1999年8月1日 『違和感』
『サインあり』
朝5時過ぎ、メールが届いた。その用件のみのメールに違和感を覚えた。いつもの花音君のメールには、必ず一言添えてあったからだ。何か緊急を要しているのだろうか。心配になり、時間が時間だけに電話はしずらかった為、早急にメールを返信した。
『大丈夫ですか? 何かありましたか?』
『今、お話できますか?』
『勿論、大丈夫です。掛けましょうか?』
そう送って10秒もしないうちに携帯が着信音を響かせた。
「もしもし」
「朝早くすいませんっ」
少しだけいつもと違う花音君の声色に、軽い胸騒ぎを感じた。
「花音君どうかしましたか?」
「サインが来たんですが
こんな時間は初めてで
しかも寝てたにも拘らずってのも
初めてだったので……」
そう言って言葉を詰まらせた。
「そうでしたか。
具合は大丈夫なのですか?」
「えぇ体調は悪くないです」
「それは良かった」
「すいませんでした……」
「いえいえ、私はもう起きてました。
この時間、大抵起きてますから
大丈夫、気になさらないでください」
「ありがとうございます」
「もしよろしければ、
シオン君が出て来た時のために
メモに私の番号とその番号に掛ける旨を
残しておいて頂ければ
私の方で応対しますので
花音君はまた眠ってください」
「でも……」
「先程も言いましたが
私はもう起きていましたし
もう床に入ることもないので
何の不都合もないんです。
どうぞお休みください」
「では……お言葉に甘えて……。
よろしくお願いします」
「えぇ、おやすみなさい。
また、何かありましたら
改めて報告させていただきます」
「はい……。本当にすいませんでした。
ではおやすみなさい」
「私は大丈夫ですから、
ゆっくりとおやすみなさい」
「ありがとうございます。
では、失礼致します」
「ではまた……」
窓の外は、霞みがかった街並みが薄っすらと明るみを帯びていた。コーヒーを準備し新聞片手にメガネを手に取ると再び着信音が鳴った。花音君、そう表示されている。しかし、先程の流れからすると、花音君ではない確率の方が高い。少しの不安と期待のまま通話ボタンを押した。
「もしもし」
「何か用か?」
メモのことが無ければ『こっちの台詞だ』と一蹴するところだ。やはりシオン君だった。ほんの少しだけシオン君以外の登場を期待していたが第一声でその期待は吹き飛んだ反面、妙に安心した。
「いや、用という用は……」
「こんな朝早く、オレが居るということは
こいつは起きてたのか?」
「いや、寝ていたそうじゃよ」
「寝てた?
こいつに……花音に何かあったのか?」
「いや
ただ、寝てるときにサインが来たのは
初めてだと言っておったよ。
キミも初めてかね?
こういうことは?」
「あぁ。
こいつが寝てるときに
オレが出るなんてのは
不可能なはずなんだが」
「そうなのかね?」
「オレだけじゃなく他のヤツらもな……」
「キミは花音君の中にいるのは
自分だけじゃないと知っているのかね?」
「勿論だ。花音本人だけだ、
オレらを把握できていないのは」
「そうなんですね」
「ただ、覚醒中は他の連中と話せないし
あいつらが何をしてるのかも
分かりはしない。
詳しいことは言えないが
何だか面倒くせぇ~ルールもあるしな」
「ルール?」
「あぁ。
だが、今はそれはど~でもいい。
何が……誰がオレを呼び出した?」
「何の見当も付かないのかね?」
「全く……。と言うほどでもないが……」
彼はそう言って話を濁し、暫くの沈黙の後、通話が途絶えた。掛け直してみたが、彼も花音君も電話に出はしなかった。切れた事に胸騒ぎが無かったためそれ以上、こちらからは
行動を起こしはしなかった。結局、セツラという青年のことはシオン君には言えなかった。彼らは互いを認識出来ていると言っていた。なら言えば良かったような気もするが、言えば、何かが崩れ去る……。そんな予感がしたからだ。ただ、何かが確実に動き出している。
それだけは否めなかった。




