sk02 共産党躍進記念 2014年衆議院選挙について
十二月十四日、第四十七回衆議院議員総選挙が行われた。安倍政権による二年は国民にどう評価されたのかを正す選挙だが、結果はご存知の通り、安部首相率いる自民党の圧勝に終わった。
渡海雄と悠宇は年齢的に当然選挙権も被選挙権もない。ゆえにただテレビや新聞を見るだけで直接的な参加は出来なかったが、選挙カーに向かって無駄に「頑張ってー」と声をかけて「ありがとうございます」と返す反応を楽しむなどそこそこ面白がりはしたようだ。しかしそんなちょっとした非日常も昨日限り。今は二人、暖かな風呂に入りながらその日々を思い出していた。
「選挙があった日の午後八時からはどこも開票速報やるけど、色々見ながらだと番組ごとのカラーみたいなものもあって楽しめるものよね。やはりどうせ放送するんなら義務ってだけじゃなくて見せ物として面白くって姿勢は大事にしてほしいところよね」
「前も選挙について語った事あったよね」
「去年の夏頃だったわね。あれは参議院で今回は衆議院の選挙だったのよ」
「ふうん。参議院と衆議院ってどっちも国会議員なんだよね」
「無論よ。日本は両院制ってね、国会の中に二つの議会があるのよ。それが衆議院と参議院で、衆議院が任期が四年とやや短い上に時の内閣が『今こそ国民の意思を問うべきだ』と思えば途中で解散して選挙する事が出来るの。と言うか日本が今の選挙制度になってから途中で解散せず四年の任期満了まで到達したのは一回しかないからとにかく選挙は連発されてるのよね。じゃあそれによって何が得られるかだけど、平たく言うとその時その時の民意をより直接的に反映させられるわけよ」
「今回はその民意が反映される衆議院の選挙か。じゃあ参議院は何であるの?」
「参議院は任期が六年と長い上に解散もない。しかも議員の半分ずつ、三年おきにずらして選挙するから例えば今回はその場の人気でA党が勝利したとしても前回の選挙ではB党のほうが議席を多く獲得してたってなってたらA党のやりたい放題とはいかないわけよ。それに参議院は解散もないからその場の空気みたいなもので国会の力関係が急変って事もない。ゆえにその場の人気取りとかに走らずじっくり審議出来る場所、みたいなニュアンスの違いがあるわ」
「まあそうだよね。その場の人気ほどあてにならないものってないからそれぐらいのセーフティネットは必要か」
「でも基本的には衆議院のほうがメインよ。衆議院の優越ってね、例えば衆議院では可決されたけど参議院では否決された案があるとして、その場合はもう一回衆議院で採決するの。例えば法律の場合三分の二の賛成があれば可決され、それは成立となるわけ。そして何より総理大臣の指名よ。衆議院第一党の党首が基本的には総理大臣となる。二〇〇九年は民主党が圧勝したので政権交代が起こったし、二〇一二年は逆に自民党が民主党を破ったから安倍政権が発足したという具合にね」
「それじゃあ衆議院のほうが偉いわけか」
「もちろん参議院を軽視していいってわけじゃないけどまあ相対的に言うとね。だから衆議院の選挙は大事なのよ。そして今回、なぜ解散したのかって事は確かに問われたけどつまらないサイトのせいで逆にネタになった気もするわ」
「ああ、あの小学四年生になりすました奴か。最初からそういうギミックだと明かしてれば良かったのにね。それはともかく、選挙結果は自民党が勝ったみたいになってるけど、議席数はむしろ減ってるよね。これって本当に勝ったの?」
「まず第一に議員の数が減ったという事、それに同じく与党の公明党は増やしてるから総数では微増だし、そもそも前回の選挙では政権交代だ民主党には任せてはいけないという猛烈な追い風の中であの議席だったわ。今回はそこまでの風は吹いていないという印象だったし、民主憎しの期待感だけではなく二年間成し遂げた事の評価を込みで前回と同じ程度の議席数を確保したってのは安倍総理は信任された、つまり勝利と見て問題ないでしょ」
「なるほどねえ。でも一応民主党も議席数は増やしてるんだよね。まあ党首が落ちてたら世話ないけどね」
「民主党に関しては自民党とは逆に、本来は三桁行かないといけなかったのに三十議席不足という認識よ。なまじ政権取ったからその実力は皆に知られてるのが辛いところよね。『安倍政権は駄目だ、自民党は駄目だ』と唱えたところで『じゃあ自分たちはどうだったんだ?』と思われたらもう終わりだもの。そして何より民主党がまずいのは未だに総括出来てなさそうって点よね」
「総括と言うと?」
「民主党やその支持者がどう言おうが国民は『民主党政権は失敗だった』と総括してるのが現状。じゃあ何で失敗したか、今後どうすればいいかなどのビジョンが不透明、もっと言うとあまり反省していないように見えるってのはかなりのマイナスよ。野党として存在感もあまりないし、小規模な政党が色々と分立する中で今後はいかに民主党としての個性を見出すかが大事になってくるでしょうね。まあまずは党首選びから。海江田みたいな無力感丸出しなのじゃなくてバシッとした、人材はいるのかしらね」
「そう言えばみんなの党って、あれ消えたねえ。そこそこ存在感あった気がしたけど八億円熊手とかやらかして」
「存在感がなくなったって意味じゃなくて文字通り消滅したものね。そして八億円熊手の渡辺も今回落選で国会からフェードアウト。それにしてもあのネタも結構風化したわね。やっぱり政治関連の不祥事なんてありがちだけど今年は作曲家とか科学者とか派手だったから」
「ゴースト作曲家の佐村河内守、STAP細胞の小保方晴子、号泣会見の野々村竜太郎というビッグスリー」
「佐村河内はさすがに設定盛りすぎたのがまずかったわね。ルックスも含めて。で、ゴーストを務めていた新垣は知名度向上してるのもちょっと笑えるわ。まあこれに関しては耳が聞こえない作曲家が作った凄い曲って評価だったものが、その前提の前半部分がなくなっただけで凄い曲という後半部分まで失われるのかって問題もあれど、損したのは結局レコード会社と思えば大した問題でもなかったわね」
「そっちと違って笑えなくなったのが小保方問題。下手な研究ノートあたりまではまだしもやっぱ死人まで出ちゃうとねえ」
「笹井教授はねえ、惜しい人を失ってしまったわ。あの人は本当に優秀だったって言うから。そう言えば小保方も割烹着で実験とか研究室は黄色とか謎のギミックが大量に装着されてたわね。やっぱり研究自体が嘘だからああやってデコレーションするしかなかったって面もあったんでしょうけど」
「そして野々村は、完全にギャグでしょあれ。最初見た時の衝撃はかなりのものだった」
「野々村は、ふふっ、思い出しただけでももう笑いが、ねえ。他にもスマホ自演失敗で冤罪主張崩壊の片山祐輔、窃盗スイマー冨田尚弥、東京都議会のヤジ議員なんかもいたけど、この辺が余裕で霞むあたりビッグスリーの偉大さよね。全体的な流れで言うと去年の東京都猪瀬知事の借用書だのバッグだの一連の徳洲会関連の疑惑からって流れかと思うけど、謝罪になってない謝罪会見や疑惑が深まる釈明会見で笑いを生む展開が連発だったから本当に二〇一四年って臭い年だったわ」
「紅白歌合戦でも『アナと雪の女王』の歌を歌うのは偽物のほうだもんねえ。イミテーションであってもギラギラ輝いてさえいればそれで注目を集めるのがこの世界。そう言えば、野々村議員って政治的にはどういうポリシーを持ってたんだろう。選挙の時は『西宮維新の会』などと名乗って当選したらしいけど、橋下徹の政党から名前をいただいただけで無関係の別物って言うし」
「そもそも何かを成し遂げるために政治家になるってのが普通だけど、野々村議員はそれが本当にあったのかも不明だし何とも言えないわ。ああ、でもあの絶叫の中で高齢化問題がどうこうとか言ってたからその辺の考えはあったのかも。そして本物の維新の党は何だかんだで議席数はキープしたものの、本当はもっと伸びたかったはず。このままでは第三極どころか埋没しかねない中でどのように支持を広げていくか、これからが大事よね」
「それと共産党。倍増したらしいね」
「小選挙区制は基本的に二大政党化するって言うから、今までは自民か民主かって争いの中で共産党などは埋没していたけど、民主党がまずいって事が知れ渡ったから反自民の受け皿として共産党という流れが結構続いている感じね。去年の参議院もそうだったけど。まあ共産党も今までは存在自体が論外ってところがあったけど今は選択肢にはなりつつある感じはするし、うまくやってるんじゃない?」
「それまではそんな論外だったの?」
「そりゃあもう、テロリストの別名みたいなものだったし。それが今のポジションまでよくもまあやったものよね。消去法であれ、何かに選ばれるって大変な事だから。社民党なんか酷いものよ。ここも元々は自民党に対する最大野党だったものが自民党と組んで政権発足という信じられない選択肢に走った結果、どうしようもないぐらい衰えたわ。それにひきかえ共産党は一生野党だから時の政府を批判し放題かつ実力が露呈する事もない。批判に説得力があれば票だって入る。あれはあれでうまいやり方よね」
「他にも次世代だの生活だのよく分からないのがいるけど、この辺の意味不明な離合集散も面倒だよね」
「生活の党が小沢一郎の党だっけ。小沢自身はどうにか当選したけどもはや影響力は失せたし、これからは消え行くのみなんでしょうね。次世代の党は、結構ゴリゴリな人が集まってる感じね。どう見ても次世代感皆無だけど、こんなのでも国会議員送り出せたんだから立派じゃない」
「幸福実現党とか全然駄目だったもんねえ」
「まあ、あれはね。ともかく、生活の党に関しては党の意見に賛成って形と言うよりその地方における有力な人物が当選してその人がたまたま次世代の党に所属してたって程度のものかとも思うわ。こういう人達は、例えば亀井静香みたいに無所属で出馬しても受かってたでしょうし。一応議席数で言うと激減だったけど、まあむべなるかなってところでしょ。そんな器じゃないのに元々多すぎたのよ。元々は主に前回の選挙で維新の党が躍進したお陰で当選した議員が分離って形らしいけど、風がなければこれが相応の実力って事」
「社民党と次世代の党。考え方は正反対なのに獲得した議席数が同じってのも面白いものだね」
「いささか極端な主張を掲げるいわば似たもの同士、与えられるのは二議席までという民意の反映よね。まとめると、とにかく民主党の不甲斐なさよ。あれが単なる野党なら喜んでもいいんでしょうけど、政権交代を狙う二大政党の一つが七十三議席じゃあねえ。党首が落選したけどこれをチャンスにして、もっといい政党にならなきゃ流れは変わらないわ。まあ今回の選挙、基本的には安倍総理のやり方でいいって事だけど支持率をいつまで保持出来るか見ものよね。人気や期待感を維持するのは、それが虚構であるがゆえに大変よ。小泉純一郎という男などこれがとても得意だったけど、安倍はどうかしらね。ふう、色々喋ってるといささか熱くなりすぎたわ」
そう言うと悠宇はすっくと立ち上がった。余計な筋肉も脂肪もない、すらりとしなやかな四肢が青白い月明かりに照らされる。夜空に輝くオリオン座のベルトを見つめながら、しばらく世界の安寧に思いを馳せていたがすぐに寒気が全身を覆ったので慌ててお湯に飛び込んだ。
「うおっ、寒っ! 裸でちょっとじっとしてるとすぐ冷えるわ! まあ冬だもんね」
「はははっ、湯冷めして風邪引かないようにしないとね」
時は冬。体もすぐに冷える。指先が冷たい人は心が温かいなんて言うけどきっと嘘だと思う。しかし小さな暖かささえあれば、心は穏やかになれるものだ。愛もまた暖かな波長である。
ちなみに筆者は日曜日に特に何かあったわけでもないが、これも人生経験の一環と言うことで期日前投票をやってみた。あらかじめ家で選挙のはがきの裏に名前だの理由だのの欄を埋めて市役所へ。もっとも市役所でも書く場所があったのでその場で書いても問題なかったようだった。
はがきを役員の人に見せると椅子に座らされて、名前を呼ばれるまで待った。はがきは何やら判子を押している別の役員に渡されて、それがまた後ろにいる役員の渡されてここでようやく名前が呼ばれるという形になっていた。
それからはいつもの選挙と大して変わらない。小選挙区の候補者をまず投票して箱に入れる。そこから折り返して比例代表と裁判官の投票用紙を受け取って、それに書くべきものを書いてから投票箱に入れると立会人から「お疲れ様」と言われて投票は終了となる。
帰りの廊下にはずっと待機していた出口調査の人が「ご協力お願いします」と言ってたので協力してあげた。NHKと共同通信がいて、質問内容は誰に、どの政党に投票した? 普段支持している政党は? 安倍総理の評価は? といったところだった。
その中でも特に安部総理の評価に関してはNHKのほうがアベノミクスは? 外交政策は? などと詳しい設問がなされていた。回答は候補者や政党の名前、あるいは「評価する」「評価しない」などの項目ごとに数字が振られており、該当する数字に丸をつけるという方式であった。
筆者の選挙区は小選挙区制において共産党が議席を獲得した二つの選挙区のうちの一つ(今回の選挙でもう一つ増えたが)という過去を持ち、その後は長らく民主党が議席を獲得していたが前回は二百十六票差という大接戦の末に自民党が勝利したという激戦区。自民と比例で復活した民主、それに維新を含めた四人中三人が前職候補で、もう一人の共産党も土地柄からしてそれなりには票数獲得出来るだろう。とにかく今回も混戦と目されている。
そして結果、やはり接戦になったものの自民が逃げ切った。地元の新聞のホームページで当選確実のニュースが配信されたのは二十三時二十分。民主とは最終的に四千五百票ほど差がついており、前回よりは票数が開いていた。そして共産が三位、維新が最下位となった。
それにしても自民党はうまく見つけてきたものだ。名前がちょっと似てる上に、民主は七十年代生まれでかなり若いほうだが自民はさらに若い八十年代生まれをぶつけるというアグレッシブさ。しかも連続当選だから見事な戦略。
このまま自民の牙城となるのか、民主の巻き返しはあるのか。最初から結果が決まっていない選挙区にいるってのは幸いだと思う。ともかく、しばらくは国政選挙もないし、安倍政権がどれだけやれるかを注視していきたい。
今回のまとめ
・自民党安倍政権は一応信任されたと言える
・一方で共産党も伸びたという現実もある
・これも大体は民主党がしょうもなかったのが原因
・政治とて恐れず嫌わず真剣に楽しめればそれが一番




