hg18 HEART'N HEARTSとソロ曲について
放射冷却が指を切り裂く晴れた朝。渡海雄はとびきり分厚いコートと手袋に守られながら登校した。「上着ばっかり着ぶくれして、まるで雪だるまね」とからかう悠宇も大概厚着で人のことを言えた義理じゃなかった。昼が過ぎて、放課後となってもちらちらと雪が舞うなどとにかく寒かったが、この先二十日程度で春が来るらしい。
「そしてこの『HEART'N HEARTS』は一九九四年の三月に発売された二枚組のアルバムなんだ。そしてその一枚目はメンバー七人のソロ曲が収録されている」
「ジャケットのルックスは抜群にいいわね。特に大沢の盤石感たるや。佐藤敦啓の髪型は微妙だけど。それと衣装の色合いが自然になってきたのもいい傾向よね」
「そうだね。時代が今に近づいているからファッションも見られるものになっているのはあるね」
「そして一曲目は諸星の歌う『サヨナラなんて言えそうにない』。作詞輝太朗、作曲編曲UNI。また偽名臭い人たちだけど」
「UNIってのは言わずと知れた夏バンドの大御所たるTUBEのギタリストである春畑道哉が楽曲提供する際に用いられる名前だよ。と言う訳で作詞の輝太朗はTUBEのボーカルである前田亘輝。曲としてははいはいお幸せにって感じの恋人たちを歌ったバラードだけど、明らかに前田の影響受けた諸星の歌いっぷりが印象的。特にサビは前田の声で想像しても違和感皆無」
「次は大沢の……、『裸のままKISSを』。作詞高柳恋・大沢昇一、作曲岡本朗、編曲水島康貴」
「ははは、なかなかなタイトルでしょ? 作詞の高柳はともかく大沢昇一ってのは大沢樹生本人のはずだけど、何でこんな名義なのかは不明。あまりにも赤裸々すぎるからか輝太朗の影響か。曲自体はバラードだけど大沢の歌唱でお腹いっぱいになる。歌詞の横にある写真も意味不明なポーズだし。後の展開を鑑みるに色々と悩んでいたのは間違いない。でも悩んでいてもいい曲はいいし、まずい曲はまずいからね。アレンジも弱い」
「次は山本の『一緒に‥ネ』。作詞作曲山本淳一、編曲水島康貴」
「一九九二年の『Flower Girl』でかましてくれた山本自作曲だけど、今度は作詞までこなして帰ってきた。確かに前よりはましだけど、でもやっぱりどうって事のない曲だしポコポコした打ち込み基調のアレンジも薄い。歌詞はほとんどひねりなく、素直と言うか子供っぽいと言うか。夜の街灯みたいな明るさの曲で、山本のファンは喜ぶだろうけどそれ以上は望めない程度のもの」
「次は内海の『2 OUT FULLBASE』。おお、明らかに野球を題材にした曲。そして作詞内海光司、作曲魚海洋司、編曲飛澤宏元。この作曲家って内海の変名?」
「違うよ。いや、本当に。こう並べられると限りなく内海の変名臭いけど魚海洋司ってミュージシャンは実在するんだ。そして編曲の飛澤は、個人的にはキャプテン翼や北斗の拳などアニメの音楽というイメージが強い人。『ロベルトの夢・南米Jr.』とかやけに格好良いよね」
「いや知らないわよ。大体キャプテン翼自体何度かアニメ化されてるし」
「ああ、最初のアニメだよ。そういうスポーティな実績が買われて起用されたんだと思うけど光GENJIとはこの曲だけの関わり。そして曲はお察しの通りガッツリと野球がテーマ。しかも舞台が高校とかじゃなくてプロ。アナウンサーによる英語の実況にギターが絡むイントロから勢いのある曲が続き、アウトロでも実況が入って、最後は打球音とアナウンサーの絶叫で終了という形。パワー不足な内海のボーカルは惜しいけど、楽しそうだからいいんじゃないかな。総合的に見て、このアルバムにおけるソロ曲では一番良いのがこれ。ちなみに内海は巨人ファンらしいよ」
「Jリーグブームの時期にあえてこれを持ってくる男気は買いよね。次は佐藤敦啓の『語り』。作詞佐藤敦啓、作曲井上ヨシマサ、編曲ATOM」
「これはきもい。力の抜けただるそうな歌唱でタイトルの通り語りかけるような曲なんだけど、雰囲気が妙にアンダーグラウンドと言うか、このノリについていけるかが全て。ATOMの編曲もいつも以上に実験的だし、アイドルとか美形とかそういう枠を破壊するチャレンジの一環としてはいいんじゃないの」
「確かに独特の気持ち悪さがある曲ね。次は佐藤寛之の『shade』。作詞船越敬司と佐藤寛之、作曲船越敬司、編曲水島康貴」
「佐藤寛之の歌唱スタイルも合わさってぼんやりとした曲調。歌詞はいつも通り遠くから見守ってる路線、メロディーも結構いいんだけど、アレンジがはっきりしないのがまずいのかな。『shade』、つまり輪郭のぼやけた影というタイトル通りではあるんだけど。と言うかこのアルバムの水島はねえ、『SPEEDY AGE』みたいなリズム重視でもないから単純に軽くて薄いアレンジになってしまってる感じ」
「そして最後は赤坂の『十六夜物語』。作詞中村邦男、作曲谷本新、編曲小西貴雄」
「笙って言うんだっけ、和楽器と打ち込みサウンドの融合が印象的な、インモラルな色恋沙汰を歌った曲だよ。間奏のラップパートやスージー・キムという女性歌手との絡みがいかがわしい雰囲気を醸し出している。思えば当時まだ二十歳になったばかりなのによくやるよ。とまあ、ここまでソロ曲が続いたけど全体的には似たような曲調が並ぶ上にアレンジも薄くてインパクトに乏しい。大人びようとしすぎているのがまずいのかな。赤坂はいいよ。声と歌唱力に見合った路線だから。でも大沢のバラードとかげんなりするだけだし、結局溌溂と爽やかな内海の曲が一番好印象ってのが現実だからね」
「私も内海の曲が一番良かったわ。野球が題材だからじゃなくて、やっぱり勢いがないとね」
「勢いは大事だよね。そうだ、この際ついでにメンバーのソロシングルも紹介しておこう。解散後の音楽活動は割愛して光GENJIのメンバーとして出された曲に限定するよ。まずは諸星から」
「ええっと、『一匹狼 LONELY WOLF』かな。作詞松井五郎、作曲水政創史郎、編曲富田素弘」
「これは一九九四年三月に出た歌い上げ系バラード。本当はブルースとでも言いたいんだろうけど、これほとんど演歌だよねってのが正直なところ」
「次は『ECSTACY』。作詞原真弓、作曲太田美知彦、編曲松井寛」
「これも一九九四年、十二月に出たシングルだけどギュンギュンと鳴り響くギターと崩しまくった歌い方が印象的で、派手で下品な曲。太田は今後光GENJI本体にも関わってくるけど、アニメ系の仕事もこなす人でロック調のパワフルな楽曲を作る印象」
「カップリングは『WINNERS OF THE HEART』。作詞リンダ・グリーン・オクモト、作曲編曲奥本亮」
「コーラスに人を多く配している、全編英語の歌詞が特徴のバラード。なかなか感動的な曲ではある。この奥本って人は世界的に活躍するミュージシャンにして諸星のお友達でもあったみたい」
「他には、山本が一九九二年に『嵐になれ』というシングルを出しているようね。作詞松井五郎、作曲アルフライラ、編曲戸田誠司」
「まずはストリートファイターIIという当時大ブームを巻き起こした格闘ゲームがあったんだ。あまりにも人気だったから調子に乗ってゲームで使われる曲に歌詞を付けて歌わせようという企画が持ち上がって、その中の一曲を山本が歌う事になった。アルフライラってのはそのゲームを制作したカプコンって会社のサウンドチームで、実際は下村陽子という人が作曲したそうだよ」
「色々と無理のある流れだけど、相当企画色の強い曲なのね」
「うん。山本が歌ったのはゲームの主人公であるリュウのテーマ曲だけど、まあ酷いものだよ。二十代後半という年齢設定で、自分より強い相手を求めて修業を続けるリュウのキャラクターに対して山本の声は軽すぎ。白い道着を来て凄んでいるジャケットも脱力もの。イメージに合ってなさすぎるからゲーム=子供のやるものみたいな先入観から少年的なイメージの山本に任せたのかなと邪推するけど、ただ元々歌を想定してないBGMに無理やり歌詞付けたってコンセプトからして厳しいからね。誰かが生贄にならなきゃいけなかったって類の仕事ではあったと思うよ。山本は犠牲になったのだ。漫画原作ドラマでとりあえず主演に据えられる香取慎吾みたいな感じで」
「ブームの徒花ね。他には赤坂が出した『ホウキ・ツイスト』。作詞阿木燿子、作曲宇崎竜童、編曲関谷聡」
「これは魔女の宅急便って、ジブリ映画にもなった有名な作品がジブリとは関係なくミュージカルになった際の曲だよ。発売は一九九三年。キキ役は工藤夕貴、赤坂はボーイフレンドのトンボ役だったそう。作詞作曲の阿木と宇崎は夫婦で、七十年代を代表するヒットメーカーでもある。曲自体はそこそこ勢いがあって、プレイボーイ的な歌詞はイメージにも合っているんじゃないかな。でもトンボってどんなキャラだっけ?」
「ついでにカップリングは同じメンバーによる『さよならなんて言う気はないさ』」
「女性ボーカルとの輪唱が印象的な、ほのぼのとしたテンポの曲」
「そしてもう一つ、赤坂と内海がAKIEA&KOHJIという名義で発表した『Mr.Miracle』。作詞三浦徳子、作曲編曲井上日徳」
「メンバーのソロやそれに準じるシングルでは一番いい曲がこれかな。とんがりコーンのCMに使われた曲らしいけど、スピード感のあるサウンドに井上らしいギュンギュンしたギター、そして歌声も爽やかだし。ただジャケットはちょっと手抜きっぽい。赤坂の髪型もいまいちだし。とりあえずは、こんなもんかな。赤坂は解散後に出したアルバムがあって、元メンバーのアルバムでは一番聴けるのがそれ。それだけにね、彼はもっと自分を信じるべきだったとつくづく思うよ」
そのような事を語っていると敵襲を告げる警報音が鳴り響いたので渡海雄と悠宇は素早く変身してグラゲ出現ポイントへと急いだ。
「ふはははは、私はグラゲ軍攻撃部隊のクエ女だ。任務を達成してさっさと帰りたいものだ」
ゴツゴツしたルックスの女が海辺に出現した。大きくて美味しいと評判のクエだが、養殖もなされているらしい。続いて仮面を被った渡海雄と悠宇も海岸に到着した。
「出たなグラゲ軍! お前たちの思い通りにはさせないぞ!」
「随分分厚い顔をしているからあなたは寒くないかも知れないけど、悪いけど消えてもらうわよ」
「ふん、生意気な奴らめ。しかし今日で終わりだ。行け、雑兵ども!」
砂の数ほど大量発生した雑兵たちを渡海雄と悠宇は次々と打ち破り、残る敵はクエ女だけとなった。
「雑兵は片付いたし、後はお前だけだなクエ女!」
「これが実力というものよ。あなたも早く戻るべき場所に戻りなさい」
「ほざけ。私の任務はお前たちを殺す事。それを成さずして帰れるものか!」
そう言うとクエ女は懐からスイッチを取り出して巨大化した。それに対抗して渡海雄と悠宇も合体した。
「メガロボット!!」
「メガロボット!!」
いかにも分厚そうな装甲のクエロボットに対して、悠宇は一気に接近戦を仕掛けた。しかしパンチやキックは脂肪に吸収されてダメージはほとんど与えられてないようであった。
「ならば必殺技を打ち込むしかないようね」
「よし、僕の出番だな。フィンガーレーザーカッターで切り刻む!」
再度の接近に合わせて渡海雄は朱色のボタンを押した。指先から発生した十本のプラズマ超高熱線がクエロボットの全身をくまなく引き裂いた。
「ぐうっ、ここまでか」
悔しさを噛み締めつつクエ女は爆散する寸前に作動した脱出装置に乗せられて宇宙まで去っていった。かくして二人は今日も地球の平和を守ったのだった。
そう言えばWikipediaには電光超人グリッドマンという最近短編アニメにもなった特撮作品の挿入歌を歌っているかのように書かれている。一応データとしてはタイトルが『ふたつの勇気』。作詞相田毅、作曲編曲戸塚修。歌ったのはコンポイドスリーという名義のグループである。
コンポイドスリー=光GENJI説が疑わしい事は実際聴いてみたらすぐ分かるだろう。声からして明らかに別物だ。一時期はコンポイドスリーという名前を三分割してそれぞれ内海大沢諸星のページに飛ぶようにしていたが、これこそ語るに落ちるというものである。グリッドマンは一九九三年の作品だが、時期の近い「微笑みをあずけて」や「正しい冬の過ごし方」あたりを聴けば分かるがこの三人が歌ってもあんな声にはならないし、キャラクターにも合わない。
また記事の内容に関して議論するノートページにおいてコンポイドスリーについても議論がなされており、グリッドマンを制作した円谷プロに質問を送った利用者がいて「コンポイドスリーが光GENJIのメンバーで構成されているに関してですが、その様な事実はございません」「14歳前後の、歌手を目指す学生の中から選ばれた、3人の少年からなるユニット」という返事が来たようだ。これが二〇一三年。しかし未だに出鱈目な記述は残り続けている。
そもそもこれは誰が言い出したのかと変更履歴を調べたところ118.152.153.223というIPアドレスの利用者が二〇〇八年十二月十日、グリッドマンのページに書き込んだのが最初で、他の利用者が削除してもすぐ復元させるという小賢しい細工を何度も加えて定着させたようだ。また、この利用者は荒らし行為で複数回投稿ブロックされている人物である事も追記しておく。
また、これと同時期にニコニコ動画でも初めてコンポイドスリー=光GENJI説が書かれている。その動画は二〇〇七年に投稿されたものだが、それまでは光GENJIとの関わりについてのコメントは皆無であった。Wikipediaに書き込んだのとニコニコ動画にコメントしたのはおそらく同一人物であり、この人物が煙すら立っていない中から火をおこした張本人だと言える。
ただWikipediaにおいてこの利用者による編集履歴が途絶えたのが二〇一〇年だが、それ以降もデマを削除するたびに復元させる利用者が複数存在している。復元させる利用者たちの履歴を見ると最初の利用者と同じく特撮関連の書き込みが目立つので同一人物かも知れないが、本当に信じてしまっている別人かも知れない。
もっとも今時Wikipediaの記述を無批判に受け入れる人間なんているわけないと思いたいがデマも放っておけばいつしか既成事実になったりするものなので黙殺するだけでなく能動的に「これは違う」と声を上げるのも必要かと思ったので最後にグダグダと書いてしまった。愚にもつかない嘘が廃され真実が広まる優しい世界が訪れる事を切に望む。
今回のまとめ
・今回のソロ曲は似通ってると言うか華のない曲が多くて個性が足りない
・ただ爽やかさや優しさ以外を押し出すメンバーの努力は買いたいとも思う
・グループを外れたソロ活動はあまり盛んではなかったと言わざるをえない
・勘違いした結果のデマと言うより悪意があるものだと思う




