fh04 選手名鑑残りのチームについて
アジアカップは結局韓国と開催国であるオーストラリアとの決勝戦となり、オーストラリアが勝利した。妥当な結末であったと言えるだろう。プロ野球のキャンプも始まったしそろそろ懐古もおしまいにしようという事で日本リーグ第三弾。出来れば前回と前々回も見てね。
「じゃあ今日で一気にラストまで雪崩れ込むわよ。まずは五位の新日鉄から。本当は鉄って字だと金を失うと読めるからあえて旧字体の鐵を使ってるんだけど、この名鑑ではそんな事考慮してないからこっちも新日鉄という表記で行こうと思うわ」
「まあ喋る分にはどっちでもいいんだけどね」
「まず、新日鉄の本拠地は福岡県北九州市。元々は八幡製鉄のサッカー部だったけど一九七〇年に八幡製鉄と富士製鉄が合併して新日鉄となったわ。だから日本リーグ開幕当初は八幡製鉄という名前だったのよ」
「北九州か。いかにも強そうだね」
「メキシコ組でもある渡辺正監督を筆頭に同じくメキシコ組の富沢清司、背番号8の崎谷誠一など短髪角刈りのガテン系ルックスがいかにも頑強でしょう。特に崎谷は山陽高校出身で佐藤康之の先輩と思うと納得の雰囲気。その一方でストライカー日高憲敬や背番号10河本博の完璧な七三分けも見逃せないわ。全体的には一番髪型がしっかりしてるのがこの新日鉄よ。三菱や日立も比較的短かったけど新日鉄ほど徹底してはいない感じ」
「六十年代っぽいと言うのか、いかにも企業戦士って雰囲気だ。それにしても日高憲敬っていい名前だなあ。日本国憲法が施行されたのが一九四七年五月三日だと言うから、その年の五月二十九日に生まれた息子に憲法を敬うって名前付けたのかなあ」
「そうかもね。そしてこの新日鉄屈指の存在と言えば宮本輝紀。彼こそこの名鑑に掲載されている中では最年長の現役選手よ。でもこの人も山陽高校出身なのにそんな危ない雰囲気ではなくて、やや頑固な職人気質が見え隠れするものの四十代か下手したら五十代前半の真面目な会社員って感じ」
「でも三十四歳。現在だと遠藤保仁がこの間三十五歳になったってところだけどリーグどころかチーム内においても年上の選手がいるのに。やっぱり皆若かったんだなあ」
「この宮本や渡辺監督が若かった頃は天皇杯優勝、日本リーグでも優勝争いを繰り広げるなど日本屈指の強豪として名を馳せていたわ。この年も四位と健闘したけどもう最後の輝きと言うべき時期で、八十年代には二部降格。九十年代は更に下のリーグへと落ちて一九九九年を最後に、廃部となってしまったの」
「ああ……」
「今はギラヴァンツ北九州ってあるけど、新日鉄とは別の流れよ。そして広告は鳥や羽のある虫のイラストとともに『緑のまわりに寄っといで』というコピー。下部には『"緑の製鉄所づくり"も今年で4年目を迎えました』『自然と産業の共存をめざして、緑あふれる環境づくりにいっそう努めてまいります』といった文章。エコとかクリーンとかアピールしてるのは高度経済成長の反動を受けた時代の反映よね。それは六位の東洋工業もまた然り」
「東洋工業、マツダ。ああ、サンフレッチェだね!」
「その通り。シールド上のエンブレムにHIROSHIMAと地名が書かれている事からも分かるように、今のサンフレッチェの母体となったチームがこの東洋工業よ。エンブレムに地名が書かれているのは東洋工業とヤンマーのOSAKAだけだけど、東京以外を本拠地にしながらこんなに強いチームを作り上げたんだという自負心が感じられて好印象。日本リーグ開幕当初、東洋工業は最強だったわ」
「調べたらいきなり四連覇で、一九六九年は三菱に王座を譲ったものの翌年奪還して計五回の優勝か。本当に強いや。でもそれ以降優勝してないって事は……」
「うん、まあそういう事よね。でもこの年は当時大学生にして代表常連だった古田篤良ら早稲田から三選手を獲得するなどかなり意欲的な補強を行っているわ。古田はカープの野村祐輔に似たルックスでなかなかの美男子だけど広島県出身で、大学で都会に出た地元選手が戻ってくるという形だったみたい。東洋工業全盛期もほとんどが広島県出身者で、まさにサッカー王国だったのよね。その残り香は七十年代にもあって、深いシワが刻みつけられた大橋謙三監督のビターな顔つきや背番号1船本幸路の貫禄ある輪郭からいかにも古豪ってオーラが出てるでしょう」
「大野毅も渋くて格好良いなあ。二村昭雄はおでこがかなり来てるけど、ネットで比較的新しい写真を探ってみると意外とズル剥けになってないのね」
「そして背番号9、目が細くて爬虫類系の顔をしたこの男こそが小城得達。メキシコ組でも中心的な存在だった名選手中の名選手で、今は広島県サッカー協会会長。それとコーチには松本育夫という名前も。詳細は割愛するけどなかなか凄い人よ」
「他には小滝強の角刈りもやけに印象的だなあ。それと佐藤寛之系のルックスな菊地比佐志」
「そして広告はルーチェという車の写真と文章だけど『マツダの低公害車は、すべて、エンジン本体に手を加えないサーマルリアクター方式です』『サーマルリアクター方式だから信頼もひとまわり大きい』などと、サーマルリアクター方式というワードが四度登場してるのが印象的。でもこれ今では廃れてるみたい。またMAZDAという表記が登場したのが一九七五年からとの事で、ここでもしっかり書かれているわ」
「『クルマの主流をかえるロータリーのマツダ』だって。それと白基調で左側のエンブレムにかかるように青と赤のラインが入っているユニフォームのデザインも格好良いね」
「他は単色やシンプルなストライプが多い中で一番凝ったデザインよね。しかしこの年の東洋工業は八位と低迷。一方でカープは初優勝。以降カープは黄金時代を迎えるけど東洋工業は古田では成功したUターン補強が金田喜稔や木村和司には通用せず二部落ちを経験するなど受難が続くし、なかなか両方が強い時代って少ないのよね。過去でも東洋四連覇中、カープは初めてAクラスに入った一九六八年ぐらいのもので、むしろ今こそ両方それなりにやれてる貴重な時代と言えるわ」
「サンフレッチェは選手移籍や補強を見るに苦労するかもしれないけど、何とか頑張ってほしいよね。そしてカープもね、優勝したらいいのにな」
「そうね。話を戻すと、七位は日本鋼管。今のJFE、当時はNKKという略称だったわ。川崎市が本拠地だったけど、正直地味。背番号15で当時の代表常連だった藤島信雄ぐらいのものよね。このふてぶてしい顔つきがいかにも猛者でしょう。身長171cmのGK左近充辰治も多少気になるけど」
「それより藤島の服おかしくない? ジャージの下に着込んでる襟付きのシャツがヒョウ柄に見えるんだけど」
「確かにちょっと妙かも。いえ、そもそもユニフォームで撮影してるのが新日鉄だけなのが奇妙な話よ。他は上にジャージを着込んでの撮影だし、日本鋼管とヤンマーは首元から私服っぽい襟付きのシャツが見え隠れする選手もちらほら。広告は『新しい人間環境をつくる』というコピーに、歯車三つの中にそれぞれ雲、林、魚のイラストというもの。率直に言ってださいわ」
「選手のルックスも全体的に垢抜けないね」
「日本鋼管は基本的に中堅どころのチームで、この年は九位にまで落ち込んでしまったわ。その後降格も経て八十年代途中には優勝争いをするまでに躍進を遂げたけどJリーグには参加せず、一九九三年に廃部となったわ。八位は藤和不動産。この年の途中にフジタと改名して、今の湘南ベルマーレの母体となったチームよ」
「ベルマーレか。でも本拠地は栃木県那須郡なんだね」
「藤和不動産が手がけたプロジェクトに藤和那須リゾートってのがあって、その敷地内で作られたものらしいわ。広島発祥の会社なので東洋工業から下村幸男や石井義信という黄金時代の貢献者を呼び寄せ、さらにブラジル人の補強で急速に力をつけてきたチームよ。あのセルジオ越後もプレーしてたけどすでに退団していて顔を拝めないのは残念。ただ後に得点王となるカルバリオはいるわ。他にはベルマーレ昇格時の監督だった古前田充とか。この後リーグ優勝三回と黄金時代を迎えるけどその役者は揃っていて、でもまだ本格化していない夜明け前といった雰囲気よね。この年も七位にとどまってるし」
「選手のルックスも何となくピントがぼけてる感じだね。ただヤンマーレベルかそれ以上に髪が長い選手多いね」
「広告は『バイタリティが身上』『まだ若い会社です。だから真剣です』などと結構熱いワードが飛び交ってて印象的。で、実際若い会社なのか調べたところ設立は一九五七年との事。当時まだ二十年も経っていなかったから、確かに若いわね。ちなみにチーム自体は一九六八年に出来たから、本当に凄まじいペースで上り詰めたわけよね。そしてそれは九位の永大産業も同様よ」
「知らない名前だな。でもシールド状のエンブレムには1972という数字が。ええっ、1972ってさすがに早すぎじゃない?」
「そこには色々なドラマがあったようで、ここについて語ると長くなるから今回は割愛するわ。詳しくはいずれまたって事で」
「あらまあ」
「そして最下位はトヨタ自工。今の名古屋グランパスだけど当時の本拠地は当然豊田市。寸評によると『練習時間が就業後の夜だけ』という状態だったようで、その実力は順位からもお察しよね。十チーム中唯一監督が選手兼任だし、知ってる選手もいないし」
「本当に知らない選手ばっかりだ。背番号7石丸勝則の名波をしょぼくしたようなルックスとか、背番号19内生蔵正人の当時のミュージシャンみたいな爆発的カーリーヘアが印象に残るぐらいかな」
「当時の制度として、十位と九位は二部リーグの一位と二位になったチームと二試合の入れ替え戦を行っていたの。だから一九七四年シーズンで言うと九位の永大産業は富士通、今の川崎フロンターレの母体と対戦したけど連勝して跳ね返した。そしてトヨタは二部リーグで優勝した読売クラブと対戦して、こっちも連勝して一部残留を果たしたわ。でもやっぱり弱くて一九七五年と一九七六年もかなり悲惨な成績で最下位に沈んだけど入れ替え戦だけは意地を見せて残留。しかし一九七七年、十八試合で失点八十一得失点差マイナス七十という超弩級の成績を残し、入れ替え戦でもようやく読売に敗北して降格となったわ」
「ううん、何と言うか壮観だなあ。今の制度じゃ四年連続最下位なんて不可能だもんね」
「自動降格制度が採用されたのは八十年代になってからのようね。ちなみに広告はNEWクラウンで、年配の男性の写真や『豪華な装備のひとつひとつに、オーナーカーとしての配慮がうかがわれます』というコピーからは王者の貫禄すら漂うけど肝心のチームはむしろ逆の成績だったと。しかし八十年代後半になって一部復帰。その勢いでJリーグ加盟も果たしたわ。当初は雑魚だったけど二〇一〇年には無事リーグ優勝したけど、強豪って程でもないのよね。ただ何だかんだでここまでずっと一部リーグに居続けてるのは立派の一言」
「維持する事って本当に難しいものだからね。新日鉄や日本鋼管みたいになくなったらもう何も残らなくなってしまう」
「いえ、チームが亡くなっても人も消えるってものじゃないから、残るものは多少たりともあるはずよ。そこで永大産業。このチームを題材にした本を最近入手したんだけど」
悠宇の言葉を遮るようにグラゲ襲来の警報音が室内に鳴り響いたので二人は変身して敵が出現した地点へと駆けて行った。思えば今までの話でもこのようにいかにも次がありますよみたいな引きからスルーされた話題もいくつかあるので今年はそれを解消させたい。
「ぐわははは、俺はグラゲ軍攻撃部隊のシャチ男だ! この星を爆砕してくれる!」
モノトーンの大胆な配色が美しいがその実態は獰猛なる海の王者。英語で言うとキラーホエール。オルカという呼び名もあるがカレーライスに対するハヤシライスみたいな妙なバッタモン臭さがちょっと。それにグランパスとも言う。あそこのエンブレム、どうしてもんげって読んでしまう。
「またも現れたなグラゲ軍! お前たちの企みも今日限りだ!」
「一体あなたは何のために戦っているの? 爆砕とかして本当にいいわけ?」
「出たなエメラルド・アイズ。お前たちを殺せさえすれば俺はこんな星などどうでもいいのだ。かかれ!」
シャチ男の指示で雑兵たちが次々と二人に襲いかかったがどうにか全滅させた。海辺に宿命の風が吹く。残ったのは三人となった。
「これで雑兵は片付いた。残るはお前だけだなシャチ男!」
「シャチの見た目はねえ、美しいとは思うから手を出さずに済むならそれが一番なんだけど」
「俺が望むのは貴様らのちぎれた首だけだ。何としても殺してやるぞ!」
聞く耳持たず。シャチ男は懐に隠していたスイッチを押して巨大化した。それに対抗して渡海雄と悠宇も合体した。
「メガロボット!!」
「メガロボット!!」
シャチロボットは鋭い牙を剥き出しに、強烈なアタックを仕掛けてくる。それを回避していくと両腕に装備された超振動ブレードで切り刻んでくる。かなりオフェンスに特化した機体であり、悠宇の反射神経を持ってしてもいくらかは避け切れずにダメージを受けた。
「ぐうっ、敵は速いよゆうちゃん!」
「上等! かくなる上は私も秘策を繰り出すとしましょう」
そして悠宇は防御を固めるどころかその反対で、シャチロボットに突っ込んでいった。あまりに無防備。シャチ男はここぞとばかりに超振動ブレードを振りかざす。しかしそれが悠宇の狙いだった。
「ええい、ここよ!」
今まさにブレードの切っ先が顔面に刺さろうという瞬間、メガロボットはするりと身をかがめてシャチロボットの両脇を抱えて持ち上げた。
「そうか、このタイミングか! ならばスプリングミサイルだ!」
渡海雄はすかさず橙色のボタンを押した。即座に放つ事が可能な武器であるスプリングミサイルはシャチロボットが体勢を整える前にその肉体を打ち砕き、ガクリと超振動ブレードを落として機能停止した。
「おのれ! ここまでか!」
シャチロボットが爆散する寸前に作動した脱出装置で宇宙へと去っていったシャチ男。しかし二人の戦いはまだまだ続いていくだろう。しかし多分大丈夫。寒い地球の中においても友情という名の火は二人の心を確実に温めているからだ。
今回のまとめ
・濃厚な実業団感を醸し出す新日鉄が二十世紀のうちに消えたのも宿命か
・東洋以外にも広島県出身選手がやたらと多くてまさに王国の風格
・藤和不動産の広告が一番好みでワーストは日本鋼管
・地味なチームは本当に知ってる選手が皆無なのできつい




