1999年7月6日 『己の尺度』
あれから3日経つ。今日が返事を受け付ける最終日だ。 今のところ連絡は無い。彼に拘ることが日課とまではいかないが生活の一部になりつつあるなか連絡が無い日は少々時間を持て余す。そんなことを考えていると、メールの着信音が鳴った。
『いつもの公園にて待つ』
いつもと違う内容。別に不思議ではないが。
何か違和感を覚え一抹の不安を感じながらも
公園のベンチへと向かった。セミの声が入り乱れる木々の小径を抜けると湖を見据えるシオン君の姿が見えた。やはり孤高さが鳴りを潜めているようで、普通に異国のハンサムな青年に見えた。
「2人目だ」
私の気配に気付いたのか徐にそう口にした。
「2人目?」
「あぁ」
そう言って私の方に向き直った。彼の表情に今まで感じたことの無い静寂を垣間見た気がした。私は初めて、掛ける言葉を捜した。
「自分では別に気にしてないつもりだったが
どうもそうじゃないようだ。
この感情は何なのかね~
陽の類ではないのは確かだ。
そんなことを考えてる自分にすら
イライラする」
結局、言葉を見つけられないまま彼に話させてしまった。無力感を感じたのはむしろ私の方だった。
「皆が皆、同じではない、
というだけのことではないのかな。
キミのせいではないさ」
この程度のことしか言ってやれない薄っぺらな人生を少しだけ恥ずかしく感じた。
「かもな……。
同じ人間なんて一人もいない。
そんなことは、百も承知だ。
オレも全知全能ではないしな。
一つ言っておくが
落ち込んでるわけじゃない。
ただ……」
彼の表情で、言葉に詰まったのではなく言葉が見当たらないのだとわかった。
「人は自分のことより
他人のことの方が分かることもある。
ただ、全ては分かりはしない。
何せ、自分の事すら
全てを理解している訳ではないからね。
それを知っていく楽しさに気付けないと
自分を労わる事はできんよ。
人は強くはない。
しかし、自分が思っているほど弱くも無い。
全く、複雑怪奇な生き物です。
ありのままで生きていくしか
できないんですよ、ヒトは」
「じぃさんに慰められるとはな……」
「慰めてはおらんよ。
キミはそんなに弱くはないからね。
ただの老人の独り言です」
「ふっ
じぃさんの独り言か……」
「えぇ、そうです」
そのまま二人して沈黙の余韻に浸った。別れ際の彼の目……。例えようもない目をしていた。あの歳で、あんな目をするなど……。私は、やはり彼のことを上辺だけしか知らないのだと思い知らされた気がした。




