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エリシオン  作者: アルセーヌ・エリシオン
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1999年8月2日 『収束』

 結局、昨日、あんなことがあったにも関わらず大した収穫も無いまま普通に平穏な一日が過ぎた。今朝も、いつも通り起き、一通りの日課をこなしていた。朝食後の珈琲を片手に新聞に目を通していた時、着信音が鳴った。メールではなく電話だった。しかもその相手はゆりあさんだった。


「もしもし」


「もしもし、おはようございます。

 ゆりあです」


「これはこれはお久しぶりですね。

 お元気でしたか?」


「えぇ」


「それは良かった。

 ところで、どうかされましたかな?」


「はい……。花音に聞きました」


「そうですか。

 私も花音君より伺っております。

 あなたも彼の……、

 セツラという青年のことは

 ご存知無かったようですね。

 しかし、驚くような素振りも無かったと

 伺っております。

 それは職業柄想定できていたと

 いうことなんでしょうか?

 それとも、心当たりでも?」


「その両方です。

 ただ、心当たりと言うよりは

 母親としての勘とでも申しましょうか……」


「なるほど。いよいよという感覚も

 その母親としての勘だと?」


「えぇそれに、最近花音の様子が

 少々おかしいんです。

 恐らく、本人は元より、

 私たちも知らないところで

 人格の入れ替わりが起きているようで、

 記憶の欠落が多いいんです。

 花音本人も薄々は気付いていると思います」


「そうなんですか……。と、言うことは、

 シオン君以外の人格の可能性が……」


「えぇ。恐らく」


「私たちの知り及ばないところで

 重大な何かが動いている……。

 そういうことなんでしょうか……」


「えぇ基本的人格の花音、

 最初に現れたであろうカムイ、

 続いてシオン、そしてセツラ……。

 この背景にまだ別の人格がいる……。

 恐らく、その人格が総ての鍵だと

 私は考えております」


「明らかに何か目的があるようですね。

 シオン君のしてること自体、

 もしかすると自分の為ではなく

 他の誰かの為……。

 若しくは強制されているという可能性も」


「恐らく、人格同士の潜在意識に

 何かしらの共有する記憶か意思があり

 目的を遂行するために指揮してる

 人格がいるのだと思います」


「全く想像がつきませんが……。

 シオン君にあのような

 特別な能力があることを考えると

 他の人格にも

 各々特別な能力がありそうですな。

 ただ、シオン君の能力を見る限り

 誰かに災いを起こすような

 そんな危険なものではないと感じます。

 仮に、強制されているとしても、

 悪事の一端とも思えない」


「そうですね……。

 でもこの胸騒ぎが無くならない以上

 どうしても良い方ばかりには

 考えられないのが今の心境なんです。

 それが医者としてなのか、

 母親としてなのかも分からない」


「きっと、そのどちらもなんでしょう。

 或いは、女性特有の勘なのかもしれない。

 何れにせよ、アナタの仰る通り

 何かが答えを出そうとしている。

 私たちには、それを見守るしか

 できないのかもしれませんね。

 自分の無力さを痛感しますが

 これが現実なんでしょうな。

 とは言え、アナタにとっては

 ご自身の息子さんのこと……。

 簡単には割り切れないし諦められない。

 どれほど苦しいことか……。

 誰も傷つかずに済めばいいのですが」


「えぇ」


彼女の力ない返事に、的確なアドバイスも慰めもできないただ歳を重ねた年寄りの言葉だったと自己嫌悪が首をもたげた。電話を切った後、彼女が私に連絡してきた真意を考えて言葉を選ぶべきだったと深く反省したが恐らく考えたところで気の利いたことは言えなかったろう。これから、どう彼女を含め彼らと向き合い接していくかを考えたとき、裏表無い私そのままで不器用なりにまっすぐ向き合うことがせめてもの誠意だと改めて気付いた。

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