことを思い出して振り返る。


「そうだ、君の名前…………!」


 背後に彼女の姿はない。

 もう6月だというのに、転んで濡れた手はかじかんでいた。




 ―――同時刻、ヴァリの視点―――


 テトがどこかへ行ってしまった。

 あいつはあたしたちの格好が気に入らなかったそうだが、そんな期待に答えなきゃいけない道理はない。

 どうせ今日は『テトに力を使わせる』仕事というより、プール掃除の後のバーベキューが本命。大穴の気分で仕事を出来たらよいなー、って思ってたくらいだ。


「ヴァリちゃん、それって私たちの都合無視してんじゃん」


「お肉食べたいだけでしょ、ヴァリちゃん」


「お前たちも好きだろ、肉。文句言わないでさっさと終わらせるゾ」


「「肉はどうでも良い。テトが帰ったんなら、私たち早く帰りたいんだけど」」


 と。

 つまらないことを抜かしていた二人だったが、文句を言いつつ掃除をまじめにやっていた。

 そんな中、屋上に唯一通じる階段から足音が聞こえてきた。

 仕事の邪魔になるカナフ・バックドラフトは呼んでいないから、何かの風の吹きまわしで掃除する気になったテトが帰ってきたのだろう。


「やっと手伝う気になったカ。大丈夫、ご褒美の肉はたんまりと…………、って誰ダ?」


 階段を上がってきたのはスーツ姿の女。

 大人の雰囲気を纏った途轍もない美人だった。

 私たちは動けなかった。

 見とれていたわけじゃあなく、出会ってはいけない人物に出会ってしまって、動揺してしまって動けなかった。


『もし、カナフ・バックドラフトやあの引きこもり以外の天使が介入してきた暁には…………、分かりますね?』


 ゴールデンウィークに神様が言い残した一言。

 目の前にいるのは、明らかにその対象だった。


「なぁんだ。高級な天使が力を抑えて潜伏してるもんだと思ったのだけれど、ただの下っ端の天使もどきじゃあないの。来て損したわ」


 掃除のせいで濡れたあたしの体とプールに霜が降りる。

 もう6月なのに、震えるほど寒い。

 理由は明らか。

 あそこの女が発した冷気でここ周辺は極寒の冬になっているんだ。

 だが、これで折れては天使(見習い)の名折れ! 頑張れ、あたし!


「やい、何の用ダッ! あたしたちは神の勅命で動いているんだゾッ! 何処の馬の天使か知らないが、勝手な真似はするんじゃあなイッ!」


 この言葉が頭に来たのか、より空気が冷える。

 痛い!

 吸った空気が冷たすぎて肺が凍りそうだ!


「ヴァリちゃん、ヤバいって! 逃げたほうが良いって!」


「虚勢の張れる相手じゃあないって! 賢くなろ、ヴァリちゃん!」


「うるさい、うるさい、うるさーイッ! 実力が足りないってんなら借りた虎の威で対抗するっきゃないだロッ! 変にへりくだったらそれこそおしまいダッ!」


「「ヴァリちゃーん!」」


 あたしの後ろに隠れてナリとブーリが泣いている。

 あたしの蛮行に絶望したのか、それとも雄姿に感動したのか分からない。

 いや、たぶん後者だな。そうじゃなきゃ格好がつかない。


「あらあら、子猫が威勢を張って可愛いこと」


 当然ながら、目の前の女は笑っていた。

 周囲は増して冷え、顎がカタカタ震えてまともに話せそうにない。


「でも、運は持っているわよ、貴女たち。今日の私は気分が良いの」


 女はそう言った瞬間、あたしたちは動かなくなった。

 もう寒いなんて感じない。

 全身を凍らされた、とすぐに分かった。


「しばらく凍りつけになっておきなさいな。砕かないだけありがたいと思いなさい」


 もう、女が何を言っているか分からない。

 凍りつけにされた耳がもう機能していないんだ。

 心なしか、暖かさすら感じる。

 意外と、凍死ってこんな感じなのか…………。

 あれ? 感覚がある。

 何か分からないが、体が自由だぞ。

 てか熱い。

 もしかして死なないはずの天使って、死んだら三途の川じゃあなくて煉獄に直行だったりするのか!?


「おい、平気か? 聞こえてたらとっとと逃げろ」


 嘘だ。

 あたしたちは死んではいなかった。

 目の前にいるのはカナフ・バックドラフト。

 周りはカナフから放たれた炎で埋め尽くされていた。


「動けないのか……。ならば、今からお前たちを放り投げる。なに、何も問題はない。目が覚めれば悪い夢だったと友達に自慢すれば良いさ」


 奴は下手な冗談を言うや否や、あたしたちを放り投げた。

 6階の高さから、放り投げた。



「「「ああああああああッ! 死ぬゥゥゥゥゥ‼」」」



 いや、天使だから死なないんだけども!


最後まで読んでくれてありがとうございます! 

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作者は褒められると伸びるタイプです!

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