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fh05 永大産業サッカー部について

 紅葉色づく山も雨が降ると色褪せて見えてしまう。しかし幸い今日は曇り空。渡海雄と悠宇は相変わらず元気に暮らしていた。


「ふっふっふ、あれから一年経って昔の選手名鑑もこれだけ入手出来たわ」


「おお、いっぱい増えてるね。なんか微妙に飛び飛びなのが気になるけど、これは狙ったの?」


「集めようとしたら結果的にこうなっただけよ。まあ今オフの話題はこれで決まり、ってところだけどその前にやるやると言っておきながらずっとスルーしていたチームについて済ませておきましょう。その名は永大産業サッカー部。いきなり出てきてあっという間に消え去った、七十年代日本サッカーが誇る流星よ」


「へえ、それは楽しみだね」


「そして永大産業については斎藤一九馬というライターが取材してまとめあげた本があるの。それがこのエンブリー、じゃなくて『歓喜の歌は響くのか』。これは元々二〇〇七年に『駆けぬけた奇跡』というタイトルで出版された本が文庫化される際に改題されたもので内容自体はそう変わってないけど、後書きなんかは結構変わっているわ。元々はディープインパクトありがとうみたいなのだったけど、こっちでは李忠成のボレーシュートとか当時最新のネタも取り入れてるし。ちなみに文庫版が出たのは二〇一一年ね」


「結構最近なんだね。昔の話なのに」


「昔話になったからこそ言える事もあるわけよ。内容はというと、まず本書の主人公となるのがチームのマネージャーを務めていた河口洋という男。これは一九七五年の選手名鑑でも主務としてその名前が掲載されているわ」


「本当だ。関係ないけど副務の大町玄斉って名前格好良いね」


「そうね。で、この河口が様々な手練手管を用いつつサッカー界を渡り歩くというものだけど、その前に永大産業についての説明も必要ね。この永大産業はね、元々戦後満州から帰ってきた深尾茂という男が設立した合板、いわゆるベニヤ板を作る会社だったけど、それから頑張って規模拡大したの」


「名鑑の広告だと永大ハウス新富士なる住宅まで作ってたみたいだから相当な大成長だね」


「さすがに『住宅総合メーカーのトップ』ってのは吹かしすぎだったみたいで実際は六位ぐらいだったようだけど。それとここにあるED構法ハウスってのはツーバイフォーというやり方らしくて、よく分からないけどささっと家を建てられて地震に強いらしいわ。そんな永大産業の創業者が六十年代後半にスポーツチームを設立しよう、手始めにサッカーだって言い出したの」


「それはまた唐突な」


「一番偉い人の言葉だから反対しようがなかったの。当時はちょうどメキシコオリンピックで日本代表が銅メダル獲得してサッカーブームって流れもあったし、それと天皇杯が目標でもあったようね。やっぱり最大の栄誉と言えるものだから。とにかく、サッカーチームを設立したからにはそれを率いる人が必要なわけで、そこで登場するのが河口。元々は上智大から東京ガス、今のFC東京でサッカーやってたけど、色々なつながりから監督に抜擢されたのよ」


「ふうん」


「そして一九六九年、永大木材工業サッカー部発足。永大産業の本社は大阪だけど、これは山口県熊毛郡平生町って、瀬戸内海沿いの小さな町に設立された工場のチームよ。だから物語もほとんどがこの本州の果てと言える山口県を舞台に繰り広げられているの」


「山口と言えば、今だとレノファ山口がJ3で首位だよね」


「気付いたら町田にかなり詰められてるけどね。さて、この永大木材工業は当初山口県三部とか本当に下の方でやってて一部昇格には何年かかるやらってところだったけど、一九七二年に名古屋相互銀行って日本リーグ所属チームが解散したのでそこから選手や指導者を大量獲得し、それと時を同じくして永大産業サッカー部となったの。藤和不動産が一九七五年の途中からフジタになったみたいに、本社の強力なバックアップを受けられるようになったわけよ。その一方でエンブレムに1972と書かれている事からも分かるように、木材工業時代はなかった事になったの」


「あらまあ」


「まあJリーグのクラブが日本リーグ時代はあくまで前身と処理してエンブレムにも1992とか書かれてるのと同じ発想を二十年先取りしたとも言えるわ。で、ここで獲得したのがこの名鑑にもいる大久保賢監督や塩沢敏彦コーチ、小崎実、竹下悦久選手などよ。大久保は目が細くていかにも厳しそうだし、小崎は鈴井貴之に似ているわ。今までも誰かに似ているみたいな事言ってたけど、小崎選手は本当に一番そっくり。これはかなり自信があるわ」


「そう」


「とにかく、こうしてチームが強化される中で河口もなかなかに巧妙な立ち回りを見せて、本書においてはその辺りが見せ場となっているの。例えば一九七一年は山口県リーグ三部だったけどすでに山口県最強となっていた上にご覧のような補強もしたから、野上杯という山口県トップを決める大会の優勝を条件に一部昇格を認めてもらったり。さらに当時は中国リーグがなかったから設立しようって流れになってたけど、設立されると昇格のペースが落ちるから中国地方の偉い人と話を付けて設立を一年延ばしてもらったり」


「えっ、そんな無茶な話が通ったの?」


「地域リーグでぼちぼちやっていきたいチームがほとんどな中で全国を目指すチームに暴れ回られても困るでしょう。だから偉い人も『じゃあさっさと上がってくれ』という事で無事に通ったみたい。その後も日本リーグ二部に昇格するためのトーナメントがあったんだけど、小野卓爾ってサッカー協会の偉い人が家を新築したので、その内装を永大産業に受注させたら楽な組み合わせになったとか結構工作しまくり。もちろん実力もあったからこの大会でも無事優勝して一九七三年は日本リーグ二部で戦う事となったの」


「これも河口って人の手腕? えぐいもんだね」


「当時を知る人からするとこの本の描写でも美化されてるらしいわ。私個人としても河口より良くも悪くもスポーツマンらしい大久保監督のほうに共感を覚えるかなって。例えば永大がオフサイドトラップを仕掛けるのを見て正攻法じゃないし河口の胸中は複雑だったって記述があるけど、それは別にって思うし。実際大久保と河口はそりが合わなかった部分もあったみたいだけど、大久保の厳しい指導と河口の策略という両輪で創業者の死というアクシデントをも乗り越え永大産業は二部リーグでいきなり優勝、一部との入れ替え戦に進出したの」


「と言うか一年目でいきなり優勝って凄いねえ」


「一部リーグの選手を軸に、優秀な選手を揃えた結果よね。例えば得点王に輝いた中村道明というストライカーとかね。結構ハンサム。七十五年でも背番号21と大きいのは何のこだわりか」


「大物になっても大きいままの選手ってたまにいるよね」


「チーム伝統の番号を受け継ぐより自分オリジナルの番号に愛着を持つ人が増えているとか。背番号はともかくとして、当時の二部には甲府クラブや京都紫光クラブといったローカルのクラブチーム、プロ化を目指す新興勢力読売クラブ、実業団だと富士通なんかが所属していたの。富士通は今の川崎フロンターレで、他は説明しなくても察しがつくでしょう」


「ヴァンフォーレにサンガ、それとヴェルディか。でも永大はそれらより強かったって事なんだね」


「そうね。そして入れ替え戦では田辺製薬と対戦。このチームについても色々あるけど今は割愛して、この入れ替え戦も制して一部加入を決めたの」


「強いねえ」


「そして一部リーグ初参戦となった一九七四年、前半戦は苦労したけどブラジル人三人補強で後半戦には上昇して九位でフィニッシュ」


「それがこの黒人アントニオ・ペレ、長髪のジャイール、髭のジャイロか」


「ペレよペレ。案の定と言うか、その名前ゆえに子供たちの人気抜群だったらしいけど実際にペレって名前の人が来たらそりゃあ応援するわ。ポジションが違ってもね。しかもこの年の天皇杯では決勝進出。惜しくも覇者ヤンマーに屈したけど堂々準優勝を飾ったの。その勢いで入れ替え戦では富士通を一蹴。一九七五年はリーグ戦五位と健闘するも、以降は色々と大変な事が立て続けに起こってねえ」


「となると、この名鑑のメンバーはまさに短い絶頂期を彩る人々なわけか」


「そうね。チームの特徴としては、比較的人数が多いのが第一。選手の寸評を見るに二軍チームみたいなのも持っていたみたい。ルックスが印象的なのはやけにもみあげが太い背番号15の松本賢二郎。ちょっと外国人の血が入ってるみたいな」


「この松本は山陽高校出身か」


「山陽を筆頭にやはり中国地方出身が多いけど、九州も結構いるのが印象的。きっかけは作中でも描かれていた福岡大学の清田英治でしょうけど。それと背番号3のサイドバック松尾孝二が国見高校出身なのはびっくりしたわ」


「高校サッカーの強豪だよね」


「でもこの頃はまだ小嶺監督就任前のはずだから。他にも仙台育英から若手二人加入してたり、鹿児島実業出身の小崎も含めて後に実績を残す当時の新興校から積極的に選手を加えていたみたい」


「普通の強豪校はすでに他のコネクションがあるし、強くなるには別の道を歩くしかなかったって事かな。全体的に整えすぎてない髪型の選手が多く、企業戦士って雰囲気が薄いのも新しい雰囲気」


「そうね。さて、永大の今後に移るけど、まず永大産業の経営悪化が表面化したわけよね。すでに深尾茂も亡く、当初はサッカー部を一九七五年シーズン限りで潰すつもりだったけど、地元の陳情もありそれは免れたの。でも直後に大久保監督が追放されたわ」


「あれ、何で監督が?」


「選手の中に日本で生まれ育った韓国国籍の、いわゆる在日の人がいて、それとブラジル人トリオの外国人四人を試合に出したって嫌疑で、でも韓国人は試合に出てなかったという冤罪だったわけよ。結局大久保が消されただけという事件で、本でも他チームが仕掛けた陰謀に巻き込まれたという話も示唆されているわ」


「ううん、それはまた」


「作中で河口が様々な工作をしてたけど他のチームも色々動いてたわけで、魑魅魍魎蠢く世界よね。それでもセルジオ越後がコーチになった話とか見どころはありそうだけど、河口がサッカー部から除かれた事もあって描写はさらっと流してる感じ。結局一九七六年シーズンを最後に、チームは解散となったの。その一年後には千八百億円の負債を抱えて永大産業も事実上倒産。ああ、その後経営再建して会社自体は現存してるわ。さすがに家自体はもう作ってないけどキッチンやフローリング、ドアや階段など家に関わる様々な製品を作る会社として、東証一部にも再上場出来てるし」


「永大産業公式サイトの会社沿革で七十年代がスカスカなのはこの辺りの事情なんだね。もちろんサッカーの話は一切なし」


「ただこの時に整備した永大グラウンドも現存してて、少年サッカーなんかではよく使われているみたい。また、元永大の選手は各地に散り散りになったけど指導者に転身した人も多くて、岩政選手を育てた人やミャンマー代表監督になった人もいるの。かくして国破れて山河あり、じゃないけどチームがなくなってもそれに携わった人や物は残って今に至ると、そういう事よ」


「そうだね。やっぱり歴史て色々あるものだからね」


「それと永大産業以外のチームについての記述もいくつかあって、これもなかなか面白いものよね。日立高橋監督のゲン担ぎとか、東洋の横断幕は『ロータリーパワーで栄光を勝ち取ろう』と書かれてたとか」


「ロータリーエンジン、本当に好きなんだね」


「しばらくは気付いてなかったけどそもそもサッカー部のエンブレムもロータリーエンジンの核であるあの三角形だし、つい最近も『五十人のエンジニアが八年かけて次世代ロータリーエンジン開発中』というニュースが飛び込んできたり、もはやロータリーなしでは生きていけない体になっているみたい。それと永大解散の際に東洋の芳野部長が残したコメントも色々示唆するものがあるわ」


「えっと。『同じ中国地方のチームとして強化や運営についていろいろ協力しあいたいと思っていただけにリーグから消えるのは惜しい』ってのか」


「惜しいどころか結局永大以降、トップリーグに中国地方のチームが複数所属という現象は起きていないのよね。降格して二部リーグで中国地方のチームと対戦ってケースはあるけど。だから岡山にはそこそこ期待してたのにまた駄目でねえ、なかなか難しいものよね。サンフレッチェスルーの中四国ダービーとか、そういう孤独にもうこれ以上耐える必要なんてなくなるぐらいのチームが出現したらいいのに」


 そんな事を語っていると敵襲を告げる警告の光が輝いたので渡海雄と悠宇はすぐに変身して、それが出現したポイントへと走った。


「ふはははは、俺はグラゲ軍攻撃部隊のアオダイショウ男だ! この星を飲み込んでやる」


 オリーブ色の胴体を持った男が草むらに出現した。アオダイショウの名を冠しているがこいつ自体は別に大将とかでも何でもない普通の軍人である。永大グラウンド整備する際にマムシとかアオダイショウとか蛇がいっぱい出てきて大変だったらしいが、まさかその怨念でもあるまい。


「出たなグラゲ軍! お前たちの好きにはさせないぞ!」


「こんな時期にも大層なことよね。少しは休んでくれてもいいのに」


「ふん。俺はこの任務を果たすためにわざわざこんなところまで来てやったのだ。それは全うするぞ。行け、雑兵ども!」


 大量に出現した雑兵たちを渡海雄と悠宇は全て打ち倒して、残った敵はアオダイショウ男一人だけとなった。


「よし、後はお前だけだなアオダイショウ男!」


「そろそろ寒くなってきたし、アオダイショウなら冬眠しなさいよ」


「馬鹿め。これからが本番だと言うのに。貴様らを叩き潰したらいくらでも眠ってやろう」


 そう言うとアオダイショウ男は懐から取り出したスイッチを押して巨大化した。やはり戦いは免れないと悟った二人も合体して対抗した。


「メガロボット!!」

「メガロボット!!」


 巨体と巨体のぶつかり合いは、アオダイショウロボットの巻きつき攻撃をするりとかわして逆に組み伏せた。


「よし、とみお君今よ!」


「うん。エメラルドビームで勝負だ!」


 渡海雄はすかさず緑色のボタンを押した。目から放たれるエネルギーの塊がアオダイショウロボットを燃やし尽くす。もはや敵に出来るのは断末魔の悲鳴を上げる事のみであった。


「ぐうう、駄目か! 脱出する!」


 機体が爆散する寸前に作動した脱出装置に乗ってアオダイショウ男は宇宙へと帰っていった。もう戻ってこなければいいのにと祈りつつ、そうはいかないとも本当は分かっていた。冬の足音がかすかに聞こえる秋の一日であった。

今回のまとめ

・オフの話題はたまったサッカーネタ放出で決定か

・あまり知らなかった時代について書かれている本なので面白い

・文庫版にあるセルジオ越後の文章も味わい深いのでおすすめ

・サンフレッチェと並んでくれる中国地方の同志は未だに伸びてこない

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